第26話 二口女

「ウソ!? 結衣ちゃんモンスターだったの!?」

「お前本当に気付いてなかったんだな……っておい」


 見ると美咲は結衣の後ろに回りこみうなじの辺りを触り出す。

「ちょっ……美咲ちゃん、なにを!?」

「あれー?口がついてないよう、二口女はうなじに口がついてるんじゃないの?」


 月人が額に手をつきやれやれと応える。


「お前本当に何も知らないんだな、本当にソルジャーになる気あるのかよ、あれは人間達の創作で、実際の二口女は髪で食べるんだよ」

「髪?」

「つまりこういうこと」


 月人がポケットからチョコレートを取り出し投げると結衣の髪がそれを空中で捕らえ、チョコを包み込む。


 髪は少しの間、もぞもぞと動いていたがしばらくすると掴んでいた物を離すような動きをするがチョコレートは完全に消えてなくなっている。


「なくなっちゃった!?」


 美咲は驚くと珍しそうに結衣の髪の毛をいじりながらどうなってるんだと考えるが途中で別の疑問が美咲の口を動かす。


「あれ、でも今まで結衣ちゃんからモンスターの気配感じたことないよ、霊力も普通だし」

「二口女は髪を動かさない限りは普通の人間と変わらないし霊力も普段は極端に押さえられているからプロのソルジャーでも見分けは難しいんだよ、まあ、俺みたいに嗅覚の発達した奴なら話は別だけどな」


 その言葉に結衣が夜王に問い掛ける。


「そういえば夜王君もモンスターなんですよね? 嗅覚ってことは人狼(ウェアウルフ)ですか?」

「サンカクだな、俺は人狼(ウェアウルフ)と吸血鬼(ヴァンパイア)のハーフだ」

「!?」


 結衣の目が大きく見開かれ、すぐに表情が曇る。


「その……割合は?」

「ちょうど半々だ」

「最強……混合種……」


 結衣がそう呟くと月人も顔を曇らせ言う。


「そうだ、別名、災厄種……知ってるんだな」

「……ええ」


 暗い顔で月人と結衣が視線を絡ませあうと美咲が「どうしたの」と聞き、二人がなんでもないとその場を誤魔化すと美咲が新たな疑問を結衣に投げかける。


「でも結衣ちゃんモンスターなんでしょ? なんで人間の男の子を好きになったの?」

「そっ、それは……」


 結衣が赤面し、恥ずかしそうにうつむき返答に困っていると月人が助け舟を出す。


「別に間違ってないぞ、むしろ二口女は人間と結婚するのが正しい」

「正しいって、二口男はどうするの?」

「あのなあ、お前二口男なんてモンスター聞いたことあるか?」

「そういえば……ないです」

「二口女っていうのはな、その名のとおり、女しかいないんだよ」

「おっ、女の子だけ!?」


 美咲の無知さに呆れながら月人は続ける。


「つまり二口女は他の種族、特に人間の男と結婚して、生まれてくる子が男なら夫の種族、女なら二口女が生まれるんだよ、まあ、人間の男は大抵、奥さんと娘がモンスターってことに気付かないで一生を終えるのが多いんだけどな……でも理由は重要だぞ、なんでそいつのこと好きになったんだ?」


 それを聞くと結衣は恥ずかしそうに下を向いたまま説明を始めた。


 彼女の話では結衣が人間でないことがバレないようにできるだけ人との接触を避けていたが性格が暗いという理由で周りの生徒から虐められていたらしい。


 だが同じくいつも虐められていた浅野真二だけはいつも一緒にいてくれたうえ、自分が虐められていると必ず助けれくれた。


 と言っても一方的に倒されて終わりだがそれでも彼のおかげでそういった時は彼女への被害が最小限に押さえられていたので例え負けても結果的には彼女を助けたことにはなる。


 それを聞くと月人は漫画みたいな話だと怪訝な顔つきになるが美咲は一人で自分もそんな恋がしたいとひたすら憧れていた。


「っで、夜王くん、どうしたらいいと思うの?」


 美咲の問いに月人は「うーん」とうなり、少し間をおいてから。


「お前ならその胸押し当てれば落ちるだろ」

「!?」

「そういうこと言わないの!」


 結衣は驚いてさらに顔が赤くなり、美咲は再び月人に向かって足を振るが月人はまたひらりとかわし、美咲は転んで床に後頭部を強打して痛みでその場にごろごろとのたうちまわった。

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