第2話 二人だけの秘密の関係
少年はベンチで介抱するとすぐに目を覚ました。
疲れた顔で起き上がる少年に少女は自分を責めるように謝罪をした。
「本当にごめんなさい! あの、あたし……」
心配のあまりパニック状態になっている少女を見て少年は気にするなと言うと質問をする。
「お前、いつも人の血、吸っているのか?」
その質問に少女は手を顔の前でぶんぶんとふり否定する。
「そんなことしないよ! ただ今日は血液パック忘れてきちゃって、そういえば体は大丈夫?」
「まあな、人間だったら即死だな」
その返答に疑問を感じ少女が問う。
「人間?そういえばあたしの正体にも気付いていたみたいだし、もしかしてあなた……モンスター?」
「あたりまえだろ、これだけ血を吸われて生きてる人間がいたら見てみたいもんだぜ、俺もお前と同じモンスター、人狼(ウェアウルフ)の夜王(やおう)和人(かずと)、お前は?」
「あたしは吸血鬼(ヴァンパイア)の夜主美月(よるぬしみつき)、家族以外の亜人種(デミヒューマン)に会ったのなんて初めて、なんかうれしい」
うれしそうに笑う美月の顔を見て和人は純粋にかわいいと思い、見入りながら彼女に問い掛ける。
「でも毎日これだけ吸わないといけないなら血液パックもすごい量だろ? 今までよくみんなにバレ無かったな」
「あっ、違うの、いつもは一〇〇ミリリットルぐらいあれば足りるんだけど、その……和人くんの血があまりにもおいしかったからつい飲みすぎちゃって、もうやみつきになりそうだよ」
そこまで聞いて和人は大事なことに気がつく、吸血鬼(ヴァンパイア)に噛まれる。冷静に考えればそれこそ大問題だ。
「なあ、お前に噛まれたっていうことは俺も吸血鬼(ヴァンパイア)になるのか?」
美月は再び手を振って否定する。
「あっ、それは大丈夫、吸血鬼(ヴァンパイア)化させるかは自分で決められるしモンスターが相手の場合は数時間で効果が切れて完全に吸血鬼(ヴァンパイア)化はしないの」
それはよかったと和人が胸をなでおろし大きく息を吐き出すと同じ亜人種(デミヒューマン)として持っているであろう共通の悩みついて聞くことにした。
「やっぱりお前も人間じゃないの隠すのに苦労してんのか?」
そう、いくら変身しないかぎり見た目が人間そっくりでも和人はまぎれもなくモンスターである、その身体能力は人間とは比べ物にならないほどに高い、普段は人間の領域まで加減した運動能力しか発揮しないようにしているが感情的になり、本気で力を振るってしまえばそれこそ自動車の一台や二台は軽く吹き飛んでしまう。
もちろん人間を殴れば対象の肉体は粉々に砕け散ってしまうだろう、亜人種中最強種の人狼でなくともモンスターである以上、人間をはるかに超えた身体能力を持つため、亜人種達は幼い頃から力のコントロールと怒らないよう感情を制御するのに苦労する。それは吸血鬼の美月も同じはずだ。
「うん、感情や力のコントロールは当然だけどやっぱり血液パックがね、いくら量が少なくてもみんなに見られないように鞄から取り出してトイレに行ってこっそり吸うのが大変で……」
美月の言葉に和人ははっとする、そうだ、人狼は人間を食べなくても普通に食物を食べれば補えるが吸血鬼の血はそうはいかない、吸血衝動を抑えるためにこっそり血を吸わなくてはいけない分、美月は自分以上に苦労しているのだ。
「なあ、そんなに俺の血おいしかったのか?」
「えっ!? う、うん、本当に今まで飲んできた人間の血なんかより全然、あたしも人狼の血がこんなにおいしいなんて知らなかったよ」
美月の感想に和人は何か特別な思惑があったわけではなく、ただ困っている人を助けたいという子供の発想を述べた。
「だったらさ、明日から俺の血、吸うか?」
「えっ!?」
一瞬、美月の顔が硬直する。
「だからよう、お前も同じ多日(たび)小学校(しょうがっこう)の生徒なんだろ? 昼休みになったら俺の血を吸うんだよ、そうすれば血液パック持ってこなくていいから隠す手間がはぶけるし吸血鬼と同じで人狼(ウェアウルフ)の体も大抵の傷はすぐに治るから噛み跡も残らない、なによりもうまい血が毎日飲めるしお前もそっちのほうがいいだろ?」
「でっ、でも、そんな毎日飲んでたら和人くんの体が……」
戸惑う美月に和人は優しく告げた。
「そのへんは安心しろ、人狼(ウェアウルフ)はどれだけ血を失おうと一晩寝れば全快しているしさっきみたいによほど大量に吸わない限り倒れたりもしない」
美月は少しの間、複雑な顔で下を向き色々と考えていたがやがて和人を見上げる。
「本当にいいの?」
和人がうなずくと美月は無邪気な笑顔を浮かべうれしそうに「ありがとう」と言って和人の手を握る。
こうして夜の王(ウェアウルフ)と夜の主(ヴァンパイア)と奇妙な吸血関係は始まった。
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https://dengekionline.com/articles/127533/
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