6

ルイは蛇男が嫌いだった。母の行方を訊いたあの晩から、吐き気がするほど嫌いだった。あれがルイが初めて兄に売られた夜だったし、蛇男に開通させられた女の部分はその日から商売道具になった。

妹抱かせろよ、とレイジに持ちかけた蛇男と、分かった、と頷いた兄。ルイは信じられない気持ちで兄の背中を見つめていた。

これで嫌わない方がどうかしている。

それでも、いくら嫌いでも、ルイは蛇男の情報網と推測については信用しているのだ。蛇男から手に入れた情報が誤っていたことは、これまで一度もない。

「だったらセックスはいらない。」

蛇男はドアの近くに立ったまま、ため息交じりにそう言った。彼のその態度はルイをどこまでも苛立たせた。

「いらないってなによ。やりたくないわけ?」

娼婦の娘として生まれ、自分も12で娼婦になった。たった一人の兄にあっさり売られたこの身体。つまりルイは、さげすまれるのには慣れているのだ。それでもルイは蛇男にだけは、さげすまれたり施しを受けたりしたくなかった。それはもう彼女のプライドの問題だ。落ちるところまで落ちた女の、最後のプライド。

「やりたいよ、俺はいつでもお前とやりたい。」

ミンジュは、今日の後には明日が来るのは当然、とでも言うみたいな調子で言葉を紡ぎ、ルイの異様に白い肌を眩しそうに眺める。

「でも今日はお前の身体と引き換えにできるほどの話を持ってない。だから、セックスはしないでいい。」

ルイと蛇男の視線が真っ直ぐに絡まる。

短いが喉を焼くような沈黙の後、ルイは随分と長い時間をかけて、ゆっくりゆっくり瞬きをした。これ以上蛇男と見つめあっていると、不本意なことが起こってしまいそうで怖かった。

「そう。」

感情を何とか押し殺した女の声。気を緩めたら泣くか叫ぶかしてしまいそうだった。

母は死んだ。ジャッキーは壊れた。イワンは消えた。兄のことなど12のあの夜から一度も信じたことはない。だから今のルイには、死ぬほど不本意ながら蛇男しかいなかった。その蛇男にセックスを拒まれれば、ルイにはもう一人きりにならずにすむ手だてが思いつかない。

「ルイ。」

蛇男はドアの前に立ったまま、ルイの側に寄って来ようとはしない。その声音も、いつもルイに向ける甘ったるく濁ったようなそれではなく、聞いたことがないほど淡々と水のように流れて行く。

「イワンはあのスーパーの駐車場だ。」

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