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イワン少年は、ルイの部屋に泊まった翌朝は、夜明けとともに町に出て行く。物乞いや廃品回収が多いこの町では、一分一秒の遅れで本日一日飢えずにすむか否かが決まるのだ。
すると入れ違いでやってくるのが蛇男である。こちらはイワンがルイを抱いたかどうを、ベッドと毛布の匂いを嗅いで確かめるために朝一でやってくるのだ。
「まだやってないのか。」
顔の右半分と両腕を鱗の刺青で覆った男は、瞳孔が縦に切れた蛇の目でルイを見、にやにやと嫌らしい笑みを浮かべる。
「イワンは子どもよ。」
ルイはこれ以上ない冷たさでそう返し、出てって、と、男の背中をドアの方に押す。
「ジャッキーの話、聞きたくないのか。」
手ぶらで来てはルイにすげなく追い返されることは百も承知の蛇男は、こんなふうにいつもルイの興味を引ける話題を仕入れて来ては披露する。
しかし今回ばかりは昨晩イワンに聞いた話だ。ルイは蛇男の背中をさらに強く押した。
「ロンが帰ってきたんでしょ。知ってるわ。」
「じゃあ、あいつが抱えの娼婦殺してこっち逃げ帰ってきたことも知ってんのか。」
「……殺した?」
ルイの両手から一気に力が抜ける。それを背で感じて蛇男は満足そうに両目を細めた。
「薬使ってえげつないセックスするやくざもんに娼婦貸し出してな。その娼婦、腹ん中が裂けて死んだらしいぞ。」
「……まさか。それだったらロンだって五体満足じゃいられないでしょ。」
警察がろくに機能していないここいらの界隈では、その代わりに娼婦もポン引きも自警団とまでは言えないまでも、目に余る行動をとる人間を自分たちで始末することで一応の平穏を保っている。そうと知っていてやくざものに抱えの娼婦を貸し出して死なせたなど、腕か脚の一本はなくなるレベルの不始末だ。
「それがあいつのバックにはそのやくざもんの組が付いてる。さすがにそのまま商売は続けられないからこっちに戻ってきたみたいだが、そのうちほとぼりが冷めたらまた戻るつもりらしいぞ。」
「そんなの、とっとと戻ってくれた方が良いわ。」
「あいつはどうせ大してこっちには居ないんだから、向こうではできねーような事でもやって稼がねーと損だって張り切るタイプだぞ。ジャッキーの腹も裂かれないように気を付けた方が良いな。」
「まさか。ジャッキーはホウさんの抱えの娼婦よ。いまさらロンになにが出来るのよ。」
「ホウ、もとはロンの後ろについてるやくざの下っ端だぞ。ジャッキー寄越せって言われたら逆らえねーよ。」
「……冗談でしょ?」
「レイジに言えよ。ジャッキー使えって。あいつならフリーだし、気が狂ってんのやくざにも知られてんだから何も言われねぇよ。」
「……。」
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