第25話 月人の記録弐
ずっと前から好きなのに……ずっと一緒にいたいのに……ただ、自分の気持ちを言うのが恐かった。
人狼(かずと)と吸血鬼(みつき)の息子、夜王月人(やおうつきと)は錆びた階段を上り、多日(たび)高校の屋上へと向かう、昼休みではなく放課後にだ。
他の階に行くための階段とは違って金属性のため、一歩進むたびにカンという音がする。
月人なら音を出さずに登ることもできるがわざわざそんなことをする必要はない。
「ったく、放課後にこんなとこに呼びつけやがって……」
月人は悪態をつきながら屋上の扉を開ける。すると待っていたのは月人を呼び出した張本人、立花美咲ともう一人、美咲の横に腰まで伸びたロングへアーが印象的な綺麗な顔立ちの女子が立っている。
「遅いよ月人くん、一〇分前行動って親から言われなかったの?」
「いや、それは親じゃなくて先生から言われるもんだし放課後屋上に来るよう言われただけで時間とかねえだろ」
月人の当然の指摘を無視して美咲は隣の女子に「男って時間にだらしないね」と小さな声で言うが吸血人狼(ヴァンパイアウルフ)の月人には丸聞こえだ。月人はこめかみをピクピクと痙攣させながら「なんのようだ」と美咲に問う。
「ああそうだった。その前に紹介するね、この子はあたしの小学校からの友達で差江島(さえじま)結衣(ゆい)ちゃん」
「どうも、差江島結衣です……」
明るい美咲とは対照的に結衣は物静かで消極的な印象を受ける、月人に対しても人見知りするほうなのか、なかなか目を合わせようとはしない。
「それでね、結衣ちゃん今気になる男の子がいるみたいだから協力して欲しいの、まずどうやったら男の子が喜ぶか教えて欲しいんだけど」
「ちょっとまて、なんで俺がそんなことに協力しなきゃいけないんだよ?」
「なんでって、あたし達友達でしょ!」
「うわっ、命狙ってるクセにずうずうしい」
「とにかく」とおいて美咲が結衣に月人をどう使ってもいいからなどと説明し、月人が「友達に普通剣で斬りかかったりしないぞ」と注意するが当然の如く美咲の耳には聞こえない。
「おーい、聞こえてるかーー?」
月人を無視して。
「というわけで、結衣ちゃんの恋が成就(じょうじゅ)するまで協力してもらうからね」
「もらうからねって、そんな明るく、ったくしょうがねえなあ……」
月人が大きなため息をついて視線を落とすと細く、華奢な体には似合わない人並み以上に発達した結衣の胸元が月人の視界に入り、視点を右に動かすと結井の胸から見ればかなり控えめの美咲の胸が視界に入り、月人は「ふっ」と小さく笑う。
「なっ! どこ比較してんの!」
美咲が月人の足を蹴ろうと足を振るが月人はそれをひらりとかわし、勢い余って美咲はうしろに転倒する。
「あの、何をしているんですか?」
不思議そうに尋ねる結衣に月人は「ナイチチのひがみだ」と応え、美咲が起き上がりながら「人並みにはあるもん!」と反論するが月人はあっさりスルーし言う。
「つうかこいつ二口女だけどお前昔からモンスターと友達だったのか?」
「はい?」
美咲の間の抜けた声に月人は頭をがしがしと掻く。
「気付いてねーのかよ、おい、差江島とかいったな、ちょっと見せてやれ」
結衣は月人に正体を見破られ少し戸惑った様子だが美咲と視線が合うと申し訳なさそうに下を向き「わかりました」と言って意識を髪に集中させる。
その途端、結衣の髪が長く伸び、生き物のようにうごめき、美咲が驚きの声を漏らす。
「ウソ!? 結衣ちゃんモンスターだったの!?」
「お前本当に気付いてなかったんだな……っておい」
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