第31話:棄教
「殺させろ、もっと殺させろ、教祖を殺させろ」
大蛇は大阪に住む自分を裏切った思想集団の信徒をほぼ喰らい尽くした事で、東京にいる教祖と教祖の息子一派を喰らいたいという欲望に囚われていた。
だが、もう教祖の息子とその一族は海外に逃亡していた。
だから東京に行っても恨む相手を喰い殺せるわけではなかった。
大蛇の元となった大阪派を虐殺したのは、教祖の息子と取り巻きで、教祖自身はもうその時には植物人間になっていた。
「分かった、教祖は喰い殺させてやろう。
だがお前達を虐殺したのは教祖ではないぞ。
教祖の息子とその取り巻きがお前達を虐殺したのだ」
「分かった、分かったから教祖を殺させろ。
教祖を殺したら、次は教祖の息子と取り巻きだ。
連中を殺さない限り成仏などできないぞ」
「分かった、だが教祖はともかく、教祖の息子とその一族は海外に逃げてしまった。
連中を海外から連れ戻すまでは、国内の教祖派を殺していてくれ。
絶対に八つ当たりで係わりのない人を殺さないでくれ。
思想集団の信徒を殺している間は見逃してやる、分かったな」
嘉一は大蛇との約束を守って、教祖を喰らわせてやった。
その上で、東京周辺の思想集団信徒を喰らわせてやった。
今まで大阪だけで猛威を振るっていた思想集団信徒の行方不明が、東京でも引き起こされた事で、思想集団信徒は阿鼻叫喚の地獄絵図となった。
大阪で起こっていた信徒同志の虐殺が東京でも始まった。
大阪での行方不明事件が一万人を超えて二万人となり、信徒同士の殺し合いで六万人が死傷する状況で、大阪以外の信徒も疑心暗鬼に陥っていたのだ。
何時恨みの矛先が大阪の信徒から、他の都道府県に移るのか注視していた。
手を貸したわけではないが、他の都道府県幹部も大阪派の虐殺を知っていた。
それでなくても教祖の息子が一族と側近を連れて海外に逃げ出しているのだ。
それに続いて、金に余裕のある思想集団幹部も海外に逃げている。
逃げられるものなら全信徒が海外に逃げたいと思っていたのだ。
だが、教祖の息子とその一族と側近が逃げだした後で、思想集団による組織的な大量殺人事件が表沙汰になった。
それどころか、思想集団によるクーデター計画があり、それに大量の自衛隊員と警察官を含める公務員が加わっていた事が発覚したのだ。
彼らが罪を否認しようと逮捕して調べなければいけない状況なのに、実際問題には刑務所が足らなくなるくらい自首する信徒が数多く出たのだ。
当然だが、思想集団信徒の海外旅行は全面禁止されている。
嘉一はまず在宅の自主者の元の大蛇を放ち、全員を喰い殺させていった。
思想集団信徒が留置所に入り事を望むように、現在留置所にいる者は喰わせなかったが、その事が自首して全てを白状する信徒の数を飛躍的に増やした。
嘉一は海外や国内に逃れようとした者から喰い殺させるようにした。
全員が行方不明にされると思っていた信徒達は、大阪と東京に違いに戸惑いつつも、か細い希望の糸に縋りついた。
大阪では、思想集団だけでなく、思想政党や地域政党まで行方不明になっていた。
思想集団内の粛清事件に関係していると思われる者は、所属はもちろん年齢や性別に関係なく、全員が行方不明になっていた。
思想集団とは関係ないと思われていた、大阪の地域政党の古参幹部が全員行方不明になっている事から、粛清事件を知っている者は全員行方不明にされると考えていたから、とても重大な違いだった。
直接事件に係わりがなくても、見て見ぬ振りをしていただろう、政界を引退した地域政党の古参幹部まで行方不明になっているのだ。
現在反日反政府マスメディアに所属していなくても、事件を知っていたのに、過去に報道も放映もしなかったと思われる関係者が、忽然と行方不明になっている事から、東京でも同じ事が始まると思われていたのだ。
「お父さん自首して、自首して全て正直に話して、そうすれば助かるかもしれない」
「あなた、ブログでいいから正直に今までの事を詫びてください。
このままではいつ行方不明になるか分からないわ。
私達まで巻き添えに会ってしまうわ、謝らないなら離婚してください」
「大輔、もっと自分のやってきた事に向き合え。
このままでは天罰が下ってこの世界から消え去る事になるぞ」
「お父さんは悪い事をしていたの。
友達からお前と一緒にいたら天罰が下ると言われて仲間外れにされるの」
日本中で命懸けの欲望、生存本能と差別意識が渦巻いた。
それでなくても異端視されていた思想集団が、教祖を神として崇め立てさせる宗教国家樹立を計画していたのだ。
世界的には信じられないくらい緩い宗教観を持っている日本人には、絶対に受け入れられない大事件だった。
何より、過去に同じような狂信集団が地下鉄に毒ガスを撒いて大量殺人を引き起こしているのだ、見て見ぬ振りなどできない危機感を振りまいた。
とても小さな狂信集団だけでそれだけの事ができたのに、日本の政権第二党となれるような人数がクーデターを計画していたのだ。
マスメディアに大量の芸人や役者を送り込み、番組に思想集団枠を設けるほどの影響力を持ち、第二次大戦を引き起こした一派と同じように、マスメディアを使った国民洗脳まで行っていたという自供まである。
報復ではなくても、愛する子供を近づかせたくないと言うのは普通の反応だった。
だが、自らの過去の行いを棚に上げて、子供を差別されたと文句を言う元マスメディアの人間がいるのも当然の事だった。
だがそれは、とても大きな墓穴を掘る結果となった。
SNSで身勝手な主張を繰り返した事で、嘉一の目に留まる事になった。
嘉一は直ぐに大蛇を元マスメディアの人間に放った。
大蛇は悩むことなく元マスメディアの人間を喰い殺した。
その日から、SNSに身勝手な主張をする人間が行方不明となっていった。
直ぐに多くの人間がその事に気がついた。
後ろ暗い所のある人間は、即座に過去の発信を消して身の安泰を図ろうとした。
だが、そんな連中の行動を多くの人が指摘して、過去の発信を糾弾する。
死を恐れた連中は、過去の発信どころか登録自体を取り消した。
中毒になっていない者以外は、SNSの世界から離れて行方不明にならないようにしたのだが、逃げきれるものではなかった。
思想集団の犯罪に全く関係ない人間は逃れ切れたが、少しでも関係している者、見て見ぬ振りをしていた者は、遅かれ早かれ行方不明になる事になる。
教祖の息子とその一族、取り巻きを喰い殺すまでは、成仏することも天罰を下される事も避けたい大蛇は、恨みのある人間以外は喰い殺さなかった。
大阪東京だけでなく、全ての都道府県で行方不明者の事が報道された。
大蛇が関係していない者も、同じように発表されたため、普通の家出や徘徊による行方不明まで怨念によるものだと考えられた。
そんな中で、行方不明になりたくない思想集団信徒も考えに考えたのだろう。
SNSを使って棄教する事を誓った発信を行った。
同時に、新興宗教ではなく、古くからある宗教組織に入信する事も発信した。
分かりやすく意思表示するためだろう。
形だけのお剃刀ではなく、完全に髪をそり上げて、思想集団の間違った教えを捨てると誓う事で、天罰から逃れようとした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます