第12話:弁護士

「鈴木先生、総務省を訴えるのを手伝ってください」


 嘉一は毎日常世にお供えを持って行くだけでなく、別の事もしていた。

 少しでもマスゴミの悪辣な取材を止めさせるために、裁判を起こすことにした。

 だが新聞社が相手だと、報道の自由を言い訳にするだろう。

 だから新聞社ではなく、テレビ局を訴える事にしたのだ。

 しかも直接テレビ局を訴えるのではなく、監督している総務省を訴えるのだ。


 訴える具体的な内容は、報道の自由を言い訳に被害者家族に二次被害を与えるようなテレビ局に、国家権力である放映権を入札もなしに与えるのは、人権的にも独占禁止法違反的にも問題があるという理由でだ。

 嘉一にとっては、別に訴訟に勝てなくてもいいのだ。

 訴える事で、犯罪者や犯罪者家族だけが人権を守られ、被害者や被害者家族の人権が踏みにじられる事を防げればよかったのだ。


 だが、なかなか引き受けてくれる弁護士はいなかった。

 テレビ局や新聞社を敵に回す裁判に協力してくれる、奇特で命知らずな弁護士などなかなかいなかった。

 負けてもいいと言っても、一度でもマスゴミを敵に回したら、いつ報復の捏造報道をされるか分からないからだ。

 そんな危険を、僅から金額で引き受けてくれる弁護士などいないのが現実だった。


「まあ、弁護士とは強欲なうえに志もないのですね。

 でも、お金さえ積めば引き受けてくれる弁護士もいます。

 大丈夫ですよ、嘉一はずっと宝くじを買っているのでしょう。

 仏達が約束通り現世利益を与えてくれますよ。

 弁護士も、嘉一を通じて心の中を読みましたから、マシな人間を教えてあげます。

 それよりも『姥ヶ火』の報復が激しくなっていますから、訴える前に取材や報道を手控えるかもしれませんね」


 石長女神の言う通りだった。

『姥ヶ火』は日に日に力をつけているようで、報復がとても激しくなっていた。

 電話取材をしていた者が焼き殺されただけはなかった。

 火柱になって死んだリポーターと取材クルーの記憶と怨念を取り込んだのか、最近のSNSの噂では、電話取材を命じた上司を焼き殺すようになっていた。


 これほどの状況になったら、流石に社長や会長、役員連中も恐れるだろう。

 社員が焼き殺される事は平気でも、自分が焼き殺されるかもしれないと思ったら、取材を中止させる可能性が高かった。

 民間会社が相手だと、社長や役員が謝罪しないのは失礼と言いながら、自分達の人権無視は、社員でもない金で雇った芸人に謝罪させる下種共だ。

 顔出しして恨みを買っている人達に狙われる事を恐れているのだろう。

 特に今回のような超常現象だと、絶対に表にでて謝らない。


 嘉一は色々と考えていたが、その考えは全て神仏に伝わっていた。

 その結果が、石長女神の言葉となったのだ。

 嘉一は二十歳の時からずっと数字を当てる宝くじを買っていた。

 欲深い嘉一は、キャリーオーバーするたびに同じ数字を買い増ししていた。

 キャリーオーバーが五十億円を超えた時には、同じ数字を六口も買っていた。


 今回はそこまでキャリーオーバーしていなかったが、それでも二十億円以上はキャリーオーバーしており、同じ数字を三口買っていた。

 しかも、一つだけ数字を変えたモノを、全部で十七組合せ五十一口も買っていた。

 いくら神仏が現世に介入する力が少ないとは言っても、神通力で当選させたい玉を動かく事くらいはできた。

 だから、一等三口、二等六口、三等四十二口を当選されることができた。

 その合計金額は二八億三八七五万円だった。


「嘉一、そう何度も宝くじを当選させてしまうと貴男が疑われてしまいます。

 その当選金を使ってお金儲けをしなさい。

 それと、新聞社やテレビ局を潰すだけでは何の解決にもなりませんよ。

 談合して誘導するような捏造記事を繰り返し報道する事で、彼らは国民に選ばれた首相すら辞めさせる力を持ったのでしょう。

 だったら、貴男が談合できないように新聞社とテレビ局を手に入れるのです。

 その当選金を元手にそれだけの力を手に入れるのです」


 嘉一は石長女神の言葉に従って準備をした。

 神仏が最低限の信頼、依頼者を裏切ってマスゴミに寝返らないと判断してくれた弁護士に、マスゴミとの戦いを依頼した。

 個人では弱いので、マスゴミの人権犯罪を許さない非営利団体を立ち上げた。

 それだけでなく、マスゴミの人権犯罪を許さない地方政治団体も立ち上げた。

 そこに宝くじの当選金の一部を寄付して資金源とした。


 個人、非営利団体、地方政治団体で、マスゴミを提訴する前に、株が暴落すると予測して信用売りを行う。

 宝くじの当選金のうち二五億円を信用売りにつぎ込むが、これは犯罪だろうか。

 株の売買に関係する犯罪として一番最初に思い浮かぶのは、インサイダー取引と風説の流布だ。


 嘉一はマスゴミ内部の人間ではないのだが、インサイダー取引になるのだろうか。

 インサイダー取引とは、会社関係者等や第一情報受領者が、上場会社等に関する重要事実をだと知りながら、その重要事実が公表される前に、上場会社等の株式の取引を行うことだ。

 その取引で利益を得ようと損をしようと関係なく罰せられる。

 嘉一はマスゴミの人権侵害を知り提訴したが、マスゴミの人権侵害は嘉一だけが知っている事ではなく、ほとんどの国民が知っている事だ。


 風説の流布は、利益を得るために、虚偽の情報を流して株価を意図的に変動させる事なのだが、嘉一が提訴する内容は虚偽ではない。

 マスゴミが犯罪者とその家族の人権は尊重するが、被害者とその家族の人権を踏みにじる事は、国民の誰もが知っている事だ。

 まるで真面目に生きるよりも犯罪をする方が得だと国民をそそのかして、国の治安を悪化させる事で、現政権を打倒しようとしているかのようだった。

 嘉一はその点も総務省に訴える心算だった。


『地方政治団体の報道の自由に対する挑戦』

『与党と官僚による報道への弾圧』

『報道弾圧は自由と平等に対する犯罪』

『政治家の自作自演による報道弾圧』


 マスゴミは一致団結して総務省に圧力をかけた。

 大々的なキャンペーンを仕掛けて、放映権の取り消しや入札をさせない雰囲気を作ろうとしたのだが、それが失敗だった。

 以前ならともかく、今は国民一人一人が情報を発信できる時代だ。

 『姥ヶ火』による人体発火が、マスゴミによる被害者家族に対する人権侵害だったことを、既に多くの人が知っていた。


 リポーターの悲痛な情報を発信した後に、被害者家族がノイローゼになるほどの電話取材を繰り返した事も、既に広く知られていた。

 そんな人権を犯しておいて、自分達の権利だけは厚顔無恥に押し通そうとした事で、一気に反マスゴミの機運が広がっていった。

 そしてそんな身勝手な主張を繰り返していたアナウンサーが、まるで天罰のように、生放送中に人体発火したのだった。

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