第4話

俺はその場に崩れ前のめりに倒れた…なん…だよ…これ…予定では…ここで小山内が…コイツら…ぶちのめす手筈じゃないか…苦しくて息が出来ない…小山内も現れない…

重森…重森…

俺は朦朧とした意識の中重森の姿を目で探した。あれ?なんか不思議な光景が…

俺の目の前で…次々とガラの悪い野郎共が倒れていく…小山内…じゃねぇ~~~!?

俺は自分が今目にしている光景をにわかには信じきれていない…

重森?…何で?そして…俺は気を失った…



おっせぇーなぁ…黒ちゃんなにやってんだよ…もう待ち合わせる時間とっくに過ぎてんのによ…

黒崎達を襲う手筈で待機してる不良グループの仲間達も待ちくたびれて痺れを切らしている。


「おぉいまだかよぉ…もう20分も過ぎてるっスよ!」


「悪い悪い、何かあったのかもな…ちょっと様子見てくるから待っててくれ」


そう言って黒崎達の姿を探しに行く。

確かに重森と合流したってメール来たのにおかしいなぁ…もうとっくに合流出来てもおかしくないはずなんだよな…しばらく歩いて細い路地に入った時に二人の姿が…ちょっと待てよ…何で黒ちゃん座りこんでんだ?てか、このガラの悪い連中…何でぶっ倒れてんだ?

あぁ…なるほど…俺たちと合流する前に本物の喧嘩に巻き込まれて全員黒ちゃんがやっちまったのか…こりゃひとまず作戦立て直しだな…

待機させてる不良グループの下へ小山内は戻って行った。



「大丈夫か?」


重森が俺の横に座って言った。


「う…うん…」


俺はメチャクチャ情けない姿を晒している。

男の俺が女一人守れず、あろうことかその女に助けられてしまった…俺は…気を失う寸前目にした光景が今でも信じられないでいる。

俺がみぞおちに一発喰らって倒れた時に重森は腕を掴もうとした相手の手を掴み、くるっと一回転させて倒した。更に次々襲ってくる相手を廻し蹴りや投げ技でバタバタバタと倒してしまった。6人全員重森一人に地を舐めさせられている…しかも重森は無傷…

この状況を簡単に受け入れるにはあまりに現実離れしていた…


「いったい…何者?」



小山内は仲間の下へ走って戻って行く。

黒ちゃん…大丈夫だったのか?

まぁ、あの黒崎天斗ならあのくらいわけ無いだろうけど…てか、俺の見せ場が無くなっちまったじゃねーかよ…あいつが目立っちまってあいつに重森が惚れちまったら元も子も無いじゃねーかよぉ…

小山内が走って戻って来た。仲間達がヤンキー座りでタバコをふかしている。一斉にこっちを睨み付けてきた。黒崎達が来たのかと思い構えた。


「なーんだ…キヨちゃんかぁ…」


「ちょっとトラブル発生で予定変更だ」


「何だよトラブルって」


「アイツらほんとに誰かに絡まれて数人倒れてたんだよ。このまま作戦強行するわけにはいかんだろ…」


「じゃあどうすんだよ」


黒ちゃんに連絡するのも不自然だしなぁ…どうしよ…かといって、せっかく来てもらったコイツらそのまま帰すわけにもいかないし…うーん困った…



「重森…いったい何者なの?」


俺はこの無口で掴み所のない重森の裏の一面を目にして困惑している。


「フッ、覚えてないよねそりゃ…」


え?何のことを言ってるんだ?何を覚えてないというのか…

俺はこんな化け物全く知らんし…

そういや清水が従姉妹頼ってって…もしかしてこういうことだったのか?


「何のこと?」


「まぁ、いいよ別に」


それすごーく気になる言い方!そんな思わせ振りな言い方したら聞きたいでしょ!


「俺重森と知り合いだった?」


「…ほら、プレゼント探しに行くんでしょ?」


すごく中途半端にはぐらかされてモヤモヤが取れない。

てか、そうだ!やっべぇ!小山内達に何の連絡もしてない…作戦が…


「悪い、ちょっと電話してくるから待ってて」


そう言って俺は小山内に電話をかけに行く。



黒ちゃんどうすりゃいいんだよ…コイツらどうすりゃいいんだよ…何でこんなことになるんだよ…

小山内は両方の板挟み状態にイライラが隠せない。そのとき…着信音


「もしもし、黒ちゃんか?」


「ごめんなぁ~、ガチで数人に絡まれちゃってさぁ、ちょっと遅くなっちまった」


「それは知ってる、さっき様子見に行ったら倒れてるやつ見たから…まぁ、黒ちゃんならあのくらい楽勝だろうけど」


小山内…あれ俺がやったと思い込んでるのか…まぁ、それはそれで都合良いんだけど…


「で、これからどうしたらいい?」


「うーん…参ったなぁ…せっかく休みにアイツらに来てもらったんだけど…仕方ない…謝って帰ってもらうわ…」


「それでこの後は?」


「上手いことさぁ、俺と合流して行動するってどう?」


「ま、それが一番良いよな。小山内がメインの作戦だし」


「じゃあ、偶然装ってあそこのデパートの本屋で合流で」


「オッケー」


とりあえずアイツらには申し訳無いが今度埋め合わせするってことでお引き取り願おう…


電話を切り重森の元へ戻った。


「悪い悪い、ちょっとダチに電話するの忘れてて」


「別にいいよ。」


俺は重森と知り合いだったのか考えながら歩いていた。このモンスター…と知り合い?

なんかすごーく遠い漠然としたトラウマがあったような…でも、どうしても思い出せない。モヤモヤしたまま小山内との待ち合わせ場所に向かった。


「女子って例えばどんなものが喜ぶかな?」


「うーん…二人のお揃いで身につけるものとか良いんじゃない?」


「アクセサリーか?」


「そういうのかな」


ブラブラ適当に歩くふりをしてさりげなく本屋に誘導する。本屋の前を通りすぎる時に偶然小山内と鉢合わせる。


「あっ!黒ちゃん!」


「おぅ、小山内一人か?」


「うん、ちょっと用事でな」


俺達はさりげなく出会ったふりする。


「黒ちゃん…重森と…デートか?」


「何を言ってんだよ、ちょっとプレゼント選びに付き合ってもらっててな…」


「マジか!実は俺もちょっと惚れた女に柄にもなくプレゼントとかしてみようと思ってな…」


「だったら一緒に重森に選んでもらおうぜ!重森…どうかな?」


重森は全く小山内の方を見ようともせず完全スルー…やっぱコイツ人見知りなのかな?あんまり馴れ合うの好まないのかもな…


「あっ…あの…俺迷惑だったら別にいいよ…」


小山内が困惑してる。

重森が


「別にいいけど」


素っ気なくそう言った。


「じゃ、じゃあ一緒に選んでくれよ、な?」


俺がそう言って重森は黙ってコクッと頷いた。


「ありがとう重森…さん…俺女心とかよくわかんねーし、どんなものが喜ぶか悩んでてな…」


小山内が言う。更に続けて


「重森…さんだったらどんなものが良いかな?」


「…うーん…私は別に…」


「そ、そか…重森さんはあまり飾るようなタイプでも無さそうだしな…」


小山内…それはあんまり良い言葉ではないと思うぞ…もう少し女心勉強しろ!


「私は…プレゼントよりも私を守ってくれる強い男が好き…」


!?!?!?今何て!?お…お前を守れる強い男!?い…居るの!?そんなバケモンが!?あの…強面集団をいとも簡単にブッ倒す重森より強ぇ男なんてそうそう居ないと思うぞ!?居るとしたら本物黒崎くらいじゃないの!?俺はついさっき目の当たりにした光景を思いだし身震いした…小山内が占めたとばかりに


「おぉ~、そうなんだ!重森ちゃん強い男が好きなんだ!そうかそうか!」


小山内は何も知らないからこんなに浮かれてるが…このじゃじゃ馬を乗りこなすのは到底お前には無理だと心の中で俺は思っていた…

架空のプレゼント探しも結局何も決めないまま三人はそれぞれ駅で別れた。

重森…重森…重森…重森…うーん…どうしても思い出せない…どこか何か引っかかるような気もするがそれがなんだったのかわからず俺はモヤモヤしたままだ。久しぶりに清水に電話して聞いてみようかとも思った。

そういや清水…今何してるかなぁ…

俺は清水のことを忘れてるわけではなかったが、あれから何となく連絡も取らずにいた。



一方理佳子は…


「タカ…今ごろたかと君は何してるのかな…」


猫のタカに切なそうにそう問いかけてみる。

ミャアオ…


理佳子の膝の中でなでなでされて気持ち良さそうにしていたタカが顔を上げ鳴いた。


「たかと君…すっかり忘れちゃってるもんね…もう10年以上前だもんね…私も久しぶりに会ったとき初めはたかと君のことちょっと忘れてたもんな…仕方ないよね…」


昔の淡い記憶を回想して切なくなっていた。



清水…会えないと思うとすげぇあいつのこと愛しくなってくるな…会いてぇな…声聞きてぇな…何してるかな…今忙しいかな…そんな思いが頭の中をぐるぐる回っている…あの告白を受けてからまるで自分の彼女のように清水のことを想うようになっている。お互いがお互いのことを想い考えているなか…


理佳子の携帯に着信音


「もしもし理佳?」


それは理佳子の従姉妹、重森薫だった。


「かおり~!久しぶり。元気にやってる?」


「うん、たかと…のことだけど…」


理佳子はその名前を聞いた瞬間胸がギューっと締め付けられるような思いだった。

たかと…君…薫からその名前が出てきた…自分でもわからないジェラシーに似た感情がわいてきた。自分には手の届かない所に居る天斗が、従姉妹はいつでも彼の姿が見えて声が聴けて話しも出来る距離…今の自分には何一つ叶わない…どれほど声を聴きたくても、どれほど姿を見たくても…じっと我慢することしか出来ないのに薫は…


「理佳…理佳の気持ちは知ってる…だけど今日たかとと一緒に好きな人の為にってプレゼント選び付き合った。」


理佳子はフーッと意識が遠退くような感覚に襲われた。いったい誰に!?誰にプレゼントを選ぶの?私の想いはたかと君には届いて無かったの?

急に不安な気持ちに陥った。


「それ…誰とか言ってた?」


聞きたくないけど聞きたいような複雑な心境だ。


「誰とは言ってないけど、多分私的には理佳のことなんだと思ったよ」


多分…多分じゃわからないじゃん…それがもし他の女性だったら私…


「それで…プレゼントはどうなったの?」


「途中他の男子と合流して結局何も決まらず帰ったんだけどね」


「そっか…」


「理佳…アイツ良いやつだね」


薫…いったいたかと君との間に何があったの?薫は弱い男は大っ嫌いって…昔から言ってたじゃん…理佳子は嫉妬心から疑心暗鬼に陥っている。

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