第26話
11月初旬、この学校では秋に修学旅行のイベントがある。旅行先は国内と決まっていて毎年場所は決まっておらず、予算内で生徒会が決めることになっている。この年は北海道に決まった。
「かおりちゃん、北海道…食い物美味しいんだろうなぁ…」
飛行機の中で薫と小山内は並んで席に座っている。
「小山内は何が食べたい?」
「うーん…やっぱ北海道と言ったら海王類だよね?」
「いや…魚介類だと思うけど…」
「あぁ…そっかぁ~。やっぱイクラ丼とかかなぁ…今が食べ頃?」
「うーん…ちょっともう遅いんじゃないかな…」
「あと、あれ!キクラゲ!
「それはキノコだけど…」
小山内は薫に良いとこ見せようと精一杯知ったかぶりをしたが、それが逆にあだとなる。
「かおりんは?」
「かおりんて…」
薫は恥ずかしそうに周りを見渡した。
「私はぁ…ウニ丼が食べたい…函館のウニ丼はメチャクチャ美味いって書いてあった」
「ヨシ!自由時間は函館のウニ丼とイクラ丼食べよう!」
「いいね!」
小山内と薫の楽しそうな会話を通路を挟んだ隣の席で俺は聞いている…全然楽しくねぇ…すっげぇつまんねぇ…ここに理佳子が居たらなぁ…
修学旅行の日程は滞りなく進みいよいよ自由時間になった。
「かおりん、ウニ丼とイクラ丼食べに行こ!」
「うん、でもどこが良いんだろ」
ここは函館の朝市、美味しい魚介類の宝庫だ。
「かおりん…ウニ丼もイクラ丼も…メチャクチャ高い…」
確かに観光地だけあって設定金額は少々高めになっている。でもせっかくだし…
「清!今日だけはおもいっきり奮発しちゃお!」
そう言って二人は感じの良さそうな食堂に入った。
理佳子…
俺は理佳子がどんなお土産が喜ぶか考えながらブラブラと土産屋の建ち並ぶ観光地を歩いている。ふと俺の目に入ってきたのは…木彫りの土産屋…ここはいろんな木彫りの飾り物が置いてある。熊が鮭を咥えているもの、キタキツネの壁掛け、フクロウの置物…
「うーん…北海道らしいっちゃあ北海道らしいかなぁ…」
そして俺は可愛らしいフクロウの壁掛けの飾り物を手に取りレジに向かう。
その日の夜、俺は理佳子に電話をした。
「理佳子…やっぱお前が居ないとつまんねえよ…」
「たかと君、せっかくの北海道旅行なんだから楽しんで…」
理佳子も正直なところ天斗と一緒に修学旅行を楽しみたかった想いはあるのだが、その気持ちをグッと抑えてそう言った。
「なぁ、理佳子…次の日曜日、デートしないか?渡したい物があるんだ…」
理佳子はドキッとした。次の日曜日…それは理佳子の誕生日だからだ。たかと君…もしかしてそれを知ってて…でも…何で知ってるんだろう…理佳子は都合よく勝手な思い込みでハッピーな気分になっていた。
「うん…じゃあまたそっち行くね…」
「いや、今度は俺が行くよ。夜理佳子が一人で帰るのは、やっぱ凄く気を揉むからな」
「ありがとう、じゃ待ってる」
「あぁ、じゃまた連絡するよ」
「うん…」
理佳子は渡したい物が何か気になっていた。たかと君からの…プレゼント…フフッ
理佳子と約束した日曜日、俺は待ち合わせの駅に到着した。午前9時、この日はよく晴れて空気はかなり冷たい。ホームを出て理佳子の姿を探す。駅は既にかなりの人が居て小さい理佳子を探すのに苦労する。俺は理佳子に[北口の出入口で待ってる]とLINEした。そして間もなく理佳子が姿を現した。理佳子は黒髪のストレート。ピンクのニットのセーターで赤のフレアスカート。首にはチョーカー。たすき掛けにしたバッグが可愛らしい。
「おはよう、たかと君」
「理佳子おはよう、ちょっと街ブラしようか?」
「うん、そうだね」
俺達はウィンドショッピングを楽しむ。理佳子はアクセサリーや洋服など見て回るのに俺は付き合う。
「たかと君も見たいものあったら言ってね」
「おう、俺は理佳子の楽しそうな顔見るのが一番楽しい」
「もう…」
理佳子のはにかむ姿がいじらしい。その時車のクラクションが鳴った。振り返って見てみると赤いスポーツタイプのセダンに乗った理佳子の親友の本田麻衣が助手席から顔を出して
「やっぱり黒崎君だぁ!理佳子おはよう」
「おはよう麻衣」
「今、彼と買い物に来たんだけど、理佳子と黒崎君っぽい姿が見えたから」
「久しぶりだな、本田」
「黒崎君おはよ!」
理佳子は以前本田麻衣と彼とのダブルデートの話を思い出して運転席に乗っている男を覗きこみ
「彼氏さん、こないだはすみませんでした。ちょっと別の用件で…」
本田麻衣の彼氏はニコッと笑って軽く手を振った。
「あっ!もしかして!今日理佳子の…」
本田麻衣が思い出したかのように言った。本田麻衣が俺に目配せして口パクで[たんじょうび]と言った。そうか!そうだったんだ!今日は理佳子の誕生日か!これはなんてグッドタイミング!さも理佳子の誕生日だと知ってたかのようにプレゼント渡せば…サンキュー本田!
「理佳子、良かったら少し一緒に買い物しない?」
本田がそう言った。
「私は良いけど…」
そう言って俺の方を見る。
「俺も良いよ、本田の彼氏さんが良ければ」
結局四人でウインドショッピングをすることになった。本田麻衣の彼氏はあまり喋らずニコニコとして優しそうな好青年という印象だ。本田麻衣と理佳子が洋服など次から次へと店を回りこんな服が可愛い、あんなスカートが可愛いと盛り上がってる。そして理佳子が
「ごめん、ちょっとトイレ行ってくるね」
そして3人になった。
「なぁ、本田…最近よく嫌な夢を見て心配事があるんだけど、もし理佳子の身に何かあったらすぐ連絡もらえないかな?」
「うん、良いよ。離れていたらすぐにってわけにいかないもんね」
そして俺の連絡先を本田に教えた。理佳子が戻ってきて本田が
「もうお昼だねぇ。そろそろ私達行こうかな、黒崎君と理佳子のラブラブな時間邪魔しちゃ悪いし」
そう言って本田麻衣が俺に目配せして理佳子と俺を交互に見て頷いた。きっと本田は、誕生日上手くやりなよ!という意味の行動だと俺は捉えた。俺もそれに応え軽く頷いた。本田達と別れたあと、俺と理佳子はランチを終え映画を観に行くことにした。
「たかと君、たかと君はどんな映画が好き?」
「んー…俺はどっちかっていうとやっぱりアクションだなぁ…」
そこで理佳子がアクションなど興味が無いだろうと思い直し
「でも、 別にどんなジャンルでも好きだぞ!」
「私もガチガチのアクション映画大好き!」
え?意外にも理佳子アクション好きなの?これはもしかして俺に合わせて言ってる?
「理佳子、別に合わせてくれなくても…」
「たかと君、あれ観た?元殺し屋が愛する人との幸せな結婚生活の為に引退して平穏な日々を暮らしていたのに、その主人公の力を借りる為にまた強引に闇の世界へと引き込まれていくガチガチのアクション!」
理佳子は目を輝かせて語りだす。理…理佳子…お前マジでアクション大好きなんだな…その目の輝きよう…尋常じゃないぞ…
「あぁ、あの[ジャン ショック]!」
「そう!それ!あれすっごいスタイリッシュでスピード感満点でおもしろかったぁ~」
「理佳子、あれの最新作公開されてるやつ見たいんだろ?」
「うん!観たい観たい!」
そう言って理佳子は俺のすぐ横でピョンピョン跳ねて喜んでいる。その姿が子供っぽくて可愛らしい。
「んじゃそれで決まりな!」
「うん!」
俺達は場内に入り全体のほぼ真ん中くらいの席に着く。さすがに人気映画、日曜日ということもあって次から次へと観覧客が入ってくる。やがて照明が全て消えて真っ暗になり映画の予告が始まり、そして本命の映画が始まった。理佳子は食い入るような目で真剣な眼差しで見入っている。俺はさりげなく理佳子の手を繋ぎ映画を観る。そしてアクションシーンになる度に理佳子は俺の手をギューッと強く握りしめてくるので、思わずこのきゃしゃな身体のどこにこんな力があるのかと理佳子を二度見してしまう。そして主人公の切ない話になると理佳子は声を圧し殺しながら涙を流している。俺は映画を楽しみながら、理佳子の感受性豊かな表情も同時に堪能していた。
「あぁ、ジャン ショック面白かったねぇ!」
理佳子が興奮している。二人が映画館を出たのは18時を回っていた。もう辺りは真っ暗で店や街灯がキラキラと俺達を照らす。街をブラブラ歩きながら
「なぁ、理佳子…」
俺は立ち止まり理佳子の方を向く。
「うん…」
理佳子も何か察したのか上目遣いに俺を見る。
「この前渡したいものって言っただろ…」
「うん…」
俺は肩からたすき掛けした小さなバッグの中から木彫りのフクロウの壁掛けの飾り物を出して
「理佳子…誕生日おめでとう…気の利いたものじゃないけどこれ」
理佳子が小さな箱を見て
「ありがとう!開けてもいい?」
「あぁ、いいよ…」
俺は理佳子がどんな反応するか不安だった。今まで女子にプレゼントなんて渡したことが無いので、どんなものが喜ぶかは全くわからない。
「わぁ~!可愛い~~~!たかと君!何で私がフクロウ大好きってわかったの?すっごく嬉しい!!!それに…たかと君、何で私の誕生日知ってるの?」
俺は理佳子の反応を見てテンションがフルマックスだった。
「理佳子…お前のことはちゃんと調べてあるんだよ!」
さも俺は予めリサーチしたかのように得意気に言った。
「たかと君…」
理佳子は幸せそうな顔をして抱きついてきた。
そのあと、俺と理佳子はデパートのフードコートで夕食を済ませて駅に向かう。時間は20時を回っていた。駅のホームで
「たかと君、今日は最高のプレゼントありがとう!すっごく嬉しかった。」
理佳子は満面の笑みでそう言った。
「理佳子…お前ほんと可愛いやつだな」
理佳子は恥ずかしそうにはにかむ。
「たかと君…」
理佳子は俺を見つめてそっと抱きついてきた。俺は理佳子の小さくきゃしゃな身体をギュッと抱きしめ、そしてお別れのキスをかわす。電車がホームに到着して俺は乗り込む。
「理佳子、大好きだぜ…」
「うん…私も大好き…」
理佳子は涙ぐんでいるように見えた。小さく手を振りながら俺を見送る。俺も窓越しに理佳子に手を振って別れた。
12月も中旬になり本格的な冬の寒さを迎える。俺と小山内はお互い理佳子と薫のクリスマスプレゼントを選びに街にくり出した。
「小山内はもう何を渡すか決まったのか?」
「いやぁ…どうしようかなぁって…俺、女子にプレゼントとかしたことないしさぁ…かおりちゃん、どんなもの喜ぶか全然わかんなくて…」
「だよなぁ…俺も女子がどんなもの喜ぶかわからなくてどうしようか悩んでたんだよ…それでだな、山田にちょっと相談してみたんだ」
山田法子とは以前薫に野球ボールが飛んできたときに天斗が庇った際、女心がわかってないと笑ったクラスメートの女子だ。
「おぅ!それで何て!」
「こういう時にはやっぱり女子に聞くのが一番だよ。山田が言うには好きな男からならどんな物でも喜ぶけど、やっぱりお揃いで身につけられるものが一番効果的だって…」
「なーるほど…ってことは…手錠とかかな…」
「何でだよ…」
「だって…あれなら二人で仲良く一緒に身につけられるし…」
「確かにね!確かに二人で片方ずつ一緒に身につけられるかもしれないよ?でもさ…普通はそういうものは女は喜ばないと思うぞ?」
「そうか?んじゃあ…俺とデート出来る券!」
「アホか…そもそもアドバイス度外視してるし…お前とデート出来る券ってことは、お前に重森が好き好き言って、お前が仕方ねえなぁみたいになってるシチュエーションだぞ?」
「うーん…あながち間違ってはいないんじゃないかな…」
「んなわけ…」
「かおりちゃんって意外と凄く甘ったれなんだよなぁ…可愛いよなぁ…」
そう言ってニヤニヤする小山内。マジか…一度、小山内と重森が二人きりの時にどんな風なのか興味がある…いや…やっぱり見たくないかも…でもちょっと怖いもの見たさで見てみたいような…。俺はその姿を想像した…
「ねぇ、きよ~…抱っこしてぇ~」
そう言って薫は小山内に両手を差し出して甘える。
「もう仕方ないなぁ~、はい!かおりん」
小山内もニヤニヤしながら軽々とお姫様抱っこをする。そして二人はそのままチュッ!とキスをする。
「きよ~、アイチュ食べた~い」
「んもう…じゃあアイチュ買いに行こっか!」
「うん!きよだぁ~い好き!」
俺は重森のデレデレな姿を想像して身震いした。
「キモチ悪っ!」
思わず口に出てしまった。
「あ!?今かおりちゃんのこと気持ち悪いって言ったか?」
小山内はものすご~く怖い目で俺を睨み付ける。
「いやいや…気持ち悪いのは小山内の方だから…」
とっさにかわした。
「あ!?何でだよ!」
「いや…重森とアイス買いに行ったか?」
「え?ア…アイス?な…何でだよ…」
小山内は少し動揺してる。
「いや、別に…そんな事より、プレゼント何にするんだよ!」
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