第16話:溺死
「これは司法に対する重大な裏切りであり犯罪です。
事もあろうに、告発されている組織から金品受け取り、告発された組織に有利な判決を下すなど、絶対に許されない事です」
嘉一が総務省を訴えた、独占禁止法違反と不適格組織を理由とした放映権の取り消しの裁判において、裁判官がテレビ局から賄賂を貰って判決を歪めた。
普通なら絶対に証拠を残す事などないのだろうが、猜疑心が強い嘉一は、最初から大金を投じて日本有数の探偵社を数社使って証拠集めをさせていた。
例え探偵社が証拠を集められなかったとしても、電話と電話回線、無線機の付喪神がテレビ局と裁判官の悪事を暴いていただろう。
嘉一は手を緩めることなくテレビ局と局員を追い込んだ。
人気のある司会者が、局員を虐めてパニック障害を発症させたにもかかわらず、それを隠蔽していた事も激しく責め立てた。
以前からの告訴に加え、その事が分かっていて放映権を取り消さなかった総務省を訴えたのだ。
しかも裁判官がテレビ局から賄賂を受け取っていた事を理由に、全総務省
国は、普段なら絶対に自分達の違法性は認めないのだが、マスゴミの毛嫌いしているのは嘉一だけでなく、政治家や国家公務員も同じだった。
マスゴミに叩かれなくてすむ状態なら、自分達の汚職を嗅ぎまわるマスゴミは叩き潰しておきたいのが人情だ。
だから国は自ら違法を認めても、水に落ちた犬状態のマスゴミを叩く事にした。
それでも後で逆恨みされないように、形だけは抵抗してみせた。
完全に嘉一の言い分を認めるのではなく、一応裁判で争う姿勢を見せた。
だが、証拠の隠蔽もしなければ、口裏合わせもしなかった。
今回告訴させている総務省職員に対しては公務員を辞めさせられた後の再就職を約束して、テレビ局から賄賂を貰っていた者達全員に自供させて贈収賄を確定させた。
テレビ局や新聞社は総力を挙げて抵抗したが、世論が彼らを許さなかった。
今まで散々正義も味方ずらして他者を糾弾していたのに、実際に不正や汚職をして国家権力を手に入れていたのだから当然だった。
情報網を独占していた時代なら隠蔽も世論操作もできたが、今は無理だった。
SNSの発達した時代に完璧な隠蔽はもちろん情報操作も無理だ。
そんな状態だったから、今までマスゴミにすり寄って来ていた人間達も、蜘蛛の子を散らすように逃げて行った。
その代表的な例が芸能人達だった。
マスゴミの不正や汚職、世論操作に協力していた芸能人達は、ネットで叩かれる事を恐れて、テレビにもラジオにも出演しなくなった。
マスゴミが所有する不当に高価な家賃のビルに入居することで、遠回しに賄賂を贈っていた企業も一斉に契約を解約した。
嘉一がその事も告訴した事で、入居していた企業の株価が大暴落したのだ。
これ以上叩かれる事を恐れた入居企業が一斉に賃貸契約を解約したのだ。
八方塞となったマスゴミは、新社長や新役員に責任を取らせて辞職させる事で、何とか放映権を確保するとともに、暴落した株価を下げ止めようとした。
できる事なら少しでも株価をあげようとしたのだが、無理だった。
狼狽売りに損切りが加わり暴落に暴落を重ねる状態だった。
一時的に下げ止まるのは、嘉一が信用売りを一度現金化して、手持ちの現金資金を増やす時だけだった。
だが直ぐに増えた現金を元手に信用売りをするので、結局株価は下げ続けた。
「嘉一、ちょっと気になる事があるのです。
河内長野の寺ヶ池に行ってくれませんか」
嘉一が朝から常世に料理を作りに行ったら、石長が話しかけてきた。
「また誰か恨みを持って死んだ人がいるのですか。
『姥ヶ火』のような物の怪になった人がいるのですか」
「はい、『姥ヶ火』ではありませんが、『河童』がでたようです」
「胡瓜と相撲が好きで、尻子玉を抜くという『河童』ですか」
「はい、その河童です。
ですが胡瓜を盗むとか相撲を取るとかという、穏やかな話しではなく、恨み辛みのある相手を溺死させているのです」
「物の怪になるほどの恨み辛みを受けるような奴が殺されるのは当然だろ。
俺は『河童』が恨みを晴らすまでは、地獄に落とす手伝いなどしないぞ」
「ええ、分かっていますよ、嘉一。
貴男ならきっとそう言うと思っていました。
だから嘉一に調べて欲しいのです。
『河童』が復讐が成し遂げられたと思ったら報告してください。
何の罪もない人が殺されるのは嘉一も嫌でしょ。
仏達は私が説得しましたから、嘉一が納得するまでは手出ししません」
「分かりました、そう言う事なら引き受けさせてもらいます」
「虚空蔵と地蔵に手伝ってもらうといいわ。
彼らなら荒事をするような事はないから、安心して」
嘉一は石長の言葉を信じて二仏と一緒に河内長野に向かった。
地下鉄網や環状線がある大阪市内ならば、常世から直接現世に移動する方が便利なのだが、鉄道網が一路線しかなく、家が点在する郊外では移動が不便だった。
人目が少ないとは言っても、常世から現世に移動する所を見られるわけにはいかないので、原付や自転車で移動するしかなかったのだ。
嘉一はその原付で移動し、二仏は自転車を借りて常世から現世に移動した。
嘉一は寺ヶ池を中心に聞き込みを始めた。
寺ヶ池は大阪府河内長野市にある江戸時代に作られた農業用の溜池で、春から夏にかけて周辺の水田へ水を送る役割がある。
周囲は遊歩道になっていて、寺ヶ池地区水利組合が管理している。
安全に配慮しているのか、それとも養魚しているのか、魚釣りは禁止されていた。
嘉一は聞き込みを急ぐことなく、花壇が整備されベンチが設置されている北堤防の遊歩道を歩き、寺ヶ池公園にまで足を延ばした。
寺ヶ池の北東部には四面のテニスコートがあり、ご婦人達が真剣にボールを追っているのが印象的だったが、とても噂話をできる雰囲気ではなかった。
東側には野球場とプールがあったが、まだ子供が学校に行っている時間のせいか野球場には誰もいなかったし、プールも季節外れで閉鎖されていた。
南東部には管理棟と噴水があり、ご年配の人が日向ぼっこをしたり友人とおしゃべりをしたりしていたので、嘉一は情報収集のために積極的に話しかけた。
ひと通り噴水周辺で情報収集をした嘉一は、南側にあるアイリス谷の菖蒲園に向かったが、季節外れで菖蒲は咲いていなかった。
その所為か人もおらず、西部にある弁天山広場に向かった。
弁天山広場には福神弁財天寺ヶ池鎮守や遊具があるので、小さい子供を遊ばせる若いママさん達がいたが、嘉一にはママさんに話しかけるスキルはなかった。
そこで広大な宇宙のような無限の智恵と慈悲を持った虚空蔵と、子供の守り神である地蔵がママさん達に話しかけてくれた。
広場での情報収集を二仏に任した嘉一は、寺ヶ池周辺の飲食店を周り、食事や買い物をしながら色々な情報を集めた。
嘉一も前回同様に上手く情報を集めたが、一瞬で若いママさん達の信頼を勝ち取った虚空蔵と地蔵が重要な情報を集めてきた。
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