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新しいシーツを出して。」
兄に話しかけたのは、ジャッキーとロンの関係をについて知るために蛇男に抱かれて以来だった。もとよりレイジはルイに話しかけたりしないので、つまりは二人は一週間口を利かずにいたことになる。
白いスリップドレスから身体の曲線を透けさせた妹の姿に目もやらず、レイジは彼女の傍らをすり抜けて階段を上る。
「新しいシーツを出してよ。」
壁の崩落した一階は、完璧に空調が訊いている二階とは比べ物にならないくらい寒い。ルイは体中の肌を泡立てながら、兄の背中にまた喚く。兄がシーツを取りに二階の洗濯室に向かっていることは分かっているのに。 新しいシーツを出して。
それはルイとレイジの間では、死者が出たことを意味していた。二人で母親を弔った晩、母の亡骸を包むために新しいシーツを出して、とルイは泣いた。レイジはシーツを買う金がないと冷たく吐き捨て、ルイを路上に立たせて客を引いてきた。それがルイとレイジの初仕事だった。
今のルイとレイジは、新しいシーツを山ほど持っている。毎日客が変わるたびシーツも取り換えるからだ。
黙ったまま階段を下りてきたレイジは、ルイに新品の真っ白いシーツを渡した。きちんと糊がきき、正方形にたたまれたそれは、ルイの細い腕の中に冷たく張り付いた。
「誰が死んだか訊かないの。」
ルイの声は完全に泣き声だった。イワンの死は彼女を打ちのめしていたし、兄の冷たさは常に彼女の精神を削り続けていた。それでも兄は眉一つ動かさなかった。
「訊かないの?」
シーツを胸に抱きしめ、ルイはその場にへたり込んだ。目の前にある兄の両脚にしがみつく。
「訊いてよ。私に興味を持ってよ。」
抱いてくれとも愛してくれとももう望まないから、せめて興味を持ってよ。
そう泣きながら訴えたルイは、自分の欲求の惨めさになおさら打ちのめされる。
たった二人で生きてきた兄妹なのに、こんなになりふり構わず望むものが、ただの関心でしかないなんて、惨めだ。
レイジはしばらくの間、自分の脚元に這いつくばった妹を黙って眺めていた。ルイが見慣れた、熱の無い視線だった。
それも駄目なの? 抱いてとも愛してとも言わないよ。それでも駄目なの?
ルイは泣きながら切れ切れの言葉を吐く。 仲のいい兄妹ではない。重ねた言葉とて少ない。それでもたった二人の肉親であるし、12までの子ども時代は二人っきりでほとんどの時間を過ごしていた。どれほどぐちゃぐちゃになろうと、兄は自分の言いたいことくらい聞き取ってくれるだろうという、出所の分からない確信だけはあった。
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