第20話 捜索
午後九時、暗い空には星が散りばめられ、黄色い月が人間達を見下ろす。
夜王和人(かずと)と夜主美月(みつき)は町田美紀(みき)の家の前に立ち尽くす。
「人狼と吸血鬼(おれら)の嗅覚なら人間一人ぐらい簡単に見つかるだろ、っで、どれがあいつの匂いなんだ? 俺よりお前のほうが付き合い長いんだ、お前の記憶のほうが確かだろ」
「うん、ちょっと待ってて」
美月は少しの間、その場の匂いを嗅ぐと応える。
「わかった、三番目くらいに強く残っていて、少し猫の匂いが混ざったのが美紀の匂いだよ」
「ああ、やっぱりこれか、じゃあこの匂いたどっていくか」
二人は一番新しい美紀の匂いを頼りに歩を進めていくが途中で二人は違和感を覚える。
匂いがだんだん薄くなっていくのだ。美紀の匂いから確かに家からこの方向に向かったはずである、なのに新しく通った場所ほど匂いが薄くなるというのはおかしい、やがては吸血鬼(みつき)の嗅覚では何も感じなくなり人狼(かずと)の鼻だけで美紀の足取りを追った。
数分後、匂いが薄くなっていることもそうだが二人はその方向に気付く。
「……学校?」
美月が疑問の声を漏らし、和人は舌打ちをする。
「駄目だ、俺の鼻でも匂いが感じられねえ、あいつの霊力は一般人と変わらねえから霊力追うのも……」
そこで和人の言葉は止まる。
「どうしたの?」
「やっぱりこの学校変だ、事件が起きる前はこんな匂いはなかったぞ」
二日前に学校で感じた違和感、それは学校には存在しえない匂いだった。
でもそれはあまりに微弱すぎてどこが発生源かわからない、すると和人は突然獣のようにうなりだし、同時に和人の顔に黒い毛が生えそろい、口は長く伸びて鋭い牙が生え、頭部だけが完全な人狼(ウェアウルフ)になる。
「これならわかりそうだな」
和人は美月に匂いのことを説明するとその匂いの根源へと歩いていく。
学校の裏は深い森になっている。和人と美月はその森の奥へと進んでいく、生徒は立ち入り禁止になっているほど深い森で入って数分、もうここが街の中だと思う者はいないだろうというような秘境に辺りを包まれる。
辺りの暗さから来る不安で美月は和人に寄り添うようにして歩くこと一〇分、木のない、空間に出た。
広さは教室の二倍、その中心に一本の巨木が生えており、その木の根元には消えた生徒達が眠っていた。
「美紀!」
美月がそう叫んで美紀に駆け寄り、生きていることを確認すると安堵した顔で美紀の名を呼び、その姿に和人も安心して人間の姿に戻ると視線を美月から巨木へと移した。
「さてと、あとはこの木だな」
和人の感じた匂いの根源、和人は木を触り、正体を探ろうとするがそれほど博識でない和人に木の正体はつかめず美月に助けを求めた。
「美月、こいつの正体わかるか?」
「ちょっと待ってて」
美月は美紀をその場に寝かせなおすと和人の代わりに木を調べ始める。
「これは幻想植物の一種ね、別に危険はないけど辺りの人間を誘い出す効果があるの、ただ問題なのはその方法で、この木が発している匂いを嗅いだ人は眠るとこの木のところに行きたくなって、無意識のうちにここへ来ると完全に眠ってしまうの、この木と魂を繋ぐわけじゃないから感染した人を見ても分からないし、自分の意思で行くから操られてこの木に向かっている途中の人を見ても分からないの」
「じゃあなんで学校中の奴がこなかったんだよ?」
「この木の効果は心が極端に弱っている人にしか効かないの、美紀は飼い猫が死んじゃったから……」
美月が少し悲しそうな顔する、それで和人も黙ってしまったが美月が続けた。
「でも変ね、この木の効果範囲なんてせいぜい周囲二〇〇メートルが限界なのに、どうして学校のみんなが? それにこれ、最近植えられてばかりみたい、誰がこんなことを?」
ここから学校までは確実に一キロメートル以上離れている、とてもではないがこの木の影響があるとは思えない。
二人が何故だと頭を悩ませているとそこへ、冷たい、男の声がする。
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