第11話 月人の記録1



 本当の事を言えるのは家族だけ、先生にも、友達にも、みんなにあたしは本当の自分を見せたことが無い、偽り続けた一六年、だって普通の人に知られちゃいけないから……。



 二〇六六年、目覚し時計の音で和人(かずと)は目を覚ます。

横には先ほどから自分が起きるのを待っていた美月が笑いかけてくる。そう、二人は同じ布団で寝ていたのだ。


「おはよう、和人君」

「おう、もう朝か、つうか起きてるなら起こしてくれよ」

「だって時間ギリギリまで寝かせてあげたかったから」

「目覚ましに起こされるのとお前に起こされるのとじゃ寝覚めの良さが全然違うんだよ」


 そう言って和人は可愛く笑う美月を抱き寄せキスをしたあと布団から抜け出し服を着てキッチンに向かった。


 二人ともキッチンに行くと美月は朝ごはんを作り始め、和人は準備だけ手伝うと食卓テーブルのイスに座りニュースを見る。


 一〇分もすると一人の少女が居間に現れる、夜王家の長女、夜風(よるか)だ、女性にしては高めの身長にロングヘアーが似合う美人でどちらかといえばかわいらしい雰囲気を持つ美月とは対照的だがおそらく和人の遺伝だろう。


「お父さんおはよう、……月人(つきと)はまだ?」

「俺ならここだよ」


 夜風が振り返った先にパジャマ姿のままの弟が立っている。

夜王家の長男、夜王月人(やおうつきと)だ。


 見た目は和人とよく似ているが同じ年のころの和人と比べれば月人のほうが顔に幼さがある、この辺が美月の遺伝だろう。


 これで現在、家にいる夜王家の住人が全員そろったわけだが他人から見るとかなり違和感のある光景だ。


 なぜなら両親が若すぎる。人狼や吸血鬼の老化速度は人間の半分、和人と美月は今年で四一歳を迎えるが体はまだ二〇年分しか老化していないため、顔つきや体つきなどの細かい部分が大人びているが見た目は高校生の時と大差はない。


 ただ老化は半分だが成長速度は人間と同じ、よく勘違いしている人がいるが成長と老化は別、人間は常に成長しながら老化しており、成長が止まると老化だけになるため体力が一気に落ちるのだ。


 そのため二〇歳までは周りの人間と同じように姿が変わるので夜風も月人も歳相応の姿になるから不自然ではない。


 と言っても二人ともまだ一〇歳分も老化していないので周りからよく子供みたいな肌だと言われる。


 老化が半分ならやはり亜人種は長寿なのだろうかと思う者もいるが心臓が脈を打つことが出来る回数は人間よりも少し多いぐらいなので寿命は人間と同じ一二〇歳が限界だ。


 ただ老化が遅く、生命力が強いのでケガや病気で死ぬ者もほとんどいない結果、一〇〇年以上生きる者が多いので昔の人間達が亜人種は長寿なのだと勘違いをしただけで彼らの寿命は人間と変わらない。


「月人、お前今日から高校生だろ、いつまでも寝てないでさっさと起きる習慣付けろ」


 しかし月人はテーブルに着くと和人に反論する。


「人狼(ウェアウルフ)と吸血鬼(ヴァンパイア)の間に生まれた生粋(きっすい)の夜型生物に無理言うなよ、だいいち、父さんだって息子の歳を考えてやることがあるだろ」


 何かあるのかと不思議そうに尋ねる和人に月人は苛立ち怒鳴る。


「俺が言いたいのはこの馬鹿みたいな写真をどうにかしろってことだ!」


 月人が指を指した方向にあるのは写真立てに飾られた和人と美月の写真、ただし現在ではなく高校生の時のと大学生の時、結婚した時の物と夜風が生まれた時、月人が生まれた時の物と順々に並んでいる。


「息子が高校生になって未だにこんな写真飾る親が異常じゃなくてなんなんだ!? うちに来た友達全員ドン引きなってんだよ! 父さんいつまで母さんと恋人気分でいるつもりなんだ!?」


「うるせえどうせ俺達は老化が遅えんだ! 俺は八〇歳まで現役続けるからな!」


「現役ってなんの現役だよ!? このエロ親父が!」


「てめえ親に向かってなんだその口の利き方は! 心臓えぐってやるからかかってきな!いつもどおり銀の弾丸使っていいぜ!」


「はっ! 父さん程度に銀の弾丸なんかいらないね! そっちこそ銀の剣(つるぎ)使ったほうがいいんじゃないの!?」


「後悔すんじゃねえぞくそガキが!」


「ヤル気か犬コロ!」


 二人が激しく争う横で夜風が冷静にコーヒーのおかわりを美月に頼む。


「だいたい昔の写真を飾るなんて他にもやっている家があるだろ!? 俺は異常じゃねえ! それとも、他に何か問題でもあるのか?」

「うっ……それは……」


 和人の問いに月人は気まずそうに目をそらし、そのまま視線を母親である美月に向ける。


「んっ、お母さんがどうかしたの?」


 なんの悪気も無くそう言う美月からさらに視線をそらし、今度は和人と美月が一緒に写っている高校生の時の写真を見る。


 高校生の時の美月、彼女は娘の夜風同様、長く美しい髪が印象的である、なのに今の美月は髪を短く切り、ショートカットを守り続けている。


 月人は、ちっ、と舌打ちをすると「もういい」と言って朝ごはんを口の中にかき込みさっさと学校へ行ってしまった。

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