第7話
学祭の準備も大詰めを迎えていた。それぞれのクラスのイベント準備も終わり既にみんなお祭り気分だ。バンドマンのリハーサルやら何やらでそこら中ワイワイ騒がしい。俺も一応参加しているが、だいたいは小山内と一緒にサボっていた。
俺と小山内はいつもの屋上の柵にもたれながら
「なぁ小山内、あれから重森と何か話したか?」
「いや…何も…やっぱりどこか近寄り難くてなぁ…」
「そっか…でも、あの重森を選ぶお前ってやっぱりハート強いよなぁ…」
「どういう意味だよ?」
「いや…別に意味は無いけど…」
俺はあの恐ろしい光景を思い出して身震いする。
「明日学祭だな」
「あぁ、俺…重森ちゃん誘おうと思ってる」
「そっか。お気の毒に…」
「あ!?どういうこと!?」
「あぁ…いやいやゴメンゴメン間違った」
「重森ちゃん、あぁ見えてきっとか弱い女の子なんだよ…乙女で…」
いやいやいやいやいや!それは無いって!悪いけど乙女なんて微塵も無いって!ありゃ男の中の男だよ!つーかバケモンだから!
「私を守ってくれる強い男とか言ってよぉ…フッ、可愛いぜ!」
いや…誰にも守ってもらわなくても十分一人で生きていけるぞ、あいつは…
「あぁ~、俺と付き合ってくんねーかなぁ…」
「もしかして…告る気か?」
小山内は照れながら自分の頭を撫で回している。
「が…頑張れよ…」
俺の顔はひきつっている。
「ところで佐々木とはどうなったんだよ?あいつの良い噂は聞かねーけどな…」
「………俺さ、実は惚れた女居るんだ」
「え?でも、佐々木と付き合ってんだろ?」
「フリだよフリ。暇だからそういうフリしてただけだよ」
「そっか」
その時どこからか悲鳴が聞こえた。女子複数の悲鳴だ。男子達も騒いでる。どうやら喧嘩か何かでトラブルになってるらしい。
「小山内、行ってみよう!」
「おう!」
俺達は騒ぎの聞こえた方へと駆けて行った。
騒ぎは校舎の中庭だった。沢山の人だかりの中、渦中に居たのは…佐々木日登美と上級生の男子10人ぐらい…そして…やっぱり重森だった。重森が上級生男子に囲まれている。
俺はどうしていいかわからず立ち尽くしている。そして流石の小山内も出ては行けない。
「重森さん?地獄の底を見せてくれるんだっけ?」
重森は至って冷静だった。
「お前、この状況わかってんの?」
重森は凄んでみせた。いや、やっぱりこいつは恐い…目が座っている。きっと沢山修羅場を潜って来たに違いない。
「状況が見えてないのはあなたの方でしょ?重森さん。ここで公開処刑してあげるわ。私をなめないでよね!」
上級生男子達がジリジリと詰めていく。
その時
「何やってんだお前ら~」
誰かが呼びに行ったのだろう。この学校で最も恐れられている三木先生が駆けつけて来た。取り巻き連中は一斉に逃げたした。
「いゃあ、あの時三木が出てこなかったら俺と黒ちゃんで全員ブッ倒したのになぁ~…なぁ黒ちゃん」
あの騒ぎの後、俺と小山内と重森は三人で学校を抜け出し歩いていた。あの時お前何してたんだよ…全く出ていく気配無かっただろう…
俺は軽蔑の眼差しで小山内を見てる。ふと重森の方を見ると…重森もめっちゃ軽蔑の眼差し向けてるぅ~!
「重森ちゃーん、今度あんな風に絡まれたらすぐ俺を呼んでね。俺が必ず守ってあげるから!」
こいつ…こんなにお調子者だったのか…
学校祭当日
各イベントも盛大に盛り上がりを見せていた。俺はさっきから小山内を探しているが一向に見つからない。いったいどこ行っちまったのかなぁ…もう少しで最大イベント、社交ダンスが始まるのによぉ…
校舎屋上では
「重森ちゃん、今好きな人とか居るの?」
小山内が重森を呼び出していた。
「………別に居ないけど……」
「あのさ、あのさ、この前強い男が好きって言ってたじゃん?他には何かある?」
「………」
「じゃあさ、じゃあさ…俺じゃダメかな?」
「………」
「ズバリ言うよ!俺さ、重森ちゃんが好き!俺と付き合って下さい!」
そう言って重森に向かって右手を差し出し頭を下げている。
「………」
小山内のやつどこだよ…もしかして屋上かな…
俺は屋上へ向かった。屋上のドアを開け周りを見回した。物陰に小山内と重森の姿が見えた。小山内が重森に向かって手を差し出しているのが見える。なるほど、今まさに告白してんのか。
小山内は右手を差しだしたまま頭を下げている。重森はしばらく黙ってプイとそっぽ向いて歩いて去って行く。小山内はそのあとを追いかける。
かーはっはっはっ!小山内のやつ重森にフラれたよ(笑)
「待ってよ~、重森ちゃーん」
重森ちゃんのそういうよくわかんねぇところが良いんだよなぁ…
小山内は意外にもドMだった。
二人がこっちに向かってくる。俺は急いで隠れた。階段を降りてく二人をそっと後ろから付けていくと、廊下を数人の影が歩いてくるのが見えた。あれは…昨日の上級生の奴ら…まだ重森探してたのか…重森、小山内二人と上級生5人が鉢合わせた。俺はどうなるのか固唾(かたず)を飲んで見守る。
「重森ちゃん…ここは俺に任せて…逃げろ!」
重森はチラッと小山内の顔を見た。そして重森は数歩後ろに下がった。小山内は前に出て重森を庇う。
「おい、お前は邪魔だ!どけ!」
一番弱そうな奴が先陣切って出る。だいたい弱いやつは人数で優勢だと調子に乗る。
「そういうわけにはいかねぇな。か弱い女一人に寄って集ってどういうつもりだ!」
い…意外に小山内カッコいいじゃねぇか!
先陣が小山内の胸ぐらを掴もうとした瞬間、小山内の電光石火の右ストレートが炸裂し2メートルほど吹っ飛んだ!
や…やっちまった…やるな!上級生相手に怯まず行ったぞ!仲間をやられ残りの4人が一斉に小山内を囲む。
「てめぇ、ブッ殺すぞ!」
左右と後ろに3人が回り込み小山内を押さえ込もうとする。その瞬間小山内は真後ろの男の腹に蹴りを入れ、怯んだ所へ今度は右側にいる男の頭を抑え頭突きをかました!すぐに左側にいた男が背後から小山内を羽交い締めにしたが、小山内が後ろに頭を振って相手の顔面に後頭部で頭突きを入れた!これで4人の形勢が崩れ正面に居た男が闇雲に殴りかかる!それをサッと左手でいなし相手の首後ろ側を両手で抑え飛び膝をかました!その時小山内の後ろにいた男が近くに置いてあった消火器を手にして振りかぶった…
俺は咄嗟に
「小山内~~~!」
叫んだが間に合わなかった…
小山内の頭に消火器が直撃!………すると思ったが重森が相手の腕を蹴りで軌道をずらし小山内の肩をかすめただけだった。小山内は振り返り顔面に右フックを直撃させてまた相手が吹っ飛んだ。5人中3人はまだ倒れている。二人は立ち上がり仲間の脇を抱え起こそうとする。そこに小山内が
「先輩!まだやる?」
上級生達は分が悪いと判断し小山内をおもいっきり睨み付けながら仲間を引きずり下がって行った。小山内がこれだけ複数相手に喧嘩をしたところを見たことが無かったから、実際これ程まで強いとは思ってなかった。
「小山内~!大丈夫か!」
小山内は俺の方を振り返り右手で親指を立てニヤッと笑って見せた。そして重森の方を振り返り…
「重森ちゃん…俺じゃ…ダメかな?」
少し息を弾ませ優しくそう言った。重森は…黙っている…全く読めん!重森ほんと読めん!いったい何考えてるんだ!
「行くよ、もうすぐ社交ダンス始まる」
重森が小山内にそう声をかけた。小山内は目を輝かせ…
「ハイ!」
そう言って嬉しそうに重森の後をついて行く。これって…とりあえず大成功か?
俺達がグラウンドに着いた頃にはほとんどの生徒達が社交ダンスの準備で並んでいた。男子と女子が向かい合って順番にお互い反対方向に回りながら相手を替えて音楽に合わせ踊る。このイベントは好きな相手と手を繋いで踊れる青春の一大イベントとも言える。しかし俺は憂鬱だった。ここにもし…理佳子が居たら…理佳子…
俺達もクラスの連中に習い列に並んだ。
小山内にとってはこれ程有難いイベントは無いだろう!!重森は未だに何を考えてるのか読めないが、それでも一緒に手を繋ぎ踊ることができる夢のようなハッピータイムだ。イベントの準備が出来たようでマイクでアナウンスが流れ、そのあと音楽が流れ始めた。みんな音楽に合わせ男子と女子がお互い向き合って手を繋ぎ踊り始める。順番に相手を変えながら進みそれぞれ待ち望んだ相手と踊る社交ダンス…いよいよ小山内が待ち望んだ重森が近づいて来る…はずなのだが…うちのクラスの女子の中に重森の姿が見えない。俺と小山内は隣同士で顔を見合せお互い首を傾げた。重森が居ない…一緒に歩いて来て確かに列に入ったはずなのに…いったいどこ行ったんだ?俺と小山内はさっきの件もあり不安にかられた。
その頃校舎一階の女子トイレでは
「お前…地獄の底が見たいようだな!」
そこには重森と佐々木日登美の姿があった。
佐々木は重森に捕まり女子トイレの便座の前に正座させられていた。重森はトイレの洗面台に水を溜めた。
「望み通り見せてやるよ、死んだ方がマシだと思うから」
佐々木は涙を流し
「すみません…すみません…許してください…」
重森に懇願する。
「都合良いこと言ってんじゃねぇー!」
ド迫力の大声で怒鳴った!
「お前がしたことの落とし前はちゃんと付けなきゃな。お前は私の仲間を地獄に引きずり込んだだけじゃなく、私の友達まで傷つけようとした。それを何だお前は…自分だけ許されるとでも思ってんのか?もう二度とそんな真似出来ないようにきっちりしつけしてやる」
そう言って佐々木の方へ進む。佐々木はビクッと後ろへのけ反るが便器に背中が当たりそれ以上下がれない。重森は佐々木の左頬を力一杯平手打ちした。
パァーーーン
トイレの外までその音は響き渡る。
佐々木は壁に飛ばされた。
「ご………ゴメン………なさい………グスン………」
泣きながら謝るがもう一度今度は手の甲で佐々木の右頬を殴った!
バァーン!
また佐々木は反対の壁に飛ばされた。
みるみる佐々木の両方の頬が赤く腫れていく。
「謝って済む問題じゃねーんだよ!」
重森の怒声には凄みがある。
まるで極道の世界に出てくるワンシーンのようだ。更に重森は佐々木の左肩の付け根辺りを自分の右足裏側で蹴り飛ばした!
ドォーン!
佐々木は便器に強く背中を打ち付け悶えた。
今度は佐々木の髪の毛を鷲掴みにして水を一杯に張った洗面台まで引っ張って行く。
「止めて~…止めてください…止めてください…お願いします…お願い…」
泣きじゃくりながら必死に重森に懇願するも、容赦なく佐々木を洗面台の前に引きずり立たせた。佐々木は洗面台に両手を付いて必死に抵抗するが、重森の力に成す術もなく顔面を水の中に突っ込まれる。
ブクブクブクブク…
く…苦しい…息が出来ない…助けてぇ…
ザバァ~
重森は佐々木の髪を引っ張り上げ水から顔を出させた。
「誓え、もう二度と私の仲間達に近寄るな!」
「ハァ…ハァ…ハァ…ハァ…ハァ……………わ…わかり…ました…ハァ…ハァ…ハァ…」
息絶え絶えそう言った。
そして重森はトイレから出ていく。
佐々木はその場に崩れ落ち失神した。
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