第44話 転校生

「赤井(あかい)京子(きょうこ)です。よろしくお願いします」


 見つけた。

 先生が紹介した転校生、赤毛のロングヘアーで服も赤を基調とした彼女の放つ霊力は常人の数百人分にも及ぶ莫大なものだった。


 奏蓮の霊力知覚では種類までは特定できないが、体のどこにも不可視の武器を身につけていないところから亜人間(デミヒューマン)の可能性が高い、ちなみに奏蓮は腰に不可視の短剣を挿している。


 幸いにも京子の席は奏蓮の二席後ろ、霊力を全開にした途端、彼女も霊力を開放したのが分かる。



   ◆



 放課後、一緒に帰る約束はしてないが二人は自然と並んで校門を出た。


 転校生ならば最初はクラスに馴染めないはずだが元から奏蓮は友達付き合いが広いことで知られている。


 転校生と打ち解けていても不思議に思う者は誰もいなかった。


「あたしは吸血鬼(ヴァンパイア)、っで、黒塚くんは?」


 明るい笑顔を惜しみなく見せる京子に奏蓮も楽しそうに応える。


「俺はただの高霊力者(ナイト)だよ、じいちゃんはキラーやってたらしいけど再起不能でもう引退しちまった、って、吸血鬼(ヴァンパイア)にこんなこと失礼か……」


「あっ、大丈夫、別に黒塚くんのおじいちゃんと付き合うわけじゃないんだから」

「そっか、それとその黒塚っていうのやめてくれないか、奏蓮でいいよ」

「じゃああたしのことも京子でいいよ」

「じゃあこれからよろしくな、京子」

「うん」



   ◆



 それから奏蓮の環境は一変した。


 休みの日や夜は家をこっそりと抜け出し、京子と一緒に悪霊退治をし、をし、危険度の高いモンスターも協力して倒した。


 その度に京子は奏蓮を賞賛し喜んでくれた。


 一緒に戦い、話し、賞賛してくれる人物ができたが、京子は奏蓮にとってそれ以上の意味があった。


 いつも明るく話し掛けてくる言葉や彼女の絶えることのない笑顔、何か嬉しいことがある度に手を繋いだり腕や体に抱き付いてくるテンション、奏蓮はすぐに京子のことが好きになった。


 同じ裏の世界に通じる者同士というのが理由の一つだがそんなの関係なしに奏蓮と京子の仲は深まり、やがて京子は奏蓮の家族達からも受け入れられる存在になっていた。



   ◆



 ある日の休日、京子が奏蓮の家に初めて言った時のことだ。


 本来ならば一番会わせては行けない相手である祖父とばったり会うと祖父は気まずそうにその場を去ろうとするが京子はとんでもない事を聞いた。


「お爺さん、あなたはどうしてキラーをやめたんですか?」

「!?」


 あまりに唐突な質問に奏蓮の祖父もすぐには言葉が出なかったが、息を吐き出し、ゆっくりと口を開いた。


「私がキラーになったのは親がキラーだったからというのもあるが、両親をモンスターに殺されたのが一番の理由だった。でもね、一度に家族を失い、一人きりになってしまったけど、結婚して子供が生まれて、孫の奏蓮が生まれて、新しい家族ができると、なんだか復讐心に捕らわれている自分が小さくみえてしまったのさ、だから治そうと思えば治せる傷の後遺症もそのままにしてキラーを引退した。だから奏蓮には普通の人生を送って欲しいし、どうしても裏の世界に行きたいのならみんなを守るソルジャーになって欲しいと思っている。お譲ちゃんはやっぱり私が嫌いかな?」


 だが京子はいつもの明るい笑顔を見せた。


「いいえ、あたしはお爺ちゃんが偉いと思うな、だってちゃんとそれに気づいて自分の意思でキラーを引退したんだから、それに吸血鬼(ヴァンパイア)にだって無差別に人の血をすする最低な奴もいるし、別にあたしの知り合い殺したわけじゃないから許してあげますよ」


 その返事に祖父は思わず口を緩め、次の瞬間には大きく笑いだした。


「おもしろい女の子だ、奏蓮、随分と良い子を見つけたものだな、じゃあ、京子ちゃん、私の孫と仲良くしてやってくれよ」

「はい、将来誰も貰ってくれなかったら奏蓮はあたしが貰ってあげます」

「!?」


 赤面し固まったまま動かなくなる奏蓮に両親も笑い、そんな奏蓮の腕に京子が抱きつきイタズラっぽく笑う。


「幸せにしてよね、奏蓮」



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