第17話

いつまでもこうしてウダウダしてても理佳子に申し訳ないので俺は部屋の電気を付けて理佳子に


「なぁ理佳子、気分変えるためにちょっと外散歩しに行かないか?」


理佳子を誘い出した。


「うん、行こう」


俺と理佳子はラフな服を着て静かな夜の道をぶらぶらと歩き出す。


「理佳子…お前ほんと優しいなぁ」


「えぇ?普通だよ。全然普通。たかと君の方こそ凄く優しいよ」


俺は理佳子の優しさに救ってもらった。やっぱりこんな健気な娘を嫁に出来たら幸せだろうな…そんなことを想いながら歩いていく。そして公園の横の道に差し掛かった時若い男子数名が何やら言い合いをしてる声が聞こえて俺たちは立ち止まった。ざっくり一人を囲んで10人近く居るような感じに見える。これは…恐らく何かしらトラブルが起きて正にこれからこの囲まれた人物がリンチに会うであろう雰囲気が漂っている。全員私服で歳がいくつぐらいなのかわからないが、だいたい声の感じや体格等から自分らと同じ高校生ぐらいだろうと推測出来る。俺と理佳子は立ち止まり遠目にそれを見ていた。理佳子が


「たかと君…恐い…行こう?」


そう言ってその場から離れようと俺を促す。

俺は内心凄くドキドキしながらも


「ちょっと待って…あいつもしかしたらこれからリンチに会うかも知れないじゃん…やべぇよ…」


「でも…たかと君…」


そう言って俺が止めに入る力が無いと言わんばかりの不安な表情をして泣き出しそうな顔をして俺を見つめる。俺は理佳子の両肩にポンと軽く手を乗せて


「わかってるよ、ちょっと様子見るだけだ。最悪警察に通報すりゃいいんだろ?」


そう言って理佳子をなだめた。しかし俺は重森との地獄の特訓の成果を試してみたいという不思議な衝動にも駆られている。あの重森が息を切らし恐らく全力で攻撃してきた動きに付いていってそれを交わし寸止めで何度も重森に俺の攻撃を繰り出せた技…たった二週間そこそこだったが毎日毎日朝から晩まで鍛えてもらった成果は必ず報われているはずだ…きっと大丈夫…きっと行ける。俺はそう手応えを感じずにはいられなかった。少し前の俺なら絶対にここはさっさと見なかったことにして立ち去っていただろう…でも重森に何度も言われたあの言葉…どんなことがあっても絶対理佳子を守れる力を付けろ!男は女を守らなくちゃ行けないんだよ!この言葉…なーんか俺の中に物凄く根強く突っかかって来るんだよな…多分これも俺の内にしまいこんだトラウマの一部なんじゃないだろうか?そんな思いがしてならない。

集団の一人が真ん中の囲まれてる男に胸ぐらを掴みかかり思いっきり拳を振りかぶって殴ろうとしたその瞬間…


「おーい!大丈夫かぁ?」


俺がでっかい声で叫んだ。横にいた理佳子はビクッとして驚く。


「たかと君…やめて!お願い!行こ?ね?」


恐怖が限界なのか身体を震わせながら俺の袖を引っ張りそう言った。俺は理佳子に優しく微笑んで


「理佳子、大丈夫だよ。理佳子は隠れていろ。な?」


「たかと君…」


今にも泣き出しそうな声で涙を目に浮かべながら心配そうに俺を見つめている。公園の中の集団から


「あぁ?誰だてめぇ」


「だぁーれかなぁ?出ておいで~」


俺を挑発する。俺は理佳子の頭を軽く撫でて公園の中へと歩いて進んでいく。すると囲まれていた男が


「あっ!黒崎さん!」


俺を見て驚いた表情でそう言った。よく見ると何となく見たことあるような気が…


「えっと…誰だっけ?」


俺は誰だか思い出せずに尋ねた。


「俺っすよ、2年2組の原和成(はらかずなり)っすよ!」


「ごめん、全っ然思い出せねーわ」


原和成と名乗る男はズルっとこけた。この原和成と名乗る男はかなりの美形でどちらかというと中性的な鼻筋の通った顔立ちで、目は二重のパッチリと綺麗な目をしている。唇は上唇が少し薄く、下唇の方が少し厚くて髪型は前髪を自然に斜めに流している。それほど長くもなく短くも無いぐらいでストレート。綺麗にまとめられている。身長はだいたい180センチに近いぐらいだろうか?かなりモテそうな印象を受けた。集団から次々と声が飛んで来る。


「だからてめぇ何なんだよ!」


「てめぇこいつの仲間か?」


「何でも良いわ、一緒にやっちまおうぜ」


その中の一人が


「いや、ちょっと待て黒崎って言わなかったか?」


「あっ?黒崎?…黒崎…もしかして…」


そう言って集団の空気が一気に変わった。ざわざわと黒崎の名前に動揺しているようだ。俺は集団の中へと入って行った。

重森からハッタリも自分を大きく見せる為の効果があると聞いていたから、ちょっとビビりながらもそれを必死に隠して本物のふりをして原と名乗る男の隣に立った。集団の男たちはあまりにも堂々とした俺に少し怖じ気づいてるように見える。


「んで?何やってんの?」


俺が原なる男に問いかける。


「こいつら他校の奴らなんすけどとんだ言いがかりで絡まれて今こんな状況っす」


「そっか…んで?お前らはどうしたいの?」


俺はこのまま解散してくれることをちょっぴり期待しながらも、自分の力を試してみたい気持ちもちょっぴりの複雑な気持ちの中で相手の反応を待った。集団の一人が


「黒崎ってよ…俺の記憶が正しければ他県の奴だよな?こいつ…偽もんだろ?」


「だよなぁ…」


そこへ原なる男が


「残念だったな!2年からうちに転校してきたんだよ!ほら、俺に手を出したらこの黒崎さんが黙ってねーぞ!」


ニヤリとしてそう言った。


「いや、誰もそんなことは言ってねーけど俺…」


原が俺に向かって泣きそうな演技をして


「黒崎さん、ここに来てそれは無いっすよぉ~」


俺が辺りをぐるっと見回すと一斉に集団が一歩後ずさった。そして俺は腹に精一杯の力を入れて


「失せろぉ~!!オラァ~!!」


と一喝した瞬間、集団が怯んで一人また一人と走って逃げたした。理佳子が遠くからそれを見て急に崩れ落ちペタんとその場に座り込んでしまった。


「理佳子~、大丈夫かぁ?」


俺は心配になり呼びかけた。理佳子は立ち上がり俺の方へと力なく歩いてくる。


「たかと君…心配させないでよぉ…」


この小さくて可愛い女子を原が見て


「黒崎さん、この娘は?」


「あ?俺の女だ」


原はまじまじと理佳子を見て


「はじめまして、黒崎さんの友達の原和成ッス」


理佳子はそれを信じ


「はじめまして、清水理佳子です。よろしくお願いします」


「おいおい、初対面の俺に友達はないだろ!」


「いやいや、それは無いッスよ…いつも小山内君とみんなで一緒に歩いてるでしょうが…黒崎さんの記憶力の問題ッスよ…」


そう言われてみればそんなような気もする程度にしか思えない。


「いや、ほんとありがとございます。あいつらの一人が俺の女に手を出すからちょっとシメてやったら人数で脅してきやがって…一応ウチとは昔から何かと揉め事絶えない奴らなんすけどね」


原からいろいろ聞いてると、どうもウチの学校とは先輩達の代から何かと揉めてるらしい。俺がこっちに来てからそんなトラブルはあるようには見えなかったが、これがキッカケとなり何か一波乱ありそうなそんな予感がする。


「またアイツら攻めてくるかも知れないからよろしくお願いしますね!」


「お願いしますね!…じゃねーよ!そもそもお前が持ち込んで来た問題なんだからお前が解決しろよ!」


「またまたぁ…ウチの看板なんすからお願いしますよぉ~」


ウチの看板…その言葉に俺は正直悪い気はしていない。むしろそういう英雄扱いに俺は憧れていた。


「仕方ないなぁ~、何かあったらとにかく召集かけろ」


「オッス!」


そう言ってこのお調子者の原は帰っていった。理佳子が俺の安請け合いに心配そうな眼差しで


「たかと君…」


「心配かけてごめんな。家帰ろうか?」


「うん、たかと君…前は…いつも謝ってばかりだったのに…」


「理佳子…やっぱり俺もお前に何かあったとき絶対に守ってやれる力が無いとって思うんだよ…」


「でも…」


「わかってる…無茶はしないから心配すんな」


「うん…でもね…薫の…」


そう言いかけて理佳子は止めた。


「ん?重森がどうした?」


「ううん、なんでもない…」


理佳子が言いかけた言葉が凄く気になる。何せ俺を強くしてくれたのはその張本人なわけだから、重森が俺に言い続けた言葉の真意がそこにあるのではと勘ぐってしまう。そう言えば…明日からの特訓って…どうすんだろ?重森に今連絡するわけに行かないからなぁ…とりあえず明日は無しだな。

俺と理佳子は家に帰り部屋のベッドで並んで座った。


「たかと君、お願いだから私の知らない所で怪我しないでね…凄く心配。さっき原君って人がまた攻めてくるかもって…」


「あぁ、そうなるかもな。でも、いざとなれば小山内も居るし、アイツけっこう出来る男だからな」


「私の知ってるたかと君はそんなことを言わなかったのに…やっぱり変わっちゃったね…」


理佳子が寂しげに言うのを俺は複雑な気持ちで聞いていた。これも全てお前を守れる男になりたいがためだ。いつかもしかしたら理佳子にもわかってくれる時が来るかもしれない。そう自分に言い聞かせていた。時計に目をやるともう夜中の1時を過ぎていた。


「もう寝るか?」


「うん」


そう言って二人はベッドの布団の中に入り俺の腕枕の中で理佳子を抱きしめながら


「理佳子…」


理佳子はスッと布団の中から顔を出して


「たかと君…」


そう言って俺のキスを待つ。

俺は理佳子の唇にそっとキスをしてぐっと抱き寄せた。


「お休み、理佳子」


「お休み…」


不発ではあったがお互い心は十分満足して眠りに落ちた。


次の日の朝


俺は自然に目が覚めてまだ視界がボヤけてなかなか目が開かない。朝だというのに窓の外は突き刺すような日差しで既に気温がかなり上がっていることをうかがわせる。隣にいる理佳子…が居ない!今何時だ?時計に目をやるがハッキリと見えないので目を擦った。んー…7時?ちょっと回ったくらいか…俺はベッドから出て部屋を出て階段を降りていくと母さんと理佳子の話し声が聞こえてきた。


「天斗はねぇ、優しいのは優しいんだけどちょっと鈍いところあるからねぇ…あの子を理解してくれる娘が現れるのか心配でねぇ…」


「たかと君はとても素敵な人です。おばさんが心配されるようなことはないと思いますよ」


そっとリビングからダイニングキッチンを覗くと二人で朝ご飯の用意をして台所に向かっていた。二人で俺の噂をしてるらしい。


「理佳ちゃん、ほんと天斗をお願い!おばさん心からあなたに頼むわ」


「おばさん…私…」


「おばさんね、天斗が理佳ちゃんを俺のお嫁さんにするの~ってよく言ってたから本当にそうなったら良いなぁってずっと思ってたのよ。でも、天斗が急に理佳ちゃんとはもう遊ばないってあの事故以来、かたくなに言い張るから凄く残念な気持ちになったのよ。それで理佳ちゃんもう遊びに来なくなったでしょ?」


「おばさん…」


「それが10年もの歳月を経てまたこうしてあなたをここへ連れてきてくれて…しかもこんなに立派に成長されておばさんもう…」


そう言って母さんが段々と涙声に変わっていった。


「お…おばさん?大丈夫ですか?何か私までもらい泣きしてしまいそう…」


母さんは涙がこぼれるのを指で抑えて


「理佳ちゃん、ほんとおばさん理佳ちゃんのことを好きなのよ。だから、天斗を…」


「おばさん…私もたかと君のことを愛してます。でも…たかと君こっちに来てから少しずつ…私の知ってるたかと君じゃなくなって来てる気がして…」


「あら、天斗、理佳ちゃんに何かしたの?」


何かしたの?って…そりゃ昨日ちょっといかがわしいことはしたかも知れないけど…理佳子を傷つけるようなことはしてないと思うけど…

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