ジャッキーとロンの諸事情について

「なんでジャッキーはロンのところに戻ったの。知ってるんでしょ。教えて。」

ルイが蛇男に詰め寄ったのは、イワンから毎日受ける報告の中のジャッキーが日に日にやつれて行くことに、どうしても我慢が出来なくなったからだった。

「教えてやるよ。」

蛇男はほとんど厚みのない唇をにやにやと笑わせながら、一歩ルイの方に身を寄せる。

「セックス一回な。」

「早くして。」

蛇男はルイが知りたがるであろう情報を常に片っ端から収集している。そしてその中から適当なものを彼女の部屋にとどまる口実として披露していくのだ。

けれどこんなふうに、ルイがどんな犠牲を払ってでも知りたいと望むような情報については、決してタダで話したりはしなかった。

セックス一回。

以前にも、ルイは二度こんなふうにミンジュから情報を買っている。

一度目は母親の行方。セックス二回と引き換えだった。二度目は兄の行方。そっちはセックス三回だった。

早く早く、とルイはドアの近くに立ったまま蛇男のシャツに手をかけてボタンを外す。いつもながら触れているかいないか分からないくらい手触りのいい極上の生地だ。ルイにはまるで理解できないことだが、ある種の女たちはこの蛇男の姿に堪らないほどの魅力を感じるらしい。どうせこの服もその手の女の貢物だろう。

蛇男の白く冷たい手が、ルイの肌から白いスリップドレスの肩紐を落とす。はらりと頼りなく床に落ちて広がるドレスの下に、彼女はなにも身に着けていなかった。

「こうなるの、分かってたのよね。」

ルイは低く呟き、蛇男の手を掴んでベッドに引っ張る。シャツを脱がされた蛇男の上半身には、両肩と右の腰のあたりに鱗が彫り込まれている。

「早くして。」

これくらいしか男相手に提供するものが無い自分の情けなさに、ルイは一瞬唇を噛む。

蛇男はそれを見逃さずに彼女の唇を深く吸った。そのまま二人分の白い身体はもつれてベッドに転がり込む。

ルイは目を閉じて、蛇男の愛撫の感触を自分の意識からはじき出そうと必死になる。

もともと商売を始める前から不感症気味のルイは、なぜだか蛇男の手でだけは性感を得ることができた。なんでなんで、と悔しさと恐怖で泣いたはじめての晩、蛇男は吐きそうになるほど甘い声で、俺がルイを愛しているからだろ、などと囁いた。

ルイはそんな戯言信じまいと耳をふさぎ、身を固くして生まれてはじめての快楽をやり過ごした。その時からルイにとって、蛇男とのセックスは仕事とは別の意味で苦行だった。


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