第47話

それぞれ就活に本格的に乗り出した天斗達、理佳子も薫も順調に自分達の道が決まりつつあった。小山内も透との話でどっちに転がっても安泰と安心しきっていた。そんなある日、薫から理佳子に電話をかけた。


「もしもし、理佳?」


「久しぶり、かおり!」


「理佳は就活どう?」


「私はそっちに就職してたかと君の側に行こうと思ってるよ。かおりは?」


「私はアパレル関係の仕事見つかりそうだよ。もう何社か目星つけてる。」


「そっかぁ、今度はかおりともちょくちょく会えそうだね」


「そうだね!私も卒業したら小山内家にお世話になるって約束してる」


「そうなんだ…いいね…大好きな人と一つ屋根の下で生活するって…」


「理佳はたかとと同棲出来ないの?」


「そりゃしたいけど…私達で決められることじゃ無いから…」


「そっかぁ~…また今度ゆっくり遊ぼう!」


「そうだね!また今度」


そう言って二人は電話を切る。同居かぁ…いいなぁ~かおり…あっ、たかと君に電話しなきゃ…理佳子は天斗に電話をかける。


「もしもし、たかと君?」


「おう、泊まりに来る日決まったか?」


「うん、今度の土曜日どうかな?」


「おう良いぞ!」


「たかと君…かおりは小山内君の家で同居するんだって…羨ましいなぁ…」


「理佳子…」


いつかは俺達も一つ屋根の下で一緒に暮らせる日が来るさ…


「でも、今はこうして離れてるけど、たかと君の側に行けるだけでも十分幸せだよね…」


「あぁ、俺も凄く楽しみだ」


「じゃあ、また土曜日ね」


「あぁ!待ってる」


「うん、たかと君…大好き…」


「理佳子…大好きだよ…」


そして二人は電話を切った。


土曜日、天斗は駅に理佳子を迎えに行き、天斗の家に理佳子を連れてきた。


「おばさんお久しぶりです!」


「いらっしゃい、理佳ちゃん!」


三人はリビングのテーブルの椅子に腰かけて


「理佳ちゃん、天斗から聞いたけどこっちの方で仕事探して住まいもこっちで探すんだって?」


「はい、この辺りでどこか賃貸探そうと思ってます」


「それで私も色々考えてたんだけど、いずれ理佳ちゃんが天斗のお嫁さんとして来てくれるんなら、いっそのことリハーサルも兼ねて家で一緒に暮らしてみないかい?」


「え?おばさん…そんな…でも…」


「ちょうど部屋も一つ空いてるし理佳ちゃんに来てもらっても問題は無いんだよ!それに、おばさんも理佳ちゃんの顔を毎日見たいしねぇ…」


「そう言ってもらえるのは凄く嬉しいんですけど…母にも聞いてみないと…」


「それは私の方から話してあげるよ。理佳ちゃんのお母様も天斗のこと気に入って頂けてるって聞いたし、お互い意見が一致すれば問題ないでしょ?」


「そんなの…夢のようです!おばさん、ありがとうございます!」


「若い女の子の独り暮らしよりも、理佳ちゃんのお母様も安心してくださると思うわ」


「ほんとにそうなったらどんなにいいか!」


理佳子と天斗のテンションは頂点を極める。


「でも、おばさん…一つだけ問題が…」


「なぁに?」


「私猫飼ってるんですけど…どうしたら…」


「あぁ、それは確認しとくわね!一応ここは社宅として借りてるから、ペットが飼える条件なら問題無いわよ」


「はい」


天斗の母と理佳子の母が話し合い、理佳子にとっても願ってもない提案と二つ返事で承諾され、理佳子が卒業とともに黒崎家に同居という形で話しは進む。そして猫のタカの件も無事解決した。天斗、理佳子ペア、そして小山内、薫ペアも全て順調に事が進んでそれぞれ落ち着いてきた。


「小山内先輩、卒業しちゃうんすねぇ…」


そう言ったのは小山内をリスペクトする後輩、相澤だった。


「小山内先輩…俺達は小山内先輩の築いたこの学校のまとめ方を受け継ぎますよ!」


そう言ったのは小山内に仲間とはどういうものかを教わった新入生、加藤だった。


「お前ら…」


「でもよ…もしかしたらまた学校一緒に登下校出来るかもよ?」


天斗が言った。


「え?そうなんすか?それ嬉しいッス!」


相澤が目を輝かせて言った。


「バカ野郎!そんな不名誉なこと喜ぶな!」


「だってぇ…」


「清はもし卒業出来なかったら退学させる!」


薫が言った。


「そうなんすか?」


「だってもう就職決まってるもん!」


かおりちゃん…ほんとにありがとう…


「結局一番ヤバそうだった奴が一番先に抜けるのかよ…人生わからないもんだな…」


天斗が恨めしげに言った。



時は流れクリスマスムードの色濃くなる時期に突入した。この日、例年よりも早く初雪が観測された。


「冷えるなぁ…こんなに早く雪が降るなんて異常気象かな…」


天斗がブルブル震えながら歩いている。


「黒ちゃん寒がりだなぁ~」


「お前が鈍いだけだろ!」


「そういやさ…最近片桐からまた連絡来たんだけど…また何か一騒動ありそうな気配だって…」


「なんだよそれ…」


「今度はちょっとヤバいことになりかねないぞ!」


「勿体ぶらずに言えよ!」


「ずっとおとなしくしてた佐々木日登美がまたこじらせてるらしい…」


「あ?また?」


「つーか…あいつ自身もヤバいことになってるらしいんだが…」


「それは自業自得だろ!」


「そうなんだけどね…この年末にかけてちょっと暴力団関係の方で佐々木日登美を中心に色々と揉めてるらしくて、あいつ退学にしたのかおりちゃんみたいでさ…それでなかなかブツも捌くの難しくなったとかでとばっちりが…」


「そんな事絶対重森には言うなよ!あいつ何しでかすかわかんないからな…俺達があいつを守らなきゃ…」


「でもよぉ…暴力団関係相手に俺達で事を収めるってのは絶対無理だぜ…」


「たしかにな…今回ばかりはちょっと難しい問題だな…」


その時急に後ろから声が


「知ってるよ!それ…私もどうしようか悩んでる…」


「かおりちゃん…」


「重森、いいか?これは絶対お前は関わるな!俺達が何とかお前を守ってやる!」


「そんな事出来ると思う?」


「それは…」


「でもさ、かおりちゃん!せっかく幸せになれるって時にわざわざ危険に飛び込むような真似する必要ないよ!」


「相手が相手だけにそうは言ってられないよね?」


三人は頭を悩ませていた。


「とにかく!何時なんどきの為に用心するにこしたことはないな…」



数日後、学校帰りの天斗の元へ一人の学生が訪れた。


「ねぇ、キミ黒崎君だろ?ちょっと話があるんだけど…」


天斗は見覚えのない男に警戒心剥き出しで


「何の用?」


「あの、ちょっと頼まれてさ…石田寮って覚えてるかな?」


石田?もしかして…理佳子拉致って俺がブッ倒したやつかな…


「あの下衆野郎のことか?」


「ハハハ…下衆野郎って…確かに君にとってはそうなるかもな…」


「それがどうしたよ!」


「佐々木日登美の件で話がしたい…」


急に真面目な表情で切り出してきた。佐々木日登美…やはり台風の目が動き出したか…


「実は、石田が君達の力を貸して欲しいってお願いだ…」


「あぁ?何都合良いこと言ってんだよ!あいつは理佳子拉致って恐怖のどん底に追い込んだ野郎だろうが!そんな奴に協力するほどお人好しじゃねーよ!」


「そう言ってられるのか?君の仲間の矢崎薫だって危険な目にあいそうだってのに…」


こいつ…けっこう色々情報持ってそうだな…これは上手く利用して逆に力を借りる方向へ持って行けるかも知れない…


「話だけでも聞いてやるよ」


「ありがとう、じゃあちょっと付いてきてよ」


天斗は警戒しながらも、虎穴に入らずんば…とりあえず付いていくことにした。少し歩くと数台のバイクに乗った革ジャンの男達が数名待機していた。


「じゃあそこのバイクのケツ乗って、石田の所に行くから」


天斗は黙って言われた通りにバイクに跨がる。しばらく走って団地の中へと入っていく。そしてその団地の一部屋に通された。玄関を開けるとタバコの煙が部屋中に充満していた。


「よう…久しぶりだな!」


そう言ったのは、憎き石田寮だった。


「てめえ…あのときはよくも理佳子を!」


「まあ、落ち着いてくれ…あん時は悪かったよ…本当に申し訳ないと思ってる…」


「それが謝る態度かよ!」


「てめえ調子に乗るなよ!」


石田の取り巻きが天斗に詰め寄る。


「やめろ!ここでいがみ合っても何の得にもならねぇ!」


石田が仲間に一喝した。


「なぁ黒崎…俺も深く反省してる…この通りだ…」


そう言って石田は深々頭を下げる。


「黒崎…頼むあんたの力を貸して欲しい…筋違いってのは承知だ…だが今回の件はとにかく頭数だけじゃなく戦力が欲しいんだ…」


こいつ…よほど切羽詰まってるな…俺達も相手が相手だけに、こいつらと目的は同じなのかも知れない…


「とりあえずどういうことか聞かせてくれ…」


「ありがとう…実はな…佐々木日登美の件は知ってるよな?あいつと俺はブツ捌くのに組んでたんだが…重森…矢崎薫のお陰で随分と歯車が狂っちまってな…それで俺達の上のモンから締め上げ食らってたんだが…佐々木日登美が飛ぼうとしてよ…それが失敗して今窮地に立たされてんだよ…自業自得って言うかも知れねぇが…あいつもあいつで色々と苦労してんだよ…」


「それで佐々木の救出を手伝えと?」


「あぁ…結局矢崎薫も狙われてるからお互いのメリットにはなると思うんだが…」


「だけどよ…相手は暴力団関係者だろ?そのあとどんな報復あるかわかんねぇだろ?」


「とりあえずこの事件の首謀者をやれば何とかなるとは思ってるんだがな…」


「どういうことだよ?」


「その首謀者も上からせっつかれてるから焦ってんだよ!つまり…悪の元凶はそいつだけってことになる。所詮ヤクザの遣いっぱしりさ…ただ、その男の下が何人居るかはわからねぇ…」


「なるほど…」



一方、伝説の黒崎の方にも訪問者が居た。


「よう…お前とツラ合わせるのは吐き気がするが…お前に詫びたい気持ちもあってな…」


そう言ったのは薫の元カレを殺傷した安藤だった。


「お前…とことん頭のネジ飛んでたのにどうしたんだよ…あの偽物にやられてやっと正気に戻ったのかよ…」


黒崎が言う。


「そうかもな…なんつーか…もう腐った人生に疲れたって感じかな…」


「で?何の用だよ!」


「あの女…ヤバいことに巻き込まれてんだろ?」


「安藤…」


「俺をけしかけた佐々木日登美って女は自業自得だが、あの薫ってのはちょっと可哀想だな…だから…手伝ってやろうと思ってな…」


「お前…そうか…今回の件は俺達には少し荷が重いかも知れん…しかし、ただ黙って殺られるのを見過ごすことも出来なくてな…助かるよ…」


「だろうな…」


また小山内の元へも橋本と片桐が駆けつけていた。


「よう、小山内久しぶりだな!」


「橋本…片桐…」


「お前の女…やっぱりあの有名な矢崎薫って奴だったな」


「あぁ…元レディース総長にして、あの伝説の黒崎と深く関わりを持つ女だ…」


「お前…お前の相棒が影武者だって知ってたのか?」


「フッ、本物だとか影武者だとかそんなのどうでも良いんだよ!俺の黒ちゃんは誰が何と言おうと伝説の黒崎天斗だ!あいつは本物の男だよ!」


「なるほど…ところでお前…彼女のこと心配で眠れねぇんだろ!」


「バカ言え…かおりは俺の命に代えても守るから心配なんかしてねぇよ!」


「そうかいそうかい…小山内、俺達も参戦してやる!死ぬな!」


橋本が真剣な顔でそう言った。



理佳子…きっと怒るだろうなぁ…今回の山は正直今までとは全く危険度が違いすぎるもんな…ただの喧嘩なんかでは済まないのは火を見るより明らかだ…誰がどうなってもおかしくない…みんなそれぞれ幸せな人生を目前にして、何でこんな修羅場に直面しなきゃなんねーんだよ…俺は卒業したら理佳子と幸せな家庭築いて平々凡々な人生歩むつもりだったのに…何でこうも次から次へと問題が津波のように押し寄せて来るんだよ…俺の平和な人生はどこ行っちゃったのかなぁ…


母ちゃん…父ちゃん…息子の先立つ不幸をお許しください…男小山内清…愛するかおりの為に散り行く覚悟です!例えこの肉体が滅んでも…こんなに立派に育ててもらった恩は忘れません…だからどうか悲しまないでください!俺は…かおりを命に代えても守りたい!


兄ちゃん…お母さん…吟子さん…清…理佳…たかと…みんな本当にありがとう…今回の件は全て自分が撒いた種…誰にも迷惑かけたくない…もう少しだけ良い夢の続き見たかったけど…でも、もう十分かも…お母さんの気持ちがわかっただけでも…なんか全て不幸だった人生がチャラになった気分だし…吟子さんの悲しむ顔は見たくないけど…それが私の運命なら…仕方ないよ…今度ばかりは…多分運良く生き残れるって気がしないもん…なんか短かったけど、悪くもなかったかな…私の人生…


それぞれが死を覚悟して絶望の淵をさ迷っている中、理佳子だけは何も知らされておらずクリスマスのことで頭がいっぱいだった。

たかと君…今年はどんなクリスマスになるかなぁ…

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