5
毎夜欠かされることのなかったイワンの訪問が絶えたのは、ルイが蛇男に抱かれたちょうど一週間後の晩だった。その前の晩、また明日ね、と笑って手を振ってイワンは出て行ったのに。
ルイは人の不在に弱い。ルイとレイジの母は、2人が12と15だった冬の日、ぱたりと家に帰らなくなった。ルイは蛇男に抱かれることと引き換えに、母の居場所を聞き出した。あの頃ルイたち一家が住んでいたのは兎小屋みたいな一部屋きりのアパートで、レイジは蛇男に抱かれるルイを黙って見ていた。ルイは泣いたのだったかもしれないが、もうよく覚えていない。ただ、当時15かそこいらだったはずのミンジュの肌には、まだ刺青は入っていなかった。
街外れにあるスーパーマーケットの廃墟。
夜が明ける頃ようやくルイを手放したミンジュがそう言うなり、レイジは隣に住んでいた老婆の家から車いすを借りてきた。そして二人はそれを押しながら2時間歩いて母を迎えに行った。夜中かけて処女膜を破られたばかりのルイの歩調に合わせ、本当は1時間でつくはずの道のりを、2人して黙りこくって静かに歩いた。
あの寒い冬の昼下がり、母は裸のまま駐車場のひび割れたアスファルトに転がっていた。細くしなやかだった母の首には、くっきりと男の手形が残されていた。
ルイとレイジは二人がかりで母の身体を車いすに座らせ、やはり2時間かけてアパートに戻った。会話はなかった。泣きも喚きもしなかった。そうするだけの気力がなかったのだ。
あのよく晴れた冬の日。雲一つない青空に肌を刺すまっさらな冷気。あの日からルイは人の不在に弱い。
「イワンがどこにいるか、知ってるんでしょ。」
いつものように朝早くやってきた蛇男は、ルイの問いに白い頬を微かに歪めた。それはルイが見慣れない表情だった。なにかの感情を示すというよりは、反射で頬がひきつったみたいな。
「知ってるのね。」
ベッドに座り込んだルイは、蛇男の目を睨みつけたままスリップドレスの肩紐に手をかけた。しかし蛇男は視線で彼女の手の動きを制した。
「どこにいるかは知らない。いくつか知ってることはあるし、そこから推測できることもある。でも、確かなことは分からない。」
「なにそれ。」
ルイは低く吐き捨て、彼の視線を無視してドレスを脱いだ。
「そのいくつか知ってることと推測を話しなさいよ。」
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