第23話 災厄種


 事件から三日後、和人と美月は一緒に美紀の猫の供養を済ませ、次の日、学校にきた美紀はいつもの明るさを取り戻していた。



   ◆



 とある超高層ビルの地下、キラー協会日本支部、そこで奏蓮は意識を取り戻す。


「ずいぶん手ひどくやられたな」


 声のほうを向き相手を確認して奏蓮は舌打ちをする。


「お前が見舞いなんてないだろう、嫌味を言いに来たか?」


 黒衣を着た長髪の男はニヤニヤと笑い応える。


「いやいや、どっちでもないさ、ただ俺は期待のルーキー黒塚奏蓮がボロ負けするなんてどんな相手かなってね、ようするにお前をどうこうじゃなくてお前を倒した相手のことがきになるだけだよ」


 そういって男は誰が置いたのか果物の入ったバスケットからリンゴを一つ取り出してシャクっと一口かじる。


「っで、相手は何? 鬼? 魔人? それとも竜とか?」

「災厄種」


 男は手を口にあてて笑う。


「おいおい、冗談きついっての、そんなのがいたらとっくに抹殺命令が来てるだろ、エイプリルフールはもう終わりましたよっと」


「後天性吸血狼(ヴァンパイアウルフ)……」


 奏蓮の重い声に男はリンゴをテーブルに置く。


「……なるほどね、吸血狼(ヴァンパイアウルフ)ならわからねえわな、そいで、悪の根は早く摘み取るべきだと思うんだけど」


「あれは俺が殺す、お前は手を出すな」

「はいはーい」


 男が言い終えると奏蓮は痛む体を無理矢理起こし、ベッドから出ようとする。


「無理すんなっと」


 男が奏蓮の頭を軽く叩くと奏蓮はベッドの上に倒れる。


「両肩からそれぞれ反対側の脇腹に向かって斬れててでっかい十字傷が出来てるんだ。内臓もメタメタ、二、三日はおとなしくするんだね」


 それだけ言って男は部屋を出て行こうとするがドアの前で立ち止まった。


「そういえばそいつの名前は?」

「人狼(ウェアウルフ)の和人、吸血鬼(ヴァンパイア)の美月」

「そっか、じゃあお前一人で倒すのは無理だねえ」

「なんだと?」


 やや怒気を込めた声で言う奏蓮に男は振り向く。


 そいつらの親は四人ともSランクソルジャー、ナンバーワンルーキーのお前でもSランクソルジャー四人が助けにこられたらまずいんじゃない?」


「それは……」

「おとなしく殲滅隊を組織したほうがいいんじゃないか? お前の人望と実力、それに災厄種の存在をちらつかせれば許可はすぐに下りるさ」

「……」

「まっ、考えといてな」


 それだけ言い残して男が部屋を出て行った後、奏蓮は歯を食い縛る。


「くそっ……」

 負けたのが悔しいの事実、だが奏蓮の悔しさはそんな単純なものではない、あれは自分のミスだ。


 奏蓮の実力ならば和人と美月の二人を同時に相手にしても勝てたはずだ、では何故負けたか、普通の者ならば和人が後天性とはいえ災厄種になったのだから仕方が無いだろうと言うに決まっている。


 だが事実はそうではない、負けた理由は奏蓮の精神にある、もしもあそこで迷わず和人と美月の心臓、もしくは頭を撃ち抜いていればそれで二人は倒せたはずだ。


 だが奏蓮の愚かな余裕がそれをさせなかった。


 心臓や頭部以外の場所をなんども斬り、撃ち抜き、相手に絶望感を与えてから嬲り殺すなどという手段さえとらなければモンスターに負けることはなかったし、このような傷を付けられることもなかったのだ。


 彼のキラー人生は順風満帆だった。


 キラーになってから、いや、なる以前からモンスター相手に負けることはなかったしどのモンスターも彼の圧倒的な才能の前になす術もなく倒れていった。


 キラーになってからは新人でありながら周りのキラー達からは一目置かれ、大人のキラーでも難しい相手を次々に葬り、誰も彼を止められなかった。


 なのにここに来て、バカな遊び心のせいで亜人間最強種の人狼と吸血鬼が相手とはいえ人生初めての敗北を受けた。


「俺は何をやってるんだ……」


 自分は誓ったはずだ。


 あの日、あの時、全てのモンスターをこの手で殺すと、そのためならばどんな手段でも使うし自分の身がどうなろうと関係ない。


 長く生きようなどとは思わない、生きるための戦うのではなく、戦うために生きるのだから。


 そんな覚悟も時間と数多くの勝利の前では揺らいでしまうというのか、奏蓮は次に闘う時には決して遊ばず、一瞬で殺すと心に決めてゆっくりと目を閉じた。

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