第9話 告白
いつもの帰り道、目の前には二手に分かれているT字路、和人と美月はいつも一緒に帰り、いつもここで別れている。
特別な感情を込めず、ただ自然と言ってしまっただけだがあんなことがあった後では二人とも今まで以上にお互いを意識してしまい間が持たなかったため、今はそのT字路が救いに見える、これでこの重たい空気ともおさらばできると二人はやや急ぎめに歩くとバスから降りてずっと守ってきた沈黙を始めて破る。
「じゃ、じゃあ、また明日な……」
「うん、今日は本当にありがとう、和人君」
和人はぎこちなく頷くと二、三秒黙ってから美月に背を向けて歩き出した。
息が詰まるような時間が終了し、美月は心の中で安心するが自分から遠ざかっていく和人の背中を見た瞬間、これでいいのかと自問する。
「……待って!」
「!?」
和人がゆっくりと振り向く、恥ずかしそうに顔を赤くして両手の指を絡め、こちらに視線を向ける美月が歩いてくる。
「な、なんだ?」
「……」
和人に近づくと美月は何か言いたそうにしながらも何も言わず、言おうと口を少し開けるたびにすぐ閉じる。
恥ずかしさだけではない、種族が違う自分が和人に告白したところできっと和人は迷惑だろうという考えも彼女の言葉を邪魔する。
和人も馬鹿ではない、美月の気持ちにも何を言おうとしているのかも分かっている、しかし美月同様、種族の違いは大きい、美月が自分に告白してきたとして自分はそれにどう応えるべきか、自分は美月が好きだ、そんなのずっと前から分かっている、しかしだからといってかんたんにOKしていいはずもない、だが……。
「和人君……あたし……うぅ……」
言っていいのかわからない、言ってよかったとしてもきっと自分は和人に好きなんて言えない、そのあまりの空(むな)しさで美月が流した涙を見ると和人は全てがどうでもよくなって。
「俺は……美月が好きだ……」
「……!?」
言いたいから言った。好きだから言った。ただそれだけだ。なにも難しいことは無い、本当にそれだけのこと、種族はどうでもいいと和人は思って言う。
美月はしばらくの間、硬直し、和人を凝視してから何かを突き破るようにハッとし叫ぶ。
「ずっ、ずるいよ和人君、それわたしが言おうと……!」
「アホ! お前の告白待ってたらいつまでたっても付き合えねえだろ! それともお前、すぐに言えたか?」
「そ、それはそうだけど……」
和人の言うことはもっともだがそれでも自分のほうから好きだと言いたかったのにと美月は残念がりながら返事に困ってしまった。
さっきまでは自分から告白しようとしていたのに逆に告白されるとなんて言ったらいいのかわからないのだ。自分も好きだと言って付き合えたら一番良いが、肝心な部分がまだ解決していない、でも和人だって考えた結果で告白したはず。
美月は和人に寄りかかるようにして抱きつくと和人の胸に顔をうずめる。
「和人君、あたし、吸血鬼(ヴァンパイア)だけどいいよね?」
和人も美月を抱きしめて恥ずかしそうに言う。
「あたりまえだろ、つうか、駄目だったら俺だって好きなんて言わねえし」
それを聞くと美月はうれしそうに涙を流しながら和人と唇を重ねた。
「和人君、大好き……」
人狼(ウェアウルフ)と吸血鬼(ヴァンパイア)、夜を統べる二大(にだい)亜人種(デミヒューマン)の恋が始まった瞬間だった。
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