第34話 人とモンスターのカップル
結衣は思わず真二を突き飛ばす。
「……結衣ちゃん?」
結衣の嬉し涙はすぐに悲しみの涙に変わる。
「だめぇ、だめなのぉ……なんで、どうして真二君がいるの!?」
「……結衣ちゃん落ち着いて」
「ちがうの! ちがうの! こんな……わた、わたし……」
悲しすぎてろれつが回らない、溢れる涙は止まらない、人間に一番見られたくない姿を一番見られたくない相手に見られた。
人間でないと知られてしまった。
「ごめんなさい……私……人間じゃないの、でも……わたしは……わたしは……」
泣き崩れる結衣の肩に真二は両手を置くと優しく語り掛ける。
「知ってたよ……ぜーんぶね」
「えっ?」
結衣は顔をあげ、真二と視線を絡ませる。
「ずうっと一緒にいたんだもん、結衣ちゃんが人間じゃないなんて知ってたよ、それでも僕は……」
真二は結衣に顔を近づけると。
「結衣ちゃんが大好きだよ」
結衣を抱きしめ唇を重ねた。
それで涙は嬉し涙に変わり、泣き崩れていた結衣も真二を抱きしめ返す、結衣の心は癒され、胸の中が満たされた気持ちになり、温かい涙が彼女の頬を伝う。
その瞬間、全ての髪の動きが止まり、月人は言う。
「よくやったな浅野、あとは俺に任せな、お前らに見せてやるよ、これが災厄種の力だ!」
月人が和人のようにうなり声をあげると吸血鬼の鋭さと人狼の強靭さを兼ね備えた爪と牙、そして背中に黒い狼のような毛が生え、髪は腰まで伸びる。右目は赤く、左目は青く染まる。だが何よりも霊力の上昇の仕方が異常だった。
美咲達を含め、町中の高霊力者(ナイト)が一斉に月人の方角に視線を向け、感覚の鋭い者ならば外国にいる者ですら視線を向けた。
霊力を一切持たない一般人(ノーマル)でさえ街に住む全ての人間が虫の知らせのように何かここにいてはいけない思いに駆られ、動物は全て逃げ出す。
同時にソルジャー協会のオペレーター達が騒ぐ。
「多日市より強大な霊力を感知、霊力値二六億! 魔神クラスです!」
「多日市全体の霊脈が乱れています!」
「一時的ですが多日市の霊格が二段階上昇することが予想されます!」
「鬼門が開きかけています! アサシン部隊の派遣許可をお願いします!」
オペレーター達よりも遥か上に位置する座席に座る三十代前半ほどの男とその横に立つ二十代後半ほどの男が会話する。
「これが災厄種の力か……」
「はい、本当にすごい、彼を倒そうと思ったらエリートソルジャーが千人……いや、それでも足りませんね……」
「バケモノだよ」
月人は両肩を上下させながら大きく息をし、天を裂かんばかりの唸り声を上げる。
辺りの空間が歪み、空気の質が変わる、月人の行動は一瞬、まるで空間というよりも世界を貫くのではないかと思うほどの迫力で結衣の暴走した髪に近づく。
月人が黒龍の頭に触れた瞬間、結衣から増えた分の全ての髪が焼き尽くされ、消し飛ぶ。
同時に結衣の後ろに飛ぶと赤い石を結衣の背中に投げつける、月人の手から離れた石は光りの塊に変化して結衣の体の中に入り込み体内の毒を浄化する。
足場を失い落下する結衣と真二を夜風が、美咲を月人が拾い上げ、結衣の家の前まで飛んで送る。
その途中、夜風に運ばれている真二と結衣は恥ずかしそうに何度も視線を絡めながらも何も言わず、二人の間にはなんともいえない甘酸っぱい空気が流れるが逆に月人に運ばれている美咲はあまりの高さに怯え、早く降ろしてとひたすら叫び続けていた。
地面に着地すると真二が恥ずかしそうに赤面しながら結衣に聞く。
「あ、あのさあ、さっきの返事だけど、結衣は僕のことどう思ってるの?」
その言葉に結衣は戸惑い、美咲や月人、夜風の顔を見るが三人とも笑顔で応えてくれた。
結衣はその笑顔に勇気をもらい真二に言った。
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