第27話:忍び寄る恐怖

 嘉一を襲った偽弁護士と自衛官四人は警察に現行犯逮捕された。

 生き残っていた自衛官が居たら、自衛隊の面目にかけて警察には引き渡さず、自衛隊内の警務隊が確保して調査しただろう。

 嘉一も襲ってきたのが偽弁護士だけなら、対戦車ロケットランチャー事件の時と同じように、自衛隊の警務隊に引き渡しただろう

 だが今回は、警務隊に引き渡したら隠蔽されてしまう可能性があったので、嘉一の指示を受けた影武者達が警察に通報して引き渡したのだ。


 嘉一は念のために偽弁護士と銃撃してきた自衛官の身元を調査する事にした。

 観音食堂で懇意になった神仏にお願いして、実行犯五人について調べてもらった。

 神仏が祀られている場所は、日本各地に無数に存在する。

 その拠点を通じて五人の身元を調査する事を思いついたのだ。

 仏壇や神棚があって、祝詞や念仏を唱えていれば、その内容によっては神仏と繋がっている可能性があることに、ようやく気がついたのだ。

 

 最初は現世の人間への介入に消極的だった神仏も、嘉一がもう十分介入して俺を巻き込んでいると怒り半分で文句を言った事で、渋々承知した。

 嘉一は付喪神と物の怪達にも五人の身辺調査をお願いした。

 滝畑ダム周辺の調査を中止する事になるが、嘉一が国民を護るために存在するはずの自衛官に射殺されそうになったことは、流石に見過ごせる事ではなかった。

 神仏も文句を言う事などできない状況になっていたのだ。


 そこまでやれば直ぐに情報が集まると思われていたのだが、神仏を通じても全く情報が集まらず、神棚や仏壇の前で祈らない者達のようだった。

 あるいは、仏壇や神棚があっても祝詞や念仏を唱えない者達かも知れなかった。

 嘉一は観音食堂の神仏からの情報を諦め、付喪神と物の怪達、あるいは警察からの情報を待つことにしたのだが、残念ながら警察からの情報は期待できなくなった。

 事もあろうに、五人とも留置所内で自殺をしたというのだ。


 スナイパー事件以後、綱紀粛正が行われたはずの大阪府警の留置所で、厳重に監視していたはずなのに、その目を掻いくぐって五人とも逮捕翌日に自殺したのだ。

 誰がどう考えても不審極まりない出来事だった。

 嘉一は影武者を通じて、影響下に置いたマスメディアを使って、徹底的に自衛隊と大阪府警を叩き、持っている情報を全て吐き出させようとした。

 それだけでなく、マスメディアには官省庁の不正を許すなと指示したうえで、個人資金を提供してまで独自に調査させた。


 だがマスメディアの徹底した追及を受けても、自衛隊も警察も最低限の情報しかださず、五人の繋がりは四人が自衛官だという、嘉一も知っている内容だった。

 嘉一が徹底的にキー局や準キー局を叩いた影響で、嘉一が支配下に置いているマスメディアは精々広域局しかなかったので、調査能力が激減していた。

 しかも見張らせていた付喪神と物の怪達からの報告では、マスメディアには全くやる気がなく、調査するふりをしているだけの状態だった。


 行き詰った嘉一は、マスメディアの力に見切りをつけて、被害者当事者としてネットで情報を集める事にした。

 情に訴えて、五人の氏名と年齢、住所と顔写真を公開して、共通している所がないか情報提供を求めた。

 弁護士会や権利屋、勢力を残している反日反政府勢力や人権屋が、犯罪者とその家族に対する人権無視だと、被害者の嘉一を訴えた。

 いや、何と与党第二政党までが嘉一を訴えると脅してきた。


 だがこのような動きは、多くの日本人の反感を買うだけだった。

 それでなくても嘉一はマスゴミと反日反政府勢力の犯罪を暴いた英雄だ。

 その英雄を殺そうとする組織は日本人の敵として認識されていた。

 少なくとも、まだ秘匿性があると思われているネットの世界では、リアルの利害関係を恐れる事なく情報発信ができると思われていた。

 そのお陰で、とんでもなく重要な情報を嘉一は得ることができたのだ。


「少なくとも自衛官の四人は、同じ思想信条の団体に所属していた」

「表向きは無神論者と言っていたが、隠れ信者だった」

「その内と一人と一緒に、信者である事を公表している自衛官の葬式に行った事があるが、一般記帳とは違う、信者のための記帳をしていた」

「俺も同じよう現場を見たことがある」

「○○は信者で間違いない」

「××も信者だ、俺が断言する」

「偽弁護士も信者だと思う、みた事がある」


 嘉一は次々と集まる重大な情報に、今までぶつかってきた壁の理由が分かった。

 どれほど情報を集めようとしても、誰も彼もが報復を恐れて何も言わなかった理由が身に染みて分かった

 教祖だけを敬う信者ならば、神仏につながる神棚も仏壇もなくて当然だった。

 警察の留置所でも、誰にも見つからずに自殺と見せかけて殺す事も簡単だった。

 政権与党第二党が脅迫してきた理由も分かった。

 彼らの母体となる団体こそが、その宗教組織なのだ。


 嘉一には苦い思い出があった。

 ネットで、ある思想信条を信じる集団の悪口を書いたら、その翌日から毎日夜中にピンポンダッシュをされるようになったのだ。

 警察に相談しても全く取り合ってもらえなかった。

 その事を記録に残そうと一一〇番通報で問あわせたら、ようやく地域の警官が相談に乗ってくれたが、思い当たる人間が子供なので、訴える事もできないと言われてしまったのだ。


 だが一一〇番で相談した日から、ピンポンダッシュをされることはなくなった。

 不審に思った嘉一は、地域の縁故を利用してピンポンダッシュをしていると警察官が教えてくれた子供の事を調べた。

 予想通り、その子供は嘉一が悪口をネット投稿した思想集団の信徒の子供だった。

 それ以降、嘉一はその集団と係わらないようにしていた。

 

 大阪ではその思想集団がとても力を持っていた。

 嘉一の住む市の職員も、思想集団の信徒が恐ろしいくらい多くいるそうだ。

 自分が信徒だと公表している市職員だけでもとても多い。

 だが問題は、今回の件と同じように、公表していない隠れ信徒が恐ろしいくらい多い事だった。

 ネットの情報と同じように、葬式の記帳でそれが分かったと、嘉一が幼い頃から知っている兄貴分が教えてくれたことがあるのだ。


 だがその怖さは、嘉一の住む市だけで起こっている事ではない。

 大阪府下の全ての市町村で起こっている事なのだ。

 それというのも、思想集団を大阪で躍進させた者がいたのだ。

 そいつが使った手は、思想手段が投票して当選させた議員を使って、収入の少ない人間の生活保護申請を手助けさせる事だった。

 だから大阪府の生活保護者数と連動して、その思想集団の信徒数が増えていた。


 嘉一は昔からその思想集団の存在に恐怖していたが、今回の銃撃殺人未遂とその後に行われた不審な自殺に日本の将来に絶望した。

 政教分離は日本国憲法に定められた大原則だった。

 だが憲法十九条にはヒステリーのように声を荒げていたマスゴミが、思想集団の票で組織された政権第二与党に何も言わなかった。

 それどころか、番組に信者枠を設ける始末だった。


 オウム真理教が選挙に出た時には徹底的に批判していたのに、政権第二与党の存在には全く何も言わなかった。

 テレビ局や新聞社に出される広告費という名の賄賂に黙らされていたのだ。

 官省庁内に、信徒による研究会という名目の、官庁内官庁が組織されている事にも、全く危険視する事なく報道もしていなかった。

 政権第一与党の国会議員達も自分達に票を回してもらう事を条件に何も言わない。

 嘉一はそんな思想集団と戦うか逃げるか決断を迫られる事になった。

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