妹売り

美里

ルイとレイジの過去と現状について

兄が妹のポン引きをする。

よくある話である。金のない兄が食っていくために商売を始めようと考えた時、元手がかからない上にそれなりの収入が保証されるのは、妹を売ることだ。妹だってどこぞの馬の骨にポン引きを任せるくらいなら、身内にやらせた方が暴力も振るわれにくいし分け前が確実に手に入る。

だからルイとレイジの兄妹は、別段珍しい商売形態をとっていたわけではないのだ。妹のルイはうつくしく、レイジは商売ごとに長け暴力沙汰にも慣れていた。この手の商売を始めるにはいい組み合わせだったのだ。

それが周りの同業兄妹たちから驚きとある種の嫌悪の目で見られるようになったのは、ある程度顧客が付き金回りがよくなっても、ルイとレイジがコンビを解散しなかったためだ。

普通兄妹で商売をしている場合、金がそれなりに貯まると兄は妹以外の娼婦を何人か抱えて店を持つ。妹も兄以外の用心棒と何人かの娼婦を雇い、兄とは袂を分かつ。それ以降兄妹が顔を合わせることはまずない。そういうものだ。モラルなど存在しないみたいな生活をしていても、やはり血のつながった身内といつまでも売春稼業を続けたいと思う人間はいない。

それなのにルイとレイジはいつまでも二人きりで客を引いていた。路上で客に声をかけ、道端で身体を開いていた頃なら仕方がないことだが、ルイの美貌が評判になり、ストリート屈指の売れっ子になってからも、粛々と二人きりで客を取り続けていた。

「あんたたち、変ね。ずっと二人っきりでさ。嫌になんないの?」

赤いドレスがトレードマークのジャッキーが、テーブル越しにレイジの袖を引く。

もう通りに立って客呼びをする必要もないレイジは、妹がビルの二階で客を取っている間、一階の窓際に座って文庫本など広げている。彼の仕事は客の管理と金勘定、時々客が暴れたときには暴力をふるう、それだけだ。

「嫌もなにも、これが一番金になる。」

「……まぁねぇ。」

ルイが日夜客を取るこのごく小さな二階建てのビルは、以前は一階に喫茶店が入り、二階は住居になっていたらしい。今はもう一階のドアも窓ガラスも壊れるか盗まれているし、壁もところどころ崩落して、野外に座っているのとそう変わらない有様だが、レイジはそんな環境でも王族の図書室にでもいるみたいに優雅に本のページをめくった。

ジャッキーは強く叩けば脚が折れそうなテーブルを挟んでレイジと向かい合い、出勤前の化粧直しにいそしむ。

「あんたが妹と切れて女雇うっていうなら、今の店出てあんたのとこで働くわ。」

「やめとけ。ホウの店は良心的だ。」

「あんただって……。」

「俺は妹を犬とやらせたこともあるぞ。」

口紅を引くジャッキーの細い指がぴたりと動きを止める。二枚重ねの付け睫がぴくぴくと痙攣じみて揺れながらレイジの色のない頬を窺う。

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