第12話
80キロ…ってどんだけ速いか想像付かねぇ…俺のこめかみ辺りから汗が流れる…避ける…ギリギリで…ギリギリってどこまでがギリギリなんだ…
「行くよ!」
マジかー!俺はゴクっと生唾を呑み込んだ。バシュッという音が鳴り球が凄いスピードで俺にめがけ飛んでくる!俺はすぐに避けてしまった。
ガン!
後ろの金網に球が当たり跳ね返る。、ヤバッ!あんなの当たったらただじゃ済まないって…俺はチラッと重森を見た。重森はめちゃくちゃ睨んでる!わかってるよな!そう言わんばかりだ。次の球が飛んでくる。俺は集中して球を見た。また俺はすぐに避けてしまった。だ…ダメだ…恐くてギリギリまで待てん!チラッと重森を見た瞬間重森が立ち上がるのが見えた。俺は急いで両手を重森に向けて
「わかった、わかってる!ちょっと待って」
そう言って重森を制止した。俺の背中にも汗が流れる。マジでやらなきゃ球より恐いヤツが来る。落ち着け…落ち着け…ギリギリまで…次の球が飛んできた!ギリギリ…ギリギリ…避けろ!
ドン!
痛ってぇ~!痛ぇよぉ~!避けそびれて右腕に当たっちまった…右腕に力が入らねぇ…腕がズキズキする…それでもすぐにバッターボックス真ん中に戻った。まるで針のむしろだ!集中だ!集中…相手のパンチより速く動いて避ける…喰らわなきゃ痛く無いんだ…そう自分に言い聞かせる。次の球が飛んできた。
バァーン!
後ろの金網に球が当たった。今度はだいぶギリギリまで引っ張れたか…チラッと重森を見る。重森が首を振っている。あれでまだまだか…だが…少しスピードに目が慣れてきた。今度こそ決める!
バシュッ…
まだだ!まだ引っ張れ!ここだ!
バァーン
どうだ!これはかなり際どいとこまで引っ張ったぞ!重森どうだ!重森はまた首を振っている…嘘でしょう…あれは紙一重だったって!
「今のはマジギリギリだったぞ!」
思わず俺は声を上げていた。
「あのさぁ…そんなんじゃ相手に殺して下さいって言ってるようなもんだよ?もっと相手を引き付けてからじゃなきゃ!」
マジか!俺的にはそうとうギリギリだ!そんな事言うんならやって見せろよ!俺は心の中で叫んだ。その時重森が立ち上がり
「いい?よーく見てな」
そう言ってバッターボックスの真ん中に立った。少し球の角度を上げて顔にめがけ飛んでくる設定にした。そして…
バァーン!
重森は顔面に当たるか当たらないかの超ギリギリラインで難なく首を横に振ってその球をかわして見せた!正に神業!俺は言葉が出ない…まるで息をするように自然にやってのけた。これが…こんなことが…出来れば…すげぇーな…やっぱ言うだけのことはある。俺はもう一度真ん中に立って構える。あれが出来れば…あんな神業が…来い!
バシュッ
俺の目の前に大きな球が見える!避けろ!
ガァーン
俺は後ろにぶっ飛んだ!避け損ねて額に直撃した…俺の脳が揺れてのうしんとうを起こし倒れた。頭がクラクラする…だ…ダメだ…起き上がれない…脳が揺れて目がぐるぐる回ってる。どうしたら重森のようにかわせる…やってみてぇよ。あんなカッコ良くやってみてぇ…俺はやっとの思いで立ち上がる。次の瞬間…目の前に球が飛んで来ていた。
バァーン!
俺は当たる直前にかわしていた。それは無意識だったが条件反射で交わせた。そうか!もっと力を抜くんだ!構えすぎて余計な力が入りすぎるから避けられないのか!そういえば重森も無駄な動きが一切無かったようだ…よし、やってやる!次こそ紙一重で…
バシュッ!
俺は静かに構えた。来る!無駄な動きを無くし…かわせ!
ブンッ!
俺の耳元をすり抜けて行く音が聞こえた。出来た!これは間違いなく成功だ!俺は重森を見た。重森が…重森が…親指立ててこっちを見てる。よし!これだ!俺は調子に乗って次の球に備える…落ち着け~、落ち着け~…さっきの無の境地だ!
バシュッ!
来る…来る…来る…来る~!
ガン…
よ…よけれ…無かった…俺は紙一重を狙いすぎてかわすのが遅れてしまった。右頬に当たってしまった…みるみる顔が腫れていく…こんなんで10連続なんて…とても無理だ…それでも重森は全く止めてくれる気配がない…やるしか無いのか…顔も右腕もズキズキする。耳がボォンボォンボォンボォンとけたたましく鳴り続ける。
バシュッ!
くっそぉ…痛みで集中出来ねぇ…
バァーン!
ダメだ…逃げてしまった…逃げちゃダメなんだ…本気でかわすつもりで行かなきゃ。その時重森が
「何の為に特訓してるかわかる?何の為に強くならなくちゃいけないか。」
何の為にって…何の為だっけ?
「もし、理佳が誰かに襲われたらどうする気?」
俺はハッと目が覚めた!そうだな、そうだった!俺はあいつを守る為に、あいつを守れる力を付ける為に今こうして…
その時、バシュッ!
やべぇ…来ちまった…俺は目を閉じた。そして理佳子の顔を思い浮かべる…あいつがいつも笑えるように…そして俺は目を開けた!目の前に球が!
い…痛い…さっきの右頬が痛くて反対側に避けたつもりが…また左頬に直撃した…俺は倒れて立ち上げれない…
「もし、パンチ喰らったらそんなもんじゃないよ。さぁ早く立ちな!」
おいおい…マジか…この鬼軍曹…痛くて起き上がれねーつーの…再び次の球が飛んでくる。俺は倒れたままその送球を見送る。そんな簡単には会得出来ねーか…でも、一度は成功した。あの感覚をいつでも引き出せるように…俺はまた立ち上がった。
「人間、窮地に立たされると本来の力が発揮されるんだよ!やられたく無かったら本気で避けな!出来るまで終わらないよ!」
そんな事はわかってるっつーの…わかってるけど簡単には行かんでしょ…簡単に出来たら特訓なんて要らねーよ…
バシュッ!
やべぇ!次が来ちまった!俺はまた逃げてしまった。重森がこっちに向かって歩いて来る…しかもめちゃくちゃ恐い顔で…俺は思わず後退りしていた。重森がおもいっきり拳を振りかぶって俺の顔面めがけて…
フオッ…
俺の顔をかすめる…いや、俺が避けた?避けれた…重森のパンチ避けれた…これか…こういうことか…重森は何も言わずクルっと振り返りまたフェンス裏に戻って行った。今ので何となく掴めたような気がする。行ける…行けるぞ!よし!次来い、次!
バシュッ!
あの至近距離からのパンチ避けれたんだ。見えてる球なら避けるのはわけねぇ!
フォッ…ガァーン
出来た!今度こそ意識して交わせた!俺は得意気にチラッと重森を見た。重森は無表情…だが…足組をして膝を抱えてる手にはGOODのサイン…俺も小さくうなずく。よし!大丈夫だ。コツは掴んだ。行けるぞ!
と、その時…
「じゃあ次は100キロ行くよ」
はぁ~!?まだ80完璧とは言えないのにいきなり100!?マジで鬼軍曹だぜ!行けるのか…そんなのいきなり行けるのか?俺の背中に冷や汗が流れる…
「行くよ!覚悟しな!」
覚悟って…ちょっ…
バシュッ!
来た!はっ…速い!
サッ…
俺はあまりの恐怖に逃げてしまった。む…無理だ…とてもじゃないが無理だ…体感的にはさっきの倍くらいのスピード感だ…まるで次元が違う…これがもし…もし顔面にヒットしたら…腫れるくらいではとても済まない…俺は恐怖が膝に来てる…おそるおそる重森を見る…重森が…重森がバットを持ち出した…ヤバい…これはヤバい…あいつマジでイッてる…俺をマジで殺すつもりか
重森はバットを持ったまま俺のすぐ横に立った。
「バッターボックス立って」
素直にバッターボックスに立つ。
バシュッ!
ボールが飛んでくる。俺はそれを見送るが全く感覚が違う。自分めがけて飛んでくる球と横を通る球では、全く体感速度が違う。
「どう?」
どう?ってここなら全然平気だ。間違いなく当たらない場所だからな。
バシュッ!
もう一発飛んでくる。その時重森がバットの先で俺の脇腹を突いて押してきた!
「痛っ!」
俺は思わずバッターボックスの真ん中に入ってしまった!球はすぐ俺の目の前…
ドフッ
お…れ…の…脇腹…に…直撃~?何てことしやがる…
「そのくらい我慢しなさい」
そ…そのくらい!?バカヤロー…これがそのくらいってレベルかよ…マジであばらいったぞ…俺は痛くて苦しくて息が出来ない…
「人の痛みを知ることも大事だよ」
そ…それ…を…お前…が…言うか?
「もう…無理だ…息が…出来ん…」
「そんなんじゃ理佳守れないよ」
二言目にはそれを言うが…痛いものは痛いんです…もう勘弁してくれ…
「ほら、よそ見しない!」
バシュッ!
ヤバい…逃げ遅れた…
ボフッ
今度は…腹に直撃…俺は前のめりに倒れた。このままじゃ…ほんとに死んじまう…
「私のフルスイングとあの球とどっちがいい?」
こいつ…目が座ってる…マジなのか…くっそぉ~…どっちにしても殺される…だったらやってみるしかないか…俺はまたバッターボックスの真ん中に立って
バシュッ!
目を閉じて集中…気配で…来た!
フォッ
ガァーン後ろの金網に当たる。人間死の瀬戸際に立たされると…こんなことが出来ちゃうのか。
「やれば出来るじゃん」
重森が言った。
やればって…やらなきゃ殺されるからだろ!だが、出来ないと思うから出来ないんだ。人間やる気の問題だよな!
それから100キロを10連続交わす特訓が1週間続いた。そして俺はとうとうマスターした。原型がないほど顔を腫らして…
「やっと次の特訓行けるね」
おい…ちょっと待ってくれ…こんなにあちこち負傷してるのに…いきなり次の特訓って…
「じゃあ次河川敷行くよ」
俺と重森は人通りの少ない河川敷に着いた。
そこは草がちょうど刈られて下はクッションのようになっている。
「これから投げ教えるから受け身取ってね。投げられて技覚えなさい。じゃあ力一杯どんな攻撃でも良いからかかってきて!」
顔面の次は全身かよ…もう身体持たないっス…
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