第12話 ソルジャー少女が襲って来る
月人が今日から通う多日(たび)高校(こうこう)の入学式が終わり、月人が中学時代の友人達とたわいもない話をしていると突然、後ろから鋭い殺気が飛んで来る。
後ろを向くと小柄でショートヘアーの女子が自分の事を鋭い目つきで凝視し睨んでくる。
「どうした月人?」
「いや、なんでもない」
月人は疑問に感じながらも、無視を決め込むことにした。
放課後、月人が家に帰る途中、後ろから彼を呼び止める少女の声に振り返る。
見るとそこには先ほど自分を睨みつけていた少女が立っている。
小柄、ショートヘアー、童顔、とてもではないが自分と同い年とは思えない、小学生と言えば信じる人も一〇人に七人はいるだろう、その少女が叫ぶ。
「私の名前は立花(たちばな)美咲(みさき)、私がソルジャーになるため、あなたには死んでもらいます!」
ソルジャー、モンスターの存在が人間達に知られないようにすると同時に人に有益なモンスターを保護し害をもたらすモンスターを殺すことを仕事とする、モンスターと戦う術をもった人間達のことで普通は高い霊力を持った者がなる。
美咲は腰元に手を伸ばし、剣を抜く動作をする。
不可視(ふかし)魔法、術者と一定の霊力を持つ者意外にはその存在を認識できなくなる術でソルジャーがモンスターと戦うための武器を一般人に見られないよう使うのだが月人には当然見えている。
教室でも気付いていたが特に気にすることもなかった。
なぜなら彼が狩られる理由は無いからだ。
美咲は月人に斬りかかるがあっさりとかわされる。
「おいおい、俺は危険度Cだから人に危害を加えない限り殺されないはずだぞ」
「ふえ!? そうなの!?」
美咲の驚いた表情に月人は額に手を当て大きなため息をつく。
「あのなあ、お前俺の危険度も知らないで襲ってきたのか? だいいちモンスター倒す時は全体不可視魔法使わないとまずいだろ?」
全体不可視魔法とはソルジャーがモンスターと戦うときに辺り一面にかける術で風景は見えるが自分とモンスターの姿、音を周りの人間に認識できないようにし、一定以上近づくと無意識的にそこを避けて通るように仕向けるものだが美咲はそれをしないで月人に襲い掛かってきた。
これでは月人を殺せても周りから見れば美咲はただの人殺しで殺せなくても精神異常者と思われてしまう。
自分のミスを的確に、それも次々と指摘され、美咲は気まずそうに笑いながら赤面した。
「そういえばソルジャーになるためにってなんだ?」
「えっとね、ソルジャーになるには、ソルジャー協会に行って試験を受けなきゃ駄目なんだけど、一人でモンスターを倒してそれを証明できたら無条件でソルジャーになれるの」
「そういえば父さんがそんなこと言っていたなぁ……」
月人の両親、夜王(やおう)和人(かずと)と妻の美月(みつき)は亜人種(モンスター)だが精神テストや戦闘能力、そして全てを総合してだされた有用性からソルジャー協会に所属し、その収入で月人(つきと)と夜風(よるか)を養っているのだ。
当然、人間界に暮らすモンスターである以上、月人もソルジャーになるつもりで近いうちにテストを受ける予定だ。
「でもお前、俺を倒すって、この剣、全然霊力こもってねえぞ」
月人は抜き身の剣の刀身部分を素手でつかむが彼の手はなんのダメージも受けない。
普通の生物をはるかに超える身体能力と強靭な肉体を持つモンスターの体を傷つけるには銀で出来た武器か自分の霊力をこめて攻撃力を上げなければならないが美咲の持つ剣にはソルジャー用の武器のため、剣自体にある程度の霊力があるものの美咲自身の力は込められていない、これではそこらへんの低級霊は倒せても並み以上のモンスターを傷つけることは無理だろう。
美咲がどうやって霊力を込めるのかを聞くと月人がそんなことも知らないのかとあきれ返る。
彼女の話では父は自分がソルジャーになる事にあまり賛成しておらず、モンスターとの戦い方はほとんど教えてくれないらしい。
月人が再びため息をつき、仕方ないという感じでやり方を教える。
「じゃあちょっと、胸の辺りに水の塊があって、そこから手に向かって水が流れ込むような映像をイメージしてみろ」
美咲は頷き、言われとおりにする。
「あっ、なんか手に溜まってきたかも」
「じゃあ今度はそれが剣を包み込んでそのまま剣の中に染み込むような感じにしろ」
美咲が言われたとおりにすると剣の輝きが先程よりも美しくなり、空気がピンと張り詰めたように感じる。
「すごい! 霊力ってこうやって込めるんだね! 知らなかった――」
「……」
やり方は間違っていない、だがこれを一回で成功させたという事実からもしかすると美咲には才能があるのではないかと月人が思い始めると美咲はハッとする。
「モッ、モンスターに戦い方教わっちゃった!」
美咲は転びそうになりながらバタバタとその場から走り去った。
「……やっぱ気のせいか」
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