第14話

「ねぇ薫、何から乗る?」


理佳子が無邪気にはしゃいで薫にそう言った。


「フッ、理佳の好きなので良いよ」


「じゃあ…ジェットコースターから行く?」


「そ…それはいきなり飛ばしすぎじゃないかな?」


小山内が少し焦りぎみに言う。


「もしかして…小山内ジェットコースター恐いのか?」


「んなわけ…あるんだなぁ~、これが」


四人で一斉に笑った。


「じゃあ…お化け屋敷は?」


「それはぁ…」


また小山内が言った。


「もしかして怖がりか?」


俺が挟んだ。


「残念!大好物だ!」


「じゃ、お化け屋敷にしよ?」


理佳子が言った。


「よし、いきなりお化け屋敷入る奴って少ないと思うけどそうしよか!」


俺が言った。


「でもね、小山内君…かおりけっこう怖がりだからしっかり守って上げてね」


「も…もちろん!かおりちゃん、俺がピッタリくっついて守ってあげるからね!」


「…まぁ、理佳の大好きなお化け屋敷だから仕方ない…」


薫は理佳子を妹のように大事に思っている。だからたいがい理佳子の言いなりになるのが常だった。俺と理佳子、小山内と薫で二人ずつお化け屋敷の中に入っていく。目が慣れてないので中の様子が全くわからない。徐々に目が慣れ始めたとき次々と仕掛けたお化けの人形や隠れていたお化けの格好した人間が襲いかかって来る。理佳子は俺の腕をしっかり組んでキャーキャー言いながら楽しんでいる。


一方後ろから遅れて小山内、薫ペアは…


「うわぁ~~~、キャッ、やぁ~だぁ~もう~」


と言いながら半分泣きそうになりながら小山内に捕まって薫が歩いてる。


「重森…マジで怖がりなんだな?」


「うん、多分小山内君にべったりになってるよきっと」


「お前…もしかしてそれが目的か?」


「フフフッ…フフフフフッ」


理佳子わりとやるな…

と思った瞬間理佳子の手が俺からスッと離れ


「キャアァァァァ」


暗闇で何が起きたのかまるでわからない…


「理佳子~!理佳子どうした!」


理佳子の声も姿もない…

俺は不安にかられた…

次の瞬間理佳子が俺の前にスッと現れ


「びっくりした?」


と言って笑っている。冗談キツイよぉ~…でも、ちょっと可愛い…


た…楽しい…かおりちゃんにめっちゃ頼られてる…めっちゃ楽しい!小山内のテンションはMAXになっている。


「かおりちゃん、しっかり俺に捕まって!いざとなったら俺がお化け倒してやるから!」


小山内は鼻息荒くそう言った。


「もうやだよぉ~…怖いよぉ~…」


小山内はそっと薫の肩を抱き寄せた。俺今超幸せ!かおりちゃん何も言わないし、このままお化け屋敷出たくないなぁ~…次の瞬間薫がおもいっきり小山内の両脇腹をつまんで


「キャアァァァァ~!」


と絶叫した。痛ててててて…かおりちゃん…なんて馬鹿力なんだ…まるでピラニアに食い散らかされたかと思ったぜ…

そして四人は無事にお化け屋敷を脱出した。


「あぁ~楽しかった」


理佳子は満足気にそう言った。


「すげぇ良かったよねぇ~」


小山内も痛みを堪えながら満足したようだ。


「次何乗る?」


理佳子はまるで子供のようにはしゃいでいる。


「絶叫系は小山内全部ダメなのか?」


「んー…俺はパスだな…俺は待ってるから行ってきて良いぞ」


「じゃあ私も待ってる」


意外にも薫がそう言った。


「え?良いの?かおりちゃん俺に気を遣わず行ってきて良いんだよ?」


小山内は心と裏腹にそう言った。


「じゃあ理佳達ととりあえず別々に行動する?後でどこかで落ち合うことにして」


「え?それで良いの?」


理佳子が言う。


「ま、ランチまで理佳の好きな絶叫系乗っておいでよ。私は小山内とテキトーに遊んでるから」


そのときの小山内の口から心臓が飛び出しそうなほどの喜んだ顔が忘れられない。


「じゃあそういうことで行こか?理佳子」


「うん、じゃあまた後で連絡するね~」


そう言ってお互い別々の方角へと歩きだした。


「ねぇねぇかおりちゃん…何乗る?」


「別に…理佳の付き合いで遊園地なんか来たけど…あんまりこういうところはなぁ…」


「え?じゃあどうする?」


もしかしてかおりちゃん…俺達別行動にして何か誘ってるのか?これはもしかして…もしかして…何か俺に神様が大きなチャンスを与えて下さったのか?


「じゃ…じゃあかおりちゃん、ベンチに座ろっか」


「そうだね」


そう言って辺りを見回して薫の手を引いて


「あそこにベンチあったわ、行こ」


小山内は薫をベンチに連れていき二人は座った。


「かおりちゃん…前にも言ったけどさ…俺じゃダメかな?」


小山内はドキドキしながら薫の横顔を覗いた。


「何が?」


「何がって…俺がかおりちゃんの彼氏にはなれないかなって…」


薫は黙って前を見つめている。しばらく沈黙して


「今はまだ…返事は出来ない…自分でもよくわからないんだけど…」


そう言ってまた黙ってしまった。


「いや…いいよ…すぐにじゃなくていい。かおりちゃんの気持ちが整理出来たら返事聞かせて欲しい」


薫は黙って頷いた。そして薫が小山内の手を握った。


「今日だけは………私の彼になって…」


「かおりちゃん…うん、わかった。一日彼氏ね」


薫の中の複雑な想いが自分にも信じられない行動を取らせてることに違和感を感じながらも淋しさに抗えない。


「小山内…ありがと…」


小山内はなんのことかわからないがとりあえず


「かおりちゃん…お、おぅ」


そう答えた。


たかと…

天斗と理佳子が手を繋いで仲良く歩いていく後ろ姿を思いだし、どんどん取り残されてく自分の気持ちと、決して願ってはいけない自分の願望が薫の頭を悩ませる。

小山内は私を必要としてくれてる…でも、ここで小山内に逃げるのはあまりに卑怯だ…この気持ちを切り換えるにはどうしたらいいんだろ…


昼12時を回った。


小山内と薫はベンチで手を繋いだまま他愛ない学校での話や薫の趣味についてなどを話していた。しかし薫は会話に集中出来ずにいた。


「そろそろ理佳に連絡取ろうか?」


「そうだね、そろそろ腹も減ったしどこかでランチしたいよね」


薫が理佳子に電話をかける。


「あっ、理佳?そろそろランチにしない?」


「うん、私達もちょっとお腹空いたねって話してた」


「じゃあフードコート向かうから来て」


「うん、わかった」


電話を切って小山内、薫ペアと天斗、理佳子ペアは食堂に向かう。


四人それぞれ注文を終えテーブルを決め椅子に座った。


理佳子が


「薫達は何か乗ったの?」


「ううん、ベンチで話し込んでた」


「えー、勿体ない。食べたら何か一緒に乗ろうよ」


「うん、そうだね」


理佳子の為に薫は合わせている。四人は食事を終えて


「じゃあ、何乗る?」


理佳子が言った。


「観覧車どうかな?」


小山内が続いた。


「観覧車良いね!観覧車乗ろうよ」


二人ずつ別々に観覧車に乗った。薫は天斗と理佳子の姿をずっと目で追う。

たかと…なんかヤバい…自分がコントロール出来なくなってきてる…どうして?なぜあんな奴のことを…まるで私じゃない…薫がどんどん情緒不安定に陥っていく。

その時


「かおりちゃん?どした?なんか凄くボーッとしちゃって…」


薫は我に返り


「ごめん…なんかちょっと気分がすぐれなくて…」


「大丈夫か?これ降りたら少し休もうか?」


小山内が気遣う。


「うん、ごめん…」


観覧車が下まで降りたところで


「黒ちゃん、かおりちゃんが気分悪いみたいだから俺ちょっと休ませて来るわ」


小山内が言った。


「薫大丈夫?」


「ごめん…ちょっと今日体調悪いみたい…」


「重森…日陰で休んだ方が良いみたいだな」


そう天斗に言われたとき動揺して涙が沸き上がりそうになりクルっと振り返って


「ごめん、ちょっと休んで来るね…」


そう言って背中を向けたまま歩き出す。すぐに小山内が追いかけ


「俺かおりちゃん見てるから二人で頼む」


そう言って薫の肩を抱きかかえ休める場所を探し歩いていった。


「薫…」


理佳子は複雑な表情でその背中を見つめる…


「あいつ大丈夫かな?」


「たかと君…」


理佳子はそれ以上は言わなかったが、薫の様子を見て全てを悟っていた。薫との付き合いが長いのでお互い手に取るようにお互いのことがわかる。わかるが故にお互いが辛い…理佳子はたまらなく不安になる…薫の気持ちを考えると胸が痛い。私…いったい…どうしたらいいの?たかと君は…



「かおりちゃん、あそこで休もうか?」


小山内が指差した先に日陰のベンチがあった。薫が


「ごめん…ちょっと一人にさせてくれる?」


「…わかった、じゃあ俺その辺で…」


そう言ったとき薫が


「そこのベンチで座って待ってて」


「わかった、待ってる。大丈夫なの?」


薫は軽く笑みを見せ何も言わず木陰に消えた。2~3分経っても戻って来ないので心配になり様子を見に行く。薫がうずくまって泣いてるようだ…小山内はどうしていいかわからずしばらく様子を見ていた。そして意を決して


「かおりちゃん…?」


薫はあわてて立ち上がり小山内に背中を見せる。

小山内は静かに薫に近づきそっと後ろから薫を抱き締めた。薫は肩を揺らしながら泣いている。かおりちゃん…いったい何があったんだよ…俺何か言ったかな…薫は声を圧し殺して静かに泣き続ける。小山内はそっと薫を自分の方に向かせ自分の胸に抱き寄せた。何も言わず何も聞かずに黙って抱き締める。


「ごめんね…ごめんね…ほんとごめんね…」


薫が静かに泣きながらそう言った。

そして…俺は…夢を見てるのか?まさかこんなこと…薫ちゃんからまさか…


理佳子は薫のことを思うと憂鬱になる。その後全く楽しめなくなり心ここにあらずな状態だ。


「理佳子…重森が心配なんだな?」


「うん、ごめん…」


「様子見に行こうか?」


「………」


理佳子の手を繋いだままブラブラと園内を歩き続ける。薫…きっとあの人のことをたかと君を透して見てるのかも…たかと君と少し似てるもんね…雰囲気とか優しさとか…でも、何故たかと君を…薫があんな顔したら私も辛くなる…淋しいのはわかる…でも…たかと君は…


かおりちゃん…?薫が小山内の首に手を回してキスをした。小山内は周りから見えないのを確認した。今日の薫ちゃん…なんか変?すげぇ夢みたいだけど、泣いたと思ったら急にキスしてきたり…いったいどうしちゃったの?

その時小山内の携帯に着信…薫はパッと離れて


「ごめん…ほんとごめん…」


そう言って小山内に背中を見せた。小山内は薫を不思議な気持ちで見つめながら電話に出る。


「もしもし?」


「重森は大丈夫なのか?」


「………あ、あぁ…大丈夫みたいだけど、悪い、俺このままかおりちゃん送ってくわ」


「何で?」


「んー…大丈夫だけど大丈夫じゃないみたいだから…」


訳のわからないことを言い出した。


「どっちなんだよ…」


「ま、心配すんな!かおりちゃんは俺に任せてそっちはそっちで楽しんでくれたまえ!」


「わかった。じゃあ頼むぞ」


「おぅ」


そう言って薫を後ろからそっと抱きしめ


「かおりちゃん、送ってくわ」


薫は軽く頷いた。

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