第5話:連続放火

「○○市で連続放火時間が起こっているそうだよ」

「○○神社まで放火されているのだって」

「もう八件目だそうだ」

「逃げ遅れた人が三十人以上死んでいると聞いたぞ」

「模倣犯がでないようにテレビや新聞で取り上げていないそうだ」

「そんなことしなくても、誰もマネしないよ」

「みんなで行ってSNSに投稿しない」


 SNSにとても気になる情報が流れていた。

 もっと早く見つけていれば、八件も放火される前に現地に行けたかもしれない。

 嘉一はそう思いながら、急いで出かける用意をした。

 嘉一は自動車運転免許を持ってはいるが、車を持っていなかった。

 若い時に運転して以来、ずっとペーパードライバーだった。

 だから直接事件現場に行くことができなかった。


 嘉一の住んでいる地域から、放火事件のあった場所に行くのには、車の方が直線で行けてとても速い。

 外環状線を使えば、道さえ込んでいなければ三十分で行くことができる。

 だが電車で行くとなると、一旦JRか私鉄で鶴橋まで行き、近鉄奈良線に乗り換えて行かなければいけなかったのだ。


「殺された家の子供達は虐めグループだったそうだぜ」

「放火事件が始まる前に、虐められていた子が自殺したそうだぜ」

「虐めグループに脅されて、無理矢理万引きさせられて警察に捕まったそうだ」

「警察に捕まった上に、学校を退学させられたんだって」

「虐められた子の退学を強く主張した先生の家も放火されたそうよ」

「虐められていた子を退学させた先生が、虐めグループからお金を貰っていたっていう噂を聞いた事があるわ」


 嘉一が時間をかけて地域の飲食店を周り、店主や従業員、常連客から集めた噂話を総合すると、どう考えても放火されて死んだ連中の方が悪人だった。

 嘉一の基準からすれば、恨みが晴れるまで、虐めた連中を殺せばいいと思うのだが、神仏がどう考えるかは別だった。

 祖母と涅槃で再会するために徳を積みたい嘉一は、自分で判断する事なく地元に戻り、地域の氏神様に詣でて常世の神仏に判断してもらった。


「困ったわね、あの神社の祖神は中臣氏なのよね。

 しかも他の神は全員武闘派で、仏を敬わないのよ。

 更に言えば、物の怪を教え諭して輪廻転生の戻すのではなく滅してしまう事が多くて、一緒にいたい神じゃなのよね」


 ニューハーフ仏は全ての衆生を助けたいと言っていたから、武闘派の神様とは相性が悪いのだろうと嘉一は思った。

 

「そんな神様の社にまで放火しちゃったら、可哀想な虐められっ子が滅ばされてしまうから、急いで救ってあげなければいけないわね。

 そのためには、いちいち電車で移動してはおられないわね。

 嘉一は原付の免許も持っていたでしょ。

 急いで原付を買って、明日から毎日あの周辺を歩き回ってちょうだい。

 そうすれば『姥ヶ火』に出会えると思うから」


 神仏の力関係や派閥など分からない嘉一だったが、この場にいる神仏とあの神社の神々が不仲な事だけは分かった。

 同時に、今回放火している物の怪が『姥ヶ火』という存在なのも分かった。


「教えていただきたいのですが、自殺した虐められっ子が『姥ヶ火』という物の怪になったのは何故ですか。

 自殺した子が神社の境内で首を括ったという噂がありましたが、そう言う場合は『縊鬼』になるのではないのですか」


「嘉一の疑問はもっともね。

 あの神社に『縊鬼』の怨念が少しでも残っていたら、自殺した子は『縊鬼』に変化していた事でしょう。

 ですがあの神社には『縊鬼』ではなく『姥ヶ火』の怨念が残っていたのよ。

 だから自殺した子と『姥ヶ火』の怨念が一緒になったの。

 さらに周囲に漂っている恨み辛みを引き寄せる事で、強大な物の怪となったのよ」


「もの凄く気になるのですが、自殺した子の怨念だけでなく、元々あった『姥ヶ火』の怨念と周囲の恨み辛みが集合したのなら、虐めっ子達を全員殺しても、放火が終わらないと言う事でしょうか」


「ええ、そうよ、その通りよ。

 虐めっ子達、それを手伝っていた連中、見て見ぬ振りをしていた連中まで殺しても、復讐は終わらないわ。

 周囲にあった僅かな恨みの元になった人達まで殺してしまうわ。

 いえ、力が弱まった『姥ヶ火』は、新たに恨み辛みを集めて力を取り戻すでしょうから、永遠に放火が終わらないわ」


 ニューハーフからそう聞いた嘉一は、急いで常世をでて現世に戻った。

 安い高いや性能、見た目も考えずに、直ぐ手に入る原付を購入した。

 寂れた地元で原付を売っている店は一軒しかなかった。

 隣接する比較的栄えた市に行けば色々選べたのだが、そんな時間はなかった。

 悪人が報復されるのは当然だという考えの嘉一だが、ほんの少しの恨みで人が殺されると聞かされたら、見過ごす事などできなかった。


 その日から嘉一の『姥ヶ火』探しが始まった。

 連続放火殺人という大事件が発生している地域だから、当然警察による厳重な警戒がされていたので、地域の住民でもない嘉一が原付でうろうろしていれば、何度も職務質問をされる事になる。


「高橋さん、高橋さんじゃありませんか。

 どうして貴男がここにいるのですか」


 四度目の職務質問を受けた相手は、前回の縊鬼騒動の時に取り調べをしてくれた刑事さんだったのだ。

 前回の縊鬼騒動の時に考え方が同じなのは分かっていたので、何度も職務質問を受けて、何処にも持って行きようのない苛立ちを感じていた嘉一には丁度よかった。


 犠牲者が三十人を超える連続放火事件が起こっているのだから、警察が地域住民を護るために厳しい警備をするのは当然の事だった。

 だからこの地域に無関係な嘉一が何度も職務質問を受ける事は、警察の警備が正しく行われている事なので、本来なら喜ばしい事なのだ。

 だが『姥ヶ火』探しを邪魔されているので、苛立ちはつのっていた。


「ネットで情報を流すフリーの記者になったのですよ。

 まあ、はじめたばかりの上に兼業なので、名刺もないんですがね」


 嘉一はこの地域をウロウロする言い訳を考えていた。

 記者と名乗るだけで、それが例えフリーの記者であろうと、警察に強制排除され難くなるのだ。

 嘉一自身は記者という名の強請り集りの暴漢は大嫌いなので、本当は記者などと名乗りたくはなかったのだが、身勝手に行動するためには仕方がなかった。


「高橋さんの事だから大丈夫だとは思うが、自殺した子の両親に無理矢理話を聞こうとしていないでしょうね」


「そんな傍若無人な事はしませんよ。

 まさか、新聞記者やテレビのレポーターがそんな酷い事をしているのですか。

 虐めっ子達に無理矢理万引きさせられて、虐めっ子達から金を受け取った教師に学校を退学させられて、自殺してしまった子の親を晒し者にしているのですか」


「ああ、あの連中に常識や人情なんて欠片もないさ。

 警察が警備しなければいけないくらい、酷い取材をしてやがる。

 暴行を繰り返していた連中の中に、大手新聞社に勤めている子供がいる、

 それを隠蔽するためにも、虐め殺された子を悪人に仕立て上げたいようだ」


「ギャアアアアア」

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