第19話:内偵
石長から約束を取り付けた嘉一は、積極的に情報を集めた。
積極的にとは言っても、細心の注意を払う必要があった。
嘉一の亡母が昔話してくれたことがあった。
小学生のころ人権屋の子供と喧嘩したことがあったという。
嘉一の常識では、小学生のたわいもない喧嘩に親が介入する事などない。
だが人権屋達にその常識は通用しなかった。
数百人で母の家を囲んだそうだ。
単に囲んだだけでなく、家の周囲で焚火を始めたのだ。
家を放火するぞという脅迫をしたのだ。
それ以来、母は人権屋の子供とは喧嘩しないようにしたそうだ。
今も大人しい子供を池に突き落として溺死させるような連中だ。
嘉一が溺死事件を調べていると知ったら、何をしてくるか分からない。
嘉一の場合には神仏の御加護がある。
付喪神や物の怪達の護りもある。
最悪の場合には常世に逃げ込む事もできる。
だが、嘉一や二仏を信じて情報を教えてくれたヘラ師やママさん達は違う。
彼らには加護もなければ護りもないのだ。
ヘラ師達が釣りをしている時に足を滑らせて溺死するような事件は避けたい。
子供が寺ヶ池に落ちたのを助けようとして、母子が溺死するような痛ましい事件が、嘉一に情報を流したせいで起こるかもしれないのだ。
そんな事にならないように、嘉一は細心の注意を払って情報を集めた。
ヘラ師やママさん達が疑われないようにしたのだ。
万が一疑われるのなら、誰でもない嘉一に疑いが向くようにした。
だがそのような行動を見過ごす神仏ではなかった。
特に虚空蔵と地蔵という慈愛に満ちた仏が許さなかった。
虚空蔵はママさん達と仲良くなった姿とは違う、別のとても目立つ姿になって人権屋の情報を集めた。
反社だと思われるような、とても目立つ姿になって情報を集めた。
ママさん達に対する情報収集は地蔵が続けた。
それによって集まった情報によると、次々と人権屋が溺死しているという。
「○○ちゃんを溺死させた××はまだ殺されていないそうよ」
「今は手先になっていた子供達が河童に寺ヶ池に引きずり込まれているらしいわ」
「多くの子が遠くに逃げたと聞いているわ」
「逃げた連中も死んだという噂があるが、本当か嘘かは分からない」
「寺ヶ池だけじゃなく、逃げた先の池や川に引きずり込まれたと聞いているぞ」
「××はアメリカに逃げたというぞ」
「親も議会に病気療養届を出して一緒にアメリカに逃げたと聞いている」
人権屋と組んでいるマスゴミは、事件性があるかもしれないという理由付けをして、連続溺死事件を隠蔽しているようだった。
だが嘉一と二仏が集めた情報からは、既に四十人以上の人間が溺死している。
実行犯やその場にいた子供だけでなく、子供を逃がそうとした親も一緒に溺死させられているという話だった。
だが問題は、実行犯と隠蔽させた市議会議員が海外逃亡している事だった。
これでは殺されて河童化した子の怨念が荒れ狂い、被害が広域化しかねない。
「嘉一、悪いのだけれど、実行犯の子供と隠蔽犯の親がどこにいるか調べて頂戴。
そしてその場所に行って、常世との道を開いて欲しいの。
そうしないと何か起こった時に手出しができなくなるわ」
「向こうにも、アメリカにも神がいるのですか」
「信心する者がいなくなって、古来からのアメリカの神々は力を失ってしまって、他の神々などいないという独善的な神が力を持ってしまっているわ。
そんな身勝手な神が河童を認めてくれる事など絶対にないわ。
復讐を遂げる事ができずに、独善的な神が創り出した『地獄』に送られるわ。
輪廻転生などない閉鎖空間に永遠に囚われる事になるわ」
「分かりました、隠れている場所を探させてもらいます。
ですが、それだけの力を持った独善的な神を相手に神仏が対抗できるのですか。
もし全く抵抗できないのなら、無理をしない方がいいのではないですか」
「心配してくれてありがとう、嘉一。
確かに個々の神仏に対する信心はとても少ないわ。
でも八百万の神々に対する全体的ない信心は決して少なくないの。
それに、日本で神と仏が融合したように、中国でも道教と仏教、民族宗教が融合していて、仏達に信心を送ってくれているの。
だから独占的な神の隙を突くくらいはできるのよ、安心して」
石長にそう言われた嘉一は、急いで実行犯達の逃亡先を調べた。
マスゴミの犯罪を調査していた探偵社はもちろん、テレビ局の放映権を入札制にする訴訟で知り合った国会議員や官僚からも情報を集めた。
河童になった子供の殺人罪を告発するという前提の下で、顧問弁護士を通じて情報開示請求をして、逃亡先を調べた。
情報が開示されるまでの時間に、海外渡航のためのパスポートを申請した。
嘉一が一度取得したパスポートは失効してしまっていた。
そんな色々な手続きをしている間にも、河童による復讐は毎日行われていた。
溺死させた子供と親は、国外逃亡した者を除いて全員報復を受けた。
国内のどこに逃げようと、近くに池や川がない場合でも、浴槽で溺死させられた。
事ここに至って、人権屋達に力を貸していたマスゴミも恐怖した。
多くのマスゴミも『姥ヶ火』事件の時に、隠蔽に協力したマスゴミ関係者が人体発火をして焼け死んだことを知っている。
もしかしたら自分達も同じように復讐されるかもしれないと恐怖したのだ。
そこで卑怯で下劣なマスゴミ関係者は、急いで自首して復讐を逃れようとした。
だが河童は法の裁きなど望んでいなかった。
海外に逃げた実行犯の子供と隠蔽犯の親が現地警察に逮捕されて、日本に送還されて法の裁きを受ける事など全く望んでいなかった。
ただひたすら自分の手で復讐する事だけを考えていた。
だから、留置所の便所の中にマスゴミ関係者の首を引きずり込んで溺死させた。
直接関係はなかったが、隠蔽工作に協力したマスゴミ関係者も次々と溺死させられた事で、マスゴミ関係者はパニックとなった。
テレビ局で隠蔽に協力した職員は生放送で涙ながらに謝罪した。
新聞社は一面に隠蔽に協力した事実と御詫びを掲載した。
少しでも隠蔽に協力した可能性のある者は、報復を恐れて警察に自首した。
だが、彼らが何をしようと、とても苦しい溺死をさせられて、河童になるまで怨念に凝り固まった子供の恨み辛みはなくならなかった。
毎日何十人ものマスゴミ関係者が溺死させられた。
当人ばかりではなく、親や子供まで溺死させられた。
恐怖でパニックに陥った者も、実行犯と隠蔽犯が海外逃亡して生き延びていることにを思い出して、家族を連れて海外逃亡を図った。
だが直ぐに家族そろって海外に逃げられる人間は少ない。
そんな時に、当人が家族と離れれば、家族までは巻き込まれないという噂が、SNSを中心に流れた。
好い言い訳ができたと感じたマスゴミ関係者は、それを口実に家族を捨てて自分だけ海外逃亡をしようとしたが、そんな連中から順番に河童の復讐を受けた。
多くの者が風呂やトイレで溺死する事になった。
風呂には入らないように出来ても、トイレに入らない事は無理だった。
洋式トイレではわずかでも水があって、そこで溺死させられてしまう。
野糞をする事はできても、流石に衆人環視の場では無理だ。
人目を気にして誰のいない場所で野糞をしようとすると、下水や暗渠に引きずり込まれて溺死させられた。
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