最終話

「こんにちは~!」


「あら小山内君、いらっしゃい。天斗なら部屋に居るわよ」


と言うが早いか、階段を降りてくる天斗。


「よう!来たな!」


「黒ちゃん!この間のかおりんの父ちゃん、凄かったなぁ!マジ感動したわ!カッコ良かったよなぁ!何度も思い出しては眠れなくて寝不足だわ!」


興奮気味に話す小山内。その会話を聞き


「えっ?薫ちゃんのお父さん?」


天斗の母、美知子が天斗に聞いた。


「うん、ちょっとこの間、世話になった人なんだけど、それが重森の父ちゃんだったらしくてさ!」


「小山内、今日重森はどうしたんだよ?」


「何だか父ちゃんとお母さんを会わせるって言って出かけちゃったんだよ。」


「えっ?薫ちゃんのお母さん?」


また美知子が口を挟む…


「母さん、重森のお母さん知ってるの?」


「ううん…薫ちゃんのお母さんの話は聞いた事無かったから…」


そう言って誤魔化した。


「そっか」


そう言って天斗と小山内は2階の部屋に行ってしまった。


「あなた!どうしよう…」


動揺した美知子がリビングに居る天斗の父、正男の元に駆け寄る


「天斗が…天斗が…」


オロオロする美知子に何事かと正男が


「天斗がどうした?2階に居るだろ?」


「違うの!違うのよ…あの人に…」


「美知子、落ち着いて話しなさい。話しが見えて来ないじゃないか!」


美知子が顔を引きつらせながら


「天斗が矢崎拳に会ったって…」


そう言ってその場に座り込んでしまった。


「美知子…聞きなさい」


正男は落ち着いて優しく穏やかな口調で美知子に話す。


「美知子、天斗の父親は誰だ?」


「………あなた…ごめんなさい…そうよね…天斗の父親は…黒崎正男…そうよね…」


美知子はすがるように正男を見つめた。


「そうだろ?誰が何と言おうと天斗の父親は俺だろ?何も間違ってないだろ?天斗が誰に会っても何を知っても何も問題ないんだよ。何も怖くないんだよ。」


正男はそう言って美知子の頬を手で包み込んだ。


そして2階の天斗の部屋。


「重森が居なくて暇だから来たのか?」


「違うんだよ!実は黒ちゃんに相談したい事があってさぁ…ちょっと黒ちゃんの知恵を貸して欲しいんだよ!」


「相談?ちょっと待て!また厄介事か?」


「いやいや実は…俺、かおりんにプロポーズするって決めたんだよ」


「えっ?今更か?」


「そうなんだよ!今更って思うだろ?でもかおりんが、ちゃんとプロポーズしなきゃ認めないって…だから頼むよ…」


そう言って土下座する小山内。


「え?ちょっと待てって…何で土下座?」


「かおりんが嬉しくて思わず涙するようなロマンチックなプロポーズ、一緒に考えてくれよ!」


「………マジか……」


「ここ数日ずっと考えてるんだけど、どう言ったら喜ぶのか…女心なんかわかんないし…」


「まぁ、そうだろうな…俺でもわかんないんだから小山内なら尚更だわな…」


「だろ?だろ?だから一緒に考えてくれよー!一緒に考えたら良いこともあるんだしさぁ!」


「ん?良いこと?何で?」


「だって黒ちゃんもいつか理佳子ちゃんにプロポーズするだろ?俺がかおりんにするプロポーズを黒ちゃんも使えばいいじゃん!これぞ一石二鳥!」


小山内は胸を張って言った。


「えーっ?」


いやいやいや…マジないし…小山内に背中を見せてため息をつく…そして天斗の提案で理佳子に助けを求める事にした。


「もしもし、理佳子か?」


「理佳子ちょっといいか?」


「たかと君どうしたの?」


「実はさぁ、今、小山内が来てるんだけど、理佳子の知恵を借りたくてさぁ」


「小山内君?知恵?」


「黒ちゃん!スピーカーにしてよ!」


「あっ、そっか」


「理佳子ちゃん久しぶり~」


「小山内君、久しぶりです」


「理佳子ちゃん実は俺、かおりんにプロポーズするんだけど、かおりんが嬉し涙を流すようなプロポーズ、どうしたらいいか理佳子ちゃんに聞きたいんだよ!女の子の意見聞かせて!」


「えっ?それは難しいよぉ…」


「でも、こんな事言って欲しいとかさぁ、ビシッと決めセリフとかあったら教えてくれないかなぁ?」


「うーん…誰しもが同じじゃないからわかんないけど、私だったら飾らないそのままの天斗君がいい…だから決めセリフを気取って言われるより、天斗君の言葉でそのままの気持ちを言ってくれればそれで十分かなぁ」


「なるほど…そっか…自然体で俺の気持ちを俺の言葉でかぁ…」


理佳子…そうなのか?なるほど…小山内の厄介事も時には役にたつもんだな…


「あっ!でもね…」


「ん?」


「ムードは大事だよ!言葉より大事かも!」



その日の夕方の小山内家。外を覗いてはリビングに来て、リビングに来ては外を覗く小山内…


「清、何やってんのさ?」


「母ちゃん…かおりん…遅いなぁ…」


「遅いってまだ4時じゃないか!」


「そうなんだけど…」


夜8時過ぎ


「ただいま~」


「かおりん!かおりん!かおりん!」


「き…清…何?」


「かおりん、ちょっと出かけよう!」


「えっ?今から?いいけど…」


「よし!行こう!」


そう言ってバイクのキーを持って薫の手を引っ張り玄関に向かう。その2人の後ろから吟子の声が


「清、頑張れー!」


吟子は悟っていた。


「おう!」


二人を乗せたバイクはちょっとした峠にさしかかる。そこは地元では夜景スポットとして有名な場所だった。この日はそれほどの冷え込みでも無かったが、やはり山の空気は街中よりも一段と冷たく感じられた。


「清…急にこんな所に連れてきてどうしたの?」


薫は少し唇を震わせながら言った。小山内は自分の来ていたジャンパーを脱いで薫の肩から羽織らせる。


「清寒くないの?」


「俺は季節感の無い子供と一緒だから…かおり…見て!」


小山内は眼下に見下ろす綺麗な夜景を指差し薫を振り向かせる。


「凄く綺麗!空気が澄んでるから夜景が映えるね!」


小山内は薫の後ろからそっと抱きつき薫の胸の辺りで手を組む。そして…その手には…


「かおり…遅くなっちゃったけど…」


そう言って薫の左手を取り、小山内が手にしていた指輪を見せる。


「かおり…俺と結婚してくれ…一生俺のものでいて欲しい…」


「清…これどうしたの?」


小山内は薫の左手薬指をつまんでリングをはめる。


「清…」


小山内の指にも同じリングがはめられた。


「かおり…」


そう言って薫を自分の方へ向かせて…


しばらく二人の唇が重なりあったあと…


「一生離さないで…」


「離すもんか…俺は…お前を…必ず幸せにしたい。いや、幸せにする!だから…付いてきて欲しい。そして道を外しそうになったら引き戻して欲しい。かおりが道に迷ったら俺が道を照らしてあげる。だから、二人なら絶対に大丈夫!一人ではダメ!でも二人でなら必ず大丈夫!俺はかおりが居れば絶対幸せだ!だからかおりも俺が居れば幸せになる!かおり…愛してます。」


「………バカ。」


薫はニッコリ微笑み


「合格…」


薫はそう言って小山内の胸に顔を埋めた。



卒業式当日。生徒達は体育館に綺麗に並べられた椅子に座り、卒業証書授与の順番を待っていた。次々と呼ばれ1人ずつ壇上に上がり、校長から一言ずつ貰い壇上から降りて着席する。


「赤坂昌利!…上野洋子!…遠藤由実!…大田和也!…大谷徹也!…小山内清!…」


そう、小山内清は奇跡的に皆と一緒に卒業証書を受け取ることが出来たのだ…吟子は息子の晴れ姿を見つめる。その後、天斗の名前が呼ばれ、薫の名前が…「重森薫!…」薫が立ち上がり壇上に歩み寄る姿を保護者用の席には兄透、そしてその横には、食い入るように見守る真紀の姿があった。涙で視界を遮られハンカチで拭いながらも、一瞬たりとも目を離さず薫を目で追う…全員の名前が呼ばれ、余すことなく卒業証書を受け取り卒業生は着席を終えた。そしてこの体育館出口辺りで新入生の相澤と加藤が涙を堪えながら一年を振り返り想い出に浸っていた。

俺達は、あの人達が築いたこの学校の在り方を…紡いで行きますよ…花には水を…人には愛を…今度は俺達がこの学校を一つに纏めあげるんだ!

小山内の男気はしっかりと新しい芽に受け継がれていく。


一方理佳子も卒業式を終えて学校生活最後の校門を抜けて帰ろうとしていた。そして待ち構えて居たのは…

いつの間にか増えていた理佳子のファンクラブの一年生達が行列を作って理佳子に熱い視線を送って涙していた。

石井から、もし少しでも理佳子先輩に迷惑になるような行為をしたら命の保証は無いと事前に説明を受けていた一年生達は、黙って理佳子を見守り続けていた。その姿を理佳子の母可奈子は複雑な気持ちで見ていた。


「え?もしかして!理佳子先輩のお母様ですか?」


石井が可奈子を見て驚く…理佳子先輩の将来の姿を見ているようだ…美しい…実に美しい…理佳子先輩もこんな歳の取り方していくのかぁ…くっそぉ~…理佳子先輩のハートを射止めた黒崎って奴が羨ましい…

正直可奈子はかなりドン引きしている。理佳子もどうしていいかわからず、まるで天皇陛下が庶民に手を振るが如く小さく手を振りながらペコペコ頭を下げて立ち去る。


翌日


いつもとは様子が違い、朝早くから何やらあわただしく会場の準備をする人達がいた。ここは薫の知り合いが経営する地下のライブハウス。会場の入口には大きくカラフルな花のアーチが据えられ、所々に置かれたテーブルには所狭しとオードブルが置かれていた。そして入口からステージに向かって赤く細長い布が敷かれている。来場者が全て集まった所で一気に照明が落とされ入口にスポットライトが照らされる。そしてそのライトが射す先には、タキシードを来た小山内とウエディングドレス姿の薫。一斉にギャラリー達の祝福の歓声が上がり、会場は一気に盛り上がる。小山内と薫は手を繋ぎ、ゆっくりと赤い布の上を進んで行く。ステージ壇上の手前には小山内の両親と薫の両親、父、矢崎拳と母、真紀の姿。薫と小山内はそれぞれの両親に向かって深々と頭を下げる…


「お母さん…」


薫は感極まって堪えきれず大粒の涙を流し、小山内が優しくハンカチでそっと涙を拭う。


「薫、せっかくのお化粧が崩れちゃうでしょ…」


そう言う真紀も涙を流す…続けて


「薫、とっても綺麗よ。お母さん、こんな姿の薫を見れて…この場所に居れて…とても幸せよ…全て、薫のおかげよ…ありがとう…生きてて良かった…」


「お母さん!」


薫が真紀に抱きつく。この会場に居る全ての人達も感極まって涙し歓声を上げる。


「お母さん…ありがとう…本当にありがとう…まさか、こんな素敵なウェディングドレスを用意してくれるなんて…お母さんがあんなに質素な生活してたのに…どうしてこんな…」


真紀は自分の為には一切お金をかけず、ずっとこの日の為に貯金を続けてきた。いつか子供達の為にと…そして矢崎拳もこの式場の費用から薫達を祝福に訪れる者達全ての会費までを負担したのだった。


「拳さん…良かったですね…奥さんとまた…」


拳ははにかんで


「この歳になってまた新たな生活が始まるなんて思っても見なかったよ…本当に妻に感謝してる…」


スタッフの進行で披露宴は盛大に盛り上がった。ここには、天斗と理佳子、そして理佳子の母可奈子、薫の仲間達、伝説黒崎の仲間達、小山内の仲間達も出席していた。が、伝説黒崎の姿は見えない…黒崎は一人ホールの外でひっそりと複雑な想いで薫の綺麗なウェディングドレス姿を見つめていた。


そして数日後…天斗の家の前に一台のトラックが横付けされた。すぐ後から一台の乗用車。後部座席から降りてくる少女…ペット用キャリーケースを手に満面の笑みの理佳子の姿があった。


後書き


この度は最後までお付き合い頂きましてありがとうございました。この小説の後に黒崎天斗伝説のプロローグを読んで頂きますとまた別の角度で見えてくるものがあると思いますので、引き続きお付き合い頂けましたら幸いです。

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