第15話 遭遇


 駅の近くに通っている大きな道路、そこで少女とモンスターは戦っていた。


 人々は家の中に入り、通行人や車は一人もなく、部屋の窓から明りが漏れているのに誰も窓からその様子を見ようとしない所を見るとちゃんと全体不可視魔法を使っているようだ。


 月人は一軒の家の屋根からその様子を眺める。自分から戦術を学んでおきながら自分を殺すのを目的とする少女、立花美咲と向かい合う敵、一見すると人のようにも見えるが口からよだれを垂らし、獣のようにうなっている。


 食人死人(グール)、普段は人のフリをしているが夜になると人を食らう、町の中では最も多いモンスターだ。


 人のフリをしている時は霊力を感知しずらいので協会も頭を悩ませている。


 まだ剣技を習っていない美咲は剣をただ振り回しているだけのうえに恐怖で腰が引き、今にも泣きそうな顔をしている。


 月人はどうせすぐに美咲が逃げ出すだろうと思い、黙って眺め続け、助けようとはしない。


 食人死人(グール)は最初、美咲の剣を警戒していたがそれがたいした危険性がないとわかると徐々に美咲を追い込んでいく。


「あの馬鹿、さっさと逃げろっての、自分の実力分かってるのか?」


 次の瞬間、食人死人(グ―ル)の口が耳まで裂けて鋭い牙が生え、目が少し飛び出しカメレオンのようにギョロギョロと動く、完全な食人形態だ。


 その恐ろしい姿に美咲は腰を抜かし、その場に座り込んだまま剣を握るが彼女の顔は完全に化物に怯える少女の物で涙を流しながらカチカチと歯を鳴らす。


 食人死人(グール)が牙を鳴らし美咲に飛び掛る。


「あんのバカが!」


 月人の服の後ろにある二つの切れ込みからコウモリのような翼が、口からは鋭い犬歯が生え、瞳の色が黒から赤へと変わると月人は弾丸のような速度で飛び出し、そのまま美咲に飛び掛った食人死人(グール)を蹴り飛ばす。


 足が体を貫き食人死人(グール)の体はバラバラに飛び散った。


 それと同時に物陰から別の食人死人(グール)が飛び出すが月人はすでに倒す準備を完了させている。


 いつのまにか彼の右の掌(てのひら)にはバスケットボールサイズの火球(かきゅう)があり、月人はそれを食人死人(グール)にぶつけ、食人死人(グール)は全身が燃え上がり苦しみながら徐々に動かなくなる。


「や、夜王くん? あ、ありがとう」


 美咲がお礼を言うと月人はキッとにらみ怒鳴る。


「バカッ! なんでさっさと逃げないんだ!? 俺がいなきゃ死んでたかもしれないんだぞ!」


「ふえ!? だ、だって、モンスター倒せばソルジャーに……」


 溢れんばかりの涙を目にためながら説明する美咲に月人は頭をかきながらやれやれと応える。


「ったく、戦闘力よりもその性格なんとかしたほうがいいな、見た目がグロテスクな奴や強い覇気を持った奴が相手でも戦えないとソルジャーは……」


 そこまで言って月人の言葉が止まる、地面が少し揺れている。


 月人は美咲を下がらせると高く跳び上がり、同時に地面を突き破り巨大なイモ虫が這い出してくる。


 砂漠に多く生息するミミズのように目を持たないモンスター、サンドワームだ。


 月人は再び掌に火球を作り出すと飛び上がり、上空からそれを投げつけ、巨大砂蚯蚓(サンドワーム)は熱で苦しみながら地中に戻ろうとするが月人は手刀(しゅとう)を叩き込み、体の中に直接炎を送り込んで巨大砂蚯蚓(サンドワーム)を内側から焼き殺す。


 瞬殺とはこのことだろう、月人は翼をはばたかせながらゆっくりと降りてくると美咲の心配をする。


「大丈夫か美咲?」


 月人の問いに美咲は呟く。


「……かっこいい……」

「は?」

「えっ! あっ、うん、大丈夫だよ」

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