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随分長い沈黙の後、兄がふわりと膝を折り、ルイと視線の高さを合わせた。そしてそれと同時に、ルイの両目を芯まで冷え切った掌が塞いだ。

「ルイ。イワンつれて来た。」

同時に背後から掛けられた言葉はルイの涙をぴたりと止めた。心も身体も凍り付いてしまったみたいだった。

ルイの両目をふさいだ蛇男は、彼女の手を引いて立ち上がらせると、瞼に被せた手のひらをどけないまま階段まで連れて行く。そこまできてようやく視界をとりもどしたルイは、彼の背中に薄汚れた黄色い布の塊が、ビニール紐でぐるぐると縛りつけられているのを見た。見間違う余地もないほどしっかりとルイの記憶に張り付いているその黄色は、イワンがいつも身に着けていた、サイズの大きすぎるレインコートだった。

「レイジ。」

蛇男がルイの背中を支えるように階段を上らせながら、肩越しにレイジをちらりと見やる。

「イワンを埋めたら、お前の妹と街を出る。」

予定を告げるというよりは、ただ事実を述べるような、ひどく落ち着いた口調だった。レイジはしかしミンジュの言にはまるで取り合わなかった。

「そいつは死ぬまでここで身体を売る。そういう女だ。」

そういう女は、ぐったりと蛇男の胸に寄りかかって、ものも言わず階段を上った。蛇男は前に向き直りながら、いっそ憐れむような声音でレイジの呪いじみた発言を撥ね付けた。

「俺が連れて行く。」

ルイはなにも言わない。ただ痩せた腕を伸ばして、蛇男の背中にくくりつけられたイワンのレインコートを撫で続けている。

「類子。」

レイジがルイを呼ぶ。しかしルイは振り返らない。彼女の耳には誰の声ももう届かない。彼女がただ一人心の底から愛した少年は死んだのだ。死んで、ぼろぼろのレインコートに包まれて運ばれてきたのだ。

階段を登り切り自室に入るとルイはすぐに、真新しいシーツをベッドの上に広げた。職業柄か、悲しいほどの手際の良さだった。蛇男も手際よく背中のイワンをベッドに下し、汚れたレインコートをほどいた。

レインコートの下から出てきたイワンの小さな体は、驚くほどに汚れていた。血と、泥と、精液と、その他よく分からない液体とで。その上細い首や手足には、皮膚がえぐれて骨まで届くのではないかと思わせるほど深い縄目の痕さえ刻まれている。唇の両端が裂けているのは無茶な口淫を強いられたせいだろうか。それならば首の真ん中にぽっかり空いた刺し傷は、そこにペニスを挿入しでもしたのだろうか。

売春婦の死体など見慣れているルイでも怯むほどの、それは無残な亡骸だった。





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