第13話
確かに以前強面集団に絡まれた時にいとも簡単にあの大柄の奴ら投げ飛ばしてたよな。あれが合気道の技か…あれならそれほど力使わず倒せるのか。
それから毎日投げられ続けた。そして少しわかったことが…俺の攻撃に合わせて俺の力を利用し倒されてる…つまり静の動と言ったところか…そもそも合気道って護身術だよな?なるほど、何となく掴めて来たぞ!
「教えてくれ!合気道の技を!」
それから数日、俺は重森にみっちり合気道の技を習った。朝から晩まで河川敷で特訓したお陰でだいぶ基礎は学べた。
「じゃあ、次は突きとか蹴りだね。これも実際受けて覚えて!」
たかと…わりと根性あるじゃん…どんどん吸収していく。こんな成長速い人初めて見た。もしかしたら1ヶ月も要らなかったかな…
それから俺は空手の技を教わった。習うより慣れろ…とにかくやられて覚える。だけど不思議だ…段々と重森の動きの速さに慣れてきたのか攻撃を交わせるようになってきた。やっぱりバッティングセンターの地獄の特訓が実を結んだのか?
たかとの奴…段々私の動きに付いてこれるようになってる…こいつ…ほんとはかなり才能あるんだ…兄貴は昔…アイツは心根が優しすぎる。だから喧嘩には向くタイプじゃない。でも、その優しさ故に守りたいものがある時、きっと覚醒するだろう。私はあの時その言葉の意味がわからなかった…ただの弱虫だと思ってたから…
数日後…
「今日はここまでにしよ!」
重森が少し息を弾ませそう言った。すっかり夕暮れ時になっていた。
「ありがとう、なんか俺…少し前よりだいぶ強くなれたような気がするんだけど…」
「はぁ?何言ってんの?まだまだこれからだよ?
「ま、まぁそうなんだけど…ちょっとは変わっただろ?」
重森は無言で振り返り俺に背中を見せた。
「たかと…明日ダブルデートの日だね…」
ドキッ…すっかり忘れてた…この特訓に夢中になりすぎて日が経つのを忘れてたぞ!ヤバっ…理佳子に全然連絡してねぇ…今日夜に理佳子に電話しないと…
「そうだったな…すっかり忘れてたわ」
「小山内…誘っといてね…」
「おう」
「小山内…」
重森はそう言いかけて止めた。重森…何を言いかけたんだ?俺はそっと重森の顔を覗きこむ。重森はうつ向いて何か物思いに耽っている。
「どした?」
「別に…」
「そうか?何か変だぞ?」
「さ、帰ろ…」
「おう、ありがとな」
重森はさっさと先に歩いて行ってしまった…何だあいつ…今日は何か変だな…
「たかと…」
「ん?」
「小山内…番号教えて…」
「お…おう…」
そして俺は小山内の番号を重森に教えた。重森…お前から小山内にかける気か?そりゃあいつ超絶喜ぶぞ!もしかしたら失神するかも知れないぐらい!見てみてぇなぁ…小山内が歓喜のあまり気を失うところ…
理佳子…ごめんな…あれからずっと連絡するの忘れてたわ…俺は家に帰りシャワーを浴びて飯を喰って自分の部屋に戻った。そして理佳子の番号を押す。
たかと君…明日のデートの約束忘れてるのかな…全然電話もしてくれないし…あの日は凄く満足したけど…やっぱり淋しいのにな…理佳子はずっと携帯を握りしめ、たかとからの電話を待っている。
たかと…理佳子を大事にしてよ…そう思っても薫はどこかモヤモヤしたものが心に引っ掛かっているような気がしてならない。それが何なのか自分自身にも掴めない…たかとのあの直向(ひたむきな)努力の横顔を思い浮かべている。意外と…根性あるじゃん…最初は逃げ腰で嫌々やってて情けない奴だったけど…あっちの天斗とどっちが精神(こころ)強いかな…見てみたいな…なーに考えてるんだろう…小山内に電話しなきゃ…重森も小山内の携帯に電話をかける。
理佳子に着信…手に握りしめていた携帯に着信音が鳴る。理佳子は気持ちを落ち着かせてから電話に出る。
「もしもし」
「あっ、理佳子…今大丈夫か?」
「うん」
「悪いな、ずっと連絡しなくて」
「ほんとだよ…たかと君はいつも私を待たせる…」
「ごめんごめん、明日の時間は大丈夫か?」
「うん、朝9時までにそっちのH駅に行けるよ」
「そか、その時間に必ず迎えに行くよ」
「うん」
「理佳子…」
「うん…」
「好きだぜ…凄く…」
「うん…私も………大好き…」
「じゃ、また明日な」
「うん」
そしてお互い電話を切った。
あ?誰だ?この番号…
小山内清は知らない番号からの通知に少しとまどった。
「もしもし?」
「あっ、小山内?」
「え?どちら様?」
何か聞き覚えがある声…でも電話越しだと声が変わるから確信が持てない。
「私だけど」
え?ちょっと待って…え?ちょっと待って…え?マジで?え?マジで?嘘でしょ?マジで?
「も…もしかして…その声は…え?もしかしてですか?」
「薫だけど」
えー~~~!マージ~かぁ~~~~~!?
マジでマジで?
「かっ…うっ…おっ…」
緊張し過ぎて生唾を呑み込み上手く喋れない…
「いやだから薫だけど」
「かっ…かおるちゃん…」
「誰がかおるだバーカ!」
え?かおるちゃんじゃないの?今までずっと間違ってた?
「かおりちゃん?」
「正解」
「明日の約束覚えてる?」
「何で俺の番号しってんの?」
「明日9時半にT公園で待ち合わせだよ。遊園地行きたいんだとさ」
「もしかして黒ちゃんに聞いた?」
「絶対遅刻するなよ」
「もしかしてかおりちゃん…」
ブッ…プープープー
「かおりちゃん…明日の9時半ね!楽しみだなぁ~」
ってもう切れてんじゃん…んもう…可愛いやつめ!よし!明日こそ決めるぞ!かおるちゃん!あっ…違う…かおりちゃん!
ここ最近ずっと夏の暑さが続いていたが、この日はやわやかな風の吹くわりと乾いた空気に包まれた快晴の空だった。
約束通り理佳子と待ち合わせの駅で俺は待っている。理佳子が乗っているはずの電車がホームに入ってきた。電車が到着し改札口から続々と人の群れが押し寄せて来る。俺は理佳子を探す。が、理佳子が小さくてこの人混みの中でなかなか見つけられない。人の群れがみんな駅を出て行き駅の中はまばらだ。しかし理佳子の姿がない。もしかして理佳子…別の電車に乗ったのか?そう思った時、後ろからドンっと誰がが背中を押した。俺は振り返ったが誰も居ない…いや、小さい理佳子が俺を見上げていた。
「理佳子~、てっきり別の電車に乗ったかと思ったよ!」
「フフッ、おはよ、たかと君」
「おはよう」
二人は手を繋ぎ駅を出て小山内と重森との待ち合わせ場所に向かう。
「かおりちゃんまだかなぁ…」
小山内清は待ち合わせ時間より30分も前に到着していた。まだ待ち合わせ時間10分前だ。
「今日こそ決めるぞ!かおりちゃんから電話くれたんだから絶対俺に気があるよな?」
小山内はすっかり勘違いしている。
「ヨシ!リハーサルだ!」
そう言って歩道で一人芝居を始める。
「かおりちゃん…ちょっといいかな?」
「ん?何?」
一人で右に移動したり左に移動したりして一人二役やっている。
「あの…俺…かおりちゃんのその竹を切った(竹を割った)ようなところ好きです!
「え?ずいぶんストレートだね?」
「俺を…俺を彼女にしてください!(俺の彼女になってください)」
そう言って手を差し出した時…
通行人の髭面の親父が小山内の目の前を歩いていて一瞬立ち止まった…ものすごく白い目で見られてる…小山内はすぐに後ろを向いてやり過ごす。通行人が完全に立ち去ったのを確認してから…
「………い…いいよ…私で良ければ…」
「かおりちゃーん!」
そう言ってエアー薫を抱き締めようとしてちょうどそこに中年の女性が歩いてきて中年女性を抱き締めてしまった。
「キャァー~」
女性が悲鳴を上げて立ちすくんでいる。
「あっ!すみません…すみません…ち…違うんです!お帰りはあちらです、どうぞ…」
女性は物凄い形相で睨みあわてて走って逃げて行った。は…恥ずかしい~…その時背後から
「何やってんの?」
急に声をかけられビクッと飛び上がった。振り返るとそこには重森薫が軽蔑の眼差しで立っていた…
「あっあの…おはよう…」
「何オバサンに痴漢してんのさ…」
「い…いや…ち…違うんだよ…あれは…リハーサルで…」
「は!?痴漢のリハーサル!?キモッ…」
「だからちが~う!」
「何がさ…」
「あのこれはぁ…かおりちゃんに…いや…違う…あの…」
「そういう趣味だったんだ…」
マズイ…かおりちゃんめっちゃ俺のこと誤解してる…何とか誤解を解かなければ…咄嗟に小山内は重森薫に飛び付きお姫様抱っこをして
「こうやってかおりちゃんでも持てるんだぞって言おうと思ってさ…」
段々と小山内の顔が引きつっていく…それほどまでに薫の表情が恐ろしい。
「あっ?私が重いってか!?」
「ちが~う!かおりちゃんは可愛いよ~!」
「いいから早く下ろせや…」
はっ!?俺はいつの間にかおりちゃんをお姫様抱っこしてたんだ…
小山内は無意識に薫をお姫様抱っこしていた自分に驚きながらも、その感触に酔いしれていた。
一方薫自身もそれほど悪い気はしていない。
「あっ、ごめんね…ちょっと条件反射でつい…」
「小山内…とりあえず今日はあんたとデートだから…」
そう言って薫は小山内の手を握った…
ちょっ…え?これ何?どゆこと?かおりちゃんから俺の手を握ってくるなんて…キセキ!?やっぱかおりちゃん俺に惚れたな?よし、行ける!行けるぞ!今日こそかおりちゃんのハートゲットだぜ!
その時
「おはよう、薫~!」
理佳子が背後から薫に声をかける。
「おはよう、理佳。久しぶりだね」
「そうだね。転校してから会ってないもんね」
そして理佳子は小山内清に向かって
「この間は本当にありがとうございました」
そう言って深々頭を下げた。小山内は照れながら
「いや、大丈夫だよ!相棒とその彼女の為だから」
「本当にありがとな」
黒崎天斗もそう言った。薫は…この三人に既に面識があることに少し複雑な想いを巡らせる。
「小山内君ね、この前私がたかと君に会いたかった時にわざわざバイクで連れてきてくれたの。凄く良い人だね」
「そうなんだ」
薫はサラッと答えたが…ずっと心の奥にくすぶる得たいの知れないモヤモヤに戸惑う。何だろう…理佳子が嬉しそうなのに何か引っかかるようなこの感じ…何か…心が…ざわつく…
「重森…いろいろありがとな」
ドクン…
薫は妙な感覚に陥る。天斗から言葉をかけられた瞬間に一瞬だけ鼓動が高鳴った。小山内にお姫様抱っこされてもこんな感覚は無かったのに…なぜたかとに声をかけられただけでそうなったのか…もう自分で自分がわからなくなっている。
「てか、重森、小山内と手なんか繋いじゃって!もしかしてもう付き合ってんのか?」
小山内がチラッと薫をみて
「実はだなぁ…」
「それはない!」
薫が小山内の言いかけた言葉をピシャリと遮った。その瞬間小山内は泣き崩れそうな表情になった。それを見て理佳子は大爆笑してる。
「楽しいね。そういうとこ薫らしいし」
「さぁ、そろそろ行こうか。バスで遊園地だな」
天斗がそう切り出して一行はバス停に向かって歩き出す。バスで20分ほど走ったところで目的地に到着した。四人はチケットを買い入場した。薫はずっと自分の中の得たいの知れないモヤモヤのことを考えている。
これは…何?ハッキリわからなくてちょっとイライラするなぁ…認めたくない自分の中の気持ちとの葛藤に薫はイライラしていた。
たかとは理佳のもの…それは重々わかっている。なのに…それが何故か素直に喜べない自分…まさか…そんなこと…あるわけないよね?
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