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「やっぱだめだな。つれてけないな。」

冷たい頬と頬を寄せたまま、ミンジュはいっそ晴れやかにそう言い切った。それはもう、ルイが口をはさめないほどに晴々と。

「じゃあな、ルイ。」

ごく短い別れの言葉、ルイの身体をあっさり離し、蛇男はさらりと踵を返した。

そして、振り向きもせず部屋を出て行く黒い背中。

ルイは別れの言葉さえ返せないまま、その背を呆然と見送った。

刺青だらけの、人殺しと売春を生業にした、一々腹の立つ物言いしかできない、ルイの最初の男。

あの全身の刺青さえルイのために刻まれたものなのに、こんなになんの未練もないみたいに出て行けるものなのか。

もう嫌だ、人間の男なんて見たくもない、あんたも会いに来たりしないでくれ、と。そんなことを言ってルイがあの男を部屋から追いだしたのは、このビルで客を取るようになったばかりの頃。道端で客を取っていた頃より長く細やかなセックスをしなくてはいけない破目に陥って、すっかり身も心も参っていた時期だった。

ミンジュはそれから一週間くらい本当に顔を見せなくなり、次にビルを訪れたときには全身鱗だらけになっていた。蛇好きだろ、お前、などと飄々と笑って。

確かにその頃ルイは、蛇をモチーフにしたアクセサリーを好んで身に着けていた。だからと言って、全身に鱗の刺青を入れて来るやつがあるだろうか。

そこまで記憶をたどると、いてもたってもいられなくなった。スリップドレスの背中にベッドの上のイワンをレインコートにくるんで何とか背負い上げ、えっちらおっちら階段を降りる。当然もう、蛇男の姿はビルの中にも外にも見当たらない。

「レイジ。ミンジュ、どっちに行った?」

もとはドアであったはずの壁の穴から身を乗り出しながら問うと、レイジはそれには答えず定位置のソファから立ち上がり、彼女の腕を掴んだ。

「どこに行く気だ?」

「イワンを埋めに。」

ずり下がってくるイワンの身体をゆすり上げつつ、ルイは端的にそう答える。

別に蛇男を追っていくわけじゃない。この子を安らかな土の中に埋めてやりに行くだけだ。その手伝いをさせるのに、あの蛇男は都合がいいという、ただそれだけの話。

「ルイ。」

腕を掴むレイジの力が強くなる。ルイは薄く笑って兄を振り返る。

「もう十分稼がせてあげたでしょ。その金元手にして、娼館でも開きなよ。レイジならホウの店より上手くやれるんじゃない。」

それが正しいやり方のはずだ。大抵の兄妹はある程度金を稼ぐとそうやって袂を分かつ。ルイとレイジは、どう考えても一緒にいすぎていた

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