第16話 自分の命を狙う奴を守る少年
「……かっこいい……」
「は?」
「えっ! あっ、うん、大丈夫だよ」
筋肉質で締まった体、雄雄しい翼に口の隙間から見え隠れする鋭く白い歯に赤い真紅の瞳、そして食人死人(グール)と巨大砂蚯蚓(サンドワーム)を瞬殺した強さ、美咲は月人の姿に一瞬見惚れて我を忘れていた自分を心の中で責めながら月人に問う。
「そ、そういえば今の火何? 月人くんあんなの使えたの?」
「んっ? そういえば属性変化と攻撃術は説明してなかったな、単純な話だよ、手に集めた霊力の質を変化させて放つと……」
月人が地面に手をかざすと手からコンクリートに向けて光りが照射され、コンクリートの表面が傷だらけになる。
「そして圧縮してから放つと……」
月人の掌から今度は光りの玉が放たれコンクリートに当たるとコンクリートはえぐれ、バレーボールぐらいならまるごと入りそうな穴が空く、それを見ると美咲は子供のようにはしゃぐ。
「すごいすごい! 夜王くん、明日はこれも……」
美咲の口が止まる。彼女の眼は月人の翼に向けられ、少し寂しそうな顔をする。
「やっぱり、月人くんてモンスターなんだね、吸血鬼(ヴァンパイア)かな……?」
「……確かに俺はモンスターだけど、吸血鬼(ヴァンパイア)じゃない、正確には人狼(ウェアウルフ)と吸血鬼(ヴァンパイア)のハーフだ」
美咲は「そう」と応えるて下をうつむき何も言わなくなる。
「立花?」
「……その……夜王くんて、見た目、人間だし、いつまでたっても人を襲わないから、もしかして人間だったりして、とか思ってたんだけど、じゃあ、あたし達いつか戦ったりするのかな?」
化物(モンスター)や兵士(ソルジャー)の存在は一般人(ノーマル)に知られてはいけない、今まで家族以外に関係者がおらず、学校の友人にもずっと言わずにいたが家族以外で初めてモンスターやソルジャーについて話せる月人に会って美咲は心のどこかで友達になれると思っていた。
ソルジャーになりたがるのも話の通じる友人が欲しかったという部分が大きい。
でもモンスターとそのモンスターを倒すソルジャーとでは友達にはなれないのだろうかという疑問が美咲を悩ませる。
まるで親に置いていかれた子供のように寂しそうな美咲の姿に月人は目を細め、柔らかい眼差しを向けて美咲の頭をなでる。
「やっぱり、思っていたとおりだな、ソルジャーの仕事はモンスターを殺すことじゃない……」
「えっ?」
美咲が顔を上げると月人は頭から手を話し、優しく語る。
「世界には数え切れないほどのモンスターがいる、そのほとんどはモンスターの国に住んでいるけど中には俺みたいに人間の町に暮らす奴もいる、ソルジャー協会と亜人種(デミヒューマン)協会との間に結ばれた条約でモンスターは必要以上に人間に干渉しないことになっているけど、中にはさっきみたいに人間を襲う奴や、知能が低くて人間界に迷い込んじまう奴もいる。だからソルジャーの仕事は人間を襲うモンスターだけを殺して、あとは保護したり、モンスターの国に送り返したり、協会も俺達みたいに人間界で暮らすのを望むモンスターの戸籍を作ったり社会にバレないようサポートしてくれたり、つまり……」
月人は美咲の両肩に自分の手を置く。
「ソルジャーは人とモンスターが共存できるよう働く者なんだよ、お前の言っているモンスターを全部倒すっていうのは殺し屋(キラー)っていう連中でソルジャーとは関係ない、立花……お前はソルジャーとキラー、どっちになりたいんだ?」
月人の優しい声が美咲を暖める。美咲は顔をほころばせ嬉し涙を流し言う。
「やっぱりあたしはソルジャーになりたい、夜王くん、これからもよろしくね」
月人が笑顔で「まかせろ」と言うと美咲は握り拳を作って言った。
「そしていつか夜王くんを倒せるぐらい強くなるから覚悟してね」
月人の額に青筋が浮かぶ。
「アホかぁあああ!」
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