第22話

二人は病院に到着した。病院には片桐にやられた高谷耕介(たかやこうすけ)、千葉勝男(ちばかつお)が入院している。高谷はあばら骨骨折で重傷、千葉も足首骨折で重傷と痛々しい怪我をしていた。他にも吉田友介(よしだゆうすけ)、赤坂昌利(あかさかまさとし)、大田和也(おおたかずや)、清原勇樹(きよはらゆうき)と地元では名の知れた面子だが、今はみんな小山内の側近で、それぞれ大なり小なりの怪我をして病院に来ていた。そして高谷、千葉の病室にこの顔ぶれが全員揃っていた。小山内と片桐は病室の前で


「小山内…俺…やっぱ合わせる顔がねえょ…」


急に弱気になる。


「片桐、お前のやったことはもう消えねえ…だけどな、男ならどんなときでも、どんなことにも逃げちゃいけねえよ。自分の行動に責任取れないなら最初からやるな。やったんなら最後まで覚悟決めろ!」


小山内は片桐の肩をポンと叩いて病室に入る。


「おぉ、みんな揃ってるな!高谷、千葉、怪我は大丈夫か?」


一斉に小山内の方を向き


「きよちゃん!また来てくれたのか、悪いな」


高谷が言った。


「きよちゃん、片桐のやつどうなったんだ?」


千葉が言った。小山内は廊下に目をやり


「実はな、お前達に話がある…」


そう言って廊下に隠れている片桐を手招きした。そーっと現れた片桐を見て一斉に


「てんめぇ!どういう神経してやがる!」


「きよちゃん、これどういうことだ!」


「お前何しに来やがった!」


小山内はその場でいきなり土下座をした。


「みんな済まない!今回俺と片桐の個人的なことでお前らにこんな酷い目に合わせたことは本当に申し訳ないと思ってる!どうかこの通り…」


そう言って土下座しながら頭を床に擦り付ける。


「きよちゃん!どういうことだよ!何できよちゃんが謝る!俺はあばらやられてんだよ!」


高谷が言った。


「俺だって足首やられて歩けねーんだぞ!」


千葉も激怒している。


「俺は拳潰されたぞ!」


「俺は右目やられた!」


「俺だって首やられたよ!」


「俺は…深爪した…」


一斉に清原勇樹の顔を見た!


「そりゃお前が悪い!」


全員声を揃えてツッコミを入れる。


「わかってる!お前らの痛みは俺の痛みだ!お前らが納得いかないなら全部お前らと同じ痛みを俺は受ける!あばらも、足首も全部お前らと同じ怪我を俺は一緒に受ける!だから…頼む…片桐のことを…片桐を…もう一度仲間だと受け入れてやってくれねぇか…頼む!」


小山内はずっと頭を上げずに懇願する。それを見た片桐も小山内の隣で土下座した。


「みんな…本当に申し訳ない…許してくれなんて都合のいいこと言うつもりはねぇ…どんなに恨まれても仕方ないとわかってる…ただ俺は…お前達に謝りたくて…謝って済む問題じゃねーことはわかってる。許してもらえなくても…謝りたかった…本当に申し訳ねぇー!」


一同この土下座している二人に対して沈黙している。みんな小山内に絶対的な信頼を寄せている。だからこそ小山内がここまで懇願する気持ちを理解しているのだ。片桐に対しての怒りは変わらない。しかし小山内が引かないことも知っている。もし許さなければ本当に自らあばらも足首もやりかねない男だ…そんな仲間を想う小山内にみんなは惚れ込んできたのだから、片桐を許さないわけにはいかない…


「なぁ、片桐…ここでお前を許したとして…お前だけ何の痛みもなしじゃあ俺達の怒りはどこにぶつけりゃ良いんだよ…」


高谷が言った。


「高谷…それはこれから片桐が想い知ることになるんだ…」


小山内はガラスの代償が高く付く事を片桐には言ってない。小山内の母ちゃんは昔、ヤクザも恐れるほど筋金入りのヤンキーだった。後に片桐は地獄を見ることになるのであった…

病院からの帰り道、片桐は思い出したかのように小山内に切り出した。


「そういやよぉ…お前の仲間の中に女みたいな男が一人混ざってなかったか?」


「あ?女みたいな男?誰だそれ?」


小山内はよくよく考えて該当しそうな人物を探す…ん?待てよ…女みたいな男?女みたいな?女?それってもしかして…かおりちゃん?


「あぁー!!!お前!俺の女を変な目で見てんじゃねーだろうな!」


俺の…女?俺の…?小山内の…?は?お前の女?


「はぁー!お前の女だとぉ~?あれが女だとぉ~?お前いつからそういう趣味になったんだよ!俺の知ってるお前はいつも頭ん中ピンク色に染まって鞄の中はエロ本しか入ってねー記憶しかないぞ!」


「おい…てめぇ…あれが女だとぉ~とはどういう意味だ…あんなか弱い可愛娘ちゃんに向かってどういう意味だコラァ!どういう目をしてんだお前は!」


「いやいやいやいや…あんな強ぇ女がこの世に居てたまるか!お前こそ、なに寝言言ってんだよ!」


「片桐…よーく思い出してみろ…あんな可愛い女を見て男だなんて言うお前の神経がわからねえよ…」


「確かに顔は綺麗な女風だがあれは男だろ?え?マジで違うの?」


「あれは…俺の女だってば。正式には未来のだがな…」


「フッ、小山内…妄想のし過ぎでついにそこまで病気が悪化したか…お前みたいな頭の悪い奴にあんな可愛い女の娘が惚れるわけねーだろが!」


「おっ!もしかして妬きもち妬いてんのか?そうかそうか!」


小山内は得意気に言った。


「小山内、俺は頭もお前より良くてお前よりイケメンでも彼女出来ねーのに、お前に先を越されるとはどうしても思えねぇ…」


「何とでも言え負け犬」


「くっそぉ~…こんなバカに俺が負け犬扱いされるとは~…ところであの可愛いけど恐ろしく強いおとこおんなの名前何て言うんだ?」


「だかられっきとしたか弱い女だ!その名も、重森…」


「重森?…そっか…じゃあ違うな…いやな、前にこんな噂聞いたことがあるんだよ…今や伝説の男と言えばあの黒崎だ…だけどな、その黒崎の名を欲しいままにまで育て上げた兄妹ってのがいてな、その妹の方は確か…矢崎…なんちゃら…とか言ってな、そりゃあもう極悪非道で緑の血が流れてるとか、人の皮を被ったバケモンだとかその武勇伝はあまりにも多く語り継がれた女で、レディース総長やってたんだが…突如その姿を消して雲隠れしたって…あの強さ…もしかしてとは思ったんだが、どうやら人違いだったみたいだな」


「人違いも何もかおりちゃんはか弱いから全くそこにひとつも該当してないぞ?」


片桐は小山内の目の前であれほどバタバタと大の男達をぶちのめした事を全く知らなかったかのように記憶を改ざんする都合のいい思考回路に呆れてものも言えなかった…


「重森、今日はお疲れ様」


小山内達と別れて薫の仲間のバイクで家まで送ってもらった。


「重森、お前の特訓すげぇ助かったよ。もしあれがなかったら俺はなす術もなくただ逃げ惑うことしか出来なかった…ありがとな」


「まだまだ本物には天と地ほどの差があるけどね…でもほんと頑張ったと思うよ」


「重森…向こうの黒崎のこと知ってんのか?」


「…私も過去にいろいろやってきたからね、ここら辺の裏も表もみんな知ってる…今はただの…か弱い女の娘だけど…」


「お…お前…自分で言うか?」


そのとき薫の仲間達も後ろを向いて肩で笑った。


「お前ら!今笑っただろ!」


「いえいえ…恐れ多くてそんなこと…」


「どこがか弱い女の娘なんだよ…みんなビビってるじゃねーか…」


俺は聞こえないほどの小さな声で言ったつもりだったが


「うっせー弱虫!」


こわっ!やっぱめっちゃこわっ!


「じゃあな、次は二学期だな」


「うん…じゃあね…」


薫達はバイクで去っていった。俺は家に入り風呂に入って自分の部屋に戻りベッドに横になる。


「疲れたなぁ~」


独り言を言って携帯を持つ。そういや理佳子…じいちゃんどうなったのかな…俺は理佳子に電話をかける


「もしもし、理佳子か?」


「うん」


「久しぶりだな」


「たかとくん…淋しいよ…ずっと連絡くれなくて…」


「ごめんごめん…ちょっと最近ゴタゴタがあってな、忘れてたわけじゃないんだぞ?」


「たかとくん…おじいちゃん亡くなって私もバタバタ忙しかったの。それで転校の話しは昨日お母さんにしたんだけど…」


俺はゴクッと唾を呑み込みその話しを待った。


「やっぱりそう簡単には転校させることは出来ないって言われちゃった。やっぱり薫のとこに行くにしても心配もあるし、何か理由がないとって…でもね、たかとくんのことはお母さんも賛成してくれてるの。たかとくんの人柄、お母さんも知ってるから…」


「お…おう…そうか…」


「たかとくん…また近いうち会いたい…」


「うん、俺も会いたいよ。少し待ってくれ、必ず会いに行く」


「うん、ありがと…」


「理佳子…お前のこと…好きだぜ…」


「うん…私も…大好き…」


「じゃあ、また電話する…」


「うん…」


そう言って電話を切った。好きだぜ…大好きだ…そうだな、愛してると言っても間違いじゃない…理佳子…お前との将来…理佳子のことを考えながら、あまりの疲れに俺は眠りに落ちていた。

俺は夢を見た。理佳子が見知らぬ男達に絡まれてる…理佳子は嫌がっているのに男達がしつこく絡んで離さない。理佳子は恐怖で泣いている…たかと君…助けて…

ガバッ!

俺は理佳子の助けを求める声で目が覚めた。


新学期が始まって数日が経つ。俺はあの時の嫌な夢が頭から離れない。もし俺の目の届かない所で理佳子の身に何かあったら俺は何が出来るだろう…そんな不安にかられる日が続いた。そんなある日の夜、理佳子から電話があった。


「もしもし?理佳子」


俺は珍しく理佳子の方から電話がかかってきて驚いた。


「たかと君!今度の日曜日って何か予定ある?」


「いや、例えあったとしてもお前を最優先にするから!」


「フフッありがとう!あのね日曜日にそっちに遊びに行きたいの」


「おう!俺はいつでもウェルカムだ!」


「あのね、たかと君…やっぱりいいや…」


「何だよ、もったいぶって…」


「いいの、会ってからにする…フフフッ」


なんか理佳子のやつ随分楽しそうだな…いったい何なんだよ…


「わかった、今度の日曜日何時にする?」


「始発の電車で行きたいの。少しでも長く一緒に居たいから」


「わかった!じゃあ俺も調べておくわ」


「うん」


「なぁ…理佳子…気を付けろよ…世の中物騒だからな…」


「うん。何かあったらすぐ助けに来て」


それが出来たら苦労しないんだよ…この距離じゃあすぐに駆けつけるってことが出来ないからなぁ…


「じゃあ…今度の日曜日な…」


「うん、おやすみ…たかと君」


「おやすみ、理佳子」


そして俺は電話を切った。




日曜日の朝7時、この日はわりと涼しく空気も適度に乾いた気持ちの良いそよ風が吹く秋晴れだった。俺は駅のホームで理佳子が乗ってくるはずの電車を待つ。ホームに始発の電車が大きな音を立てて入ってくる。電車が止まってプシューッと音を立て一斉に電車の扉が開く。俺は理佳子がどの辺から降りてくるのか姿を探す…それほど人数は多くなかったのですぐに理佳子の姿が見えた。


「理佳子!」


理佳子は少し離れたところからこっちへ向かって手を振りながら歩いてくる。理佳子の格好は白のブラウスにピンクの丈の長いスカート、そして、つばの大きめのハットを頭に被って女の子らしい姿で俺の前に立った。


「たかと君おはよう」


理佳子は肩にバッグをかけている。


「おはよう理佳子、そのバッグ持つよ」


「ううん、いいの。ありがとう」


俺達は駅を出て歩き出す。


「母さんが理佳子遊びに来るって言ったら、もう喜んじゃって、朝から鼻歌歌ってたよ…」


「ハハハッ、私もおばさんと会うの楽しみだよ」


理佳子は俺の腕に両腕絡ませてピッタリとくっついて歩く。あまりにも密着し過ぎて理佳子の大きな胸が俺の腕に当たってる…まずい…ドキドキしちまう…しかも理佳子がたまに上目遣いで俺を見てニコッと笑う姿が堪らなく可愛い…

ヤバい…理性が…飛びそうだ…

理佳子…たまんねぇ…可愛すぎるよ…

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