第38話 和人の記録参

  たとえどんな結末が待っていても一緒にいたい、私はどんなに辛くてもいい、どんなに苦しくてもいい、ただ、和人君が愛してくれたらそれでいい……。




 黒塚(くろつか)奏蓮(そうれん)との戦いから一週間後、先生達の都合で午前授業で終わった日の放課後、和人と美月は街の喫茶店でデート中、といっても和人の顔色は悪く、テーブルに突っ伏しうなだれる。


「……ハァ……」

「元気出して和人君、学力テストなんて将来なんの役にも立たないんだから」

「うるせえ、ちゃっかり学年三番(三六〇人中)とってるやつに三〇六番(三六〇人中)の気持ちなんてわかるかよ……」


 大きなため息をつきうなだれる和人の頭を美月が優しくなでる。


「和人君、私達は将来ソルジャーになるんだから、成績悪くても路頭には迷わないわ、だから安心して」

「みつきぃ」


 情けない声を出しながら和人が顔を上げるとそこには秀才オーラを全身から放つ美月の笑顔が待っていた。


 和人は「うっ」とわざとらしく声をあげてのけぞる。


「そんなに警戒しないで、それに和人君が追試になったら私が勉強みてあげるから」

「くぅ~~、余裕だなぁおい」


 すると、うつむき落ち込む和人の横でぼそぼそと虫の鳴くよな声がする。


「あ、あの、ご注文のコーヒーとケーキを……持って……」

「おう美叉(みまた)、ごくろうさん」


 美叉は他のウエイトレスよりも短いスカートを履き、スカートの中が見えないか気にしつつ視線を泳がせながら赤面する、顔はかわいらしく、ウエイトレス姿の今なら大半の男が興味を持つだろう、だが残念なことが一つそれは。


「しっかしよく似合ってんなぁ、完全に溶け込んでるぞ」

「美叉君かわいいから女の子の服も似合ってるよ」

「うぅ、そんなこと言われてもうれしくありません……」


 半泣き状態で反論する美叉(みまた)洋介(ようすけ)、そう、彼は男だ。


 和人のクラスでいつも男子達から女みたいだとからかわれている、今日はここで洋介がバイトをしていると聞いたので訪れたが店に入り、二人に今の姿を見られて時の洋介の慌てぶりは今思い出しても笑えるものがある。


「でもなんでお前こんな格好させられてんだよ?」


 洋介はモジモジしながらお盆で顔を隠す。


「だ……だってここの店長(中年女性)がこれを着ないと採用しないって、でも着れば自給一〇〇円上げるって……」


 それを聞くと和人は辺りの客を見回す。


「まっ、確かに、店長の狙いは大当たりだな……」


 ここの店はもともとかわいい女の子と制服で男性陣に人気があったが今では男性だけではなく中年女性が席の半分を占め、草食動物を捕食するライオンの目を洋介に向ける。


 そして店のどこからか「コーヒーおかわり、ヨウちゃんに持ってこさせてください」などと声がするたびに洋介はびくっと跳ね上がり震えながら主婦達のもとへ行くのだ。


 次の瞬間、明るい声とともに小柄な少女が洋介に飛びつく。


「あたしはかわいいから好きだよ、この制服」

「わわっ、ちょっと愛花(あいか)!」


 飛びついてきたのは美叉(みまた)洋介(ようすけ)の一つ下の妹、美叉愛花(みまたあいか)だ、洋介同様、小柄で童顔、かわいらしい容姿の女の子だ。


「いいじゃん、似合ってるんだから、お兄ちゃんいっそこのまま女の子なっちゃえば? そっちのほうがきっとモテるよ」

「愛花! お兄ちゃんになんてこと言うんだ!」


 しがみついてくる妹を引き離そうともがく兄の洋介、だが周りからはかわらしい女の子同士がじゃれあっているようにしか見えない、しかし、そこへ主婦達の容赦ない死刑宣告が洋介を襲う。


「ヨウちゃん、コーヒー、おかわりね」


 洋介の顔から血の気が引く。


「……ハイ……」


 洋介は暗い顔で主婦達のもとへ行き、妹の愛花も仕事に戻る。


「やれやれ、あいつも大変だな」




電撃オンラインにインタビューを載せてもらいました。

https://dengekionline.com/articles/127533/

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