第9話

え!?何で!?何で電話切られた!?いつもはここぞと言うとき決められない俺がおもいっきりバシ!っと決めたってのに…何でこのタイミングで切られる?ウソだろぉ~…理佳子~…やっぱり理佳子わかんねぇ…



たかと君…私切ったと思ってるかな…かけ直さなきゃ…ちゃんと返事しなきゃ…でも…手が震えて…あんなストレートに…どうしよう…理佳子は歓喜のあまり泣き出してしまった。

たかと君…たかと君…嬉しい…私…たかと君のものに…震える手で理佳子は頑張って通話ボタンを押す。


「もしもし!理佳子…ゴメン…突然あんなこと」


理佳子は俺の言葉を遮って


「たかと君!ありがとう…大好き…ずっとずっと大好きだった。私…私の全ては…たかと君のものだよ…私をたかと君のいいようにして…」


泣いて…んのか?理佳子…お前…めちゃくちゃ嬉しいこと言ってくれるな…やっぱお前ほんと可愛いよ…

男はこういう健気な女が好きなものである。


「理佳子…」


「たかと君!」


「ん?」


「あの…あの…夏休み…なんだけど…」


「うん…」


「あの…薫と…ダブルデートしない?」


「え?重森と?」


「うん…さっき薫から電話が来て…薫のことを好きな人が居るんでしょ?」


「あっ!そういうこと?いや、確かに居るけど…重森からそんなこと言ったの?」


「うん。薫…その人のこと悪い気はしないって言ってた…でも…」


「でも…何だ?」


「ううん…何でもない」


「そか、重森がそんなことを。重森って何考えてるかわかんないところあるから意外だな…」


「夏休み…そっち行ってもいい?」


「理佳子、ありがとな。理佳子はそんなことを言えるタイプじゃないのに、勇気出して言ってくれたのな。俺、お前のこと大切にするよ」


理佳子はずっと心臓が高鳴り続けている。

しかし黒崎の気持ちを知って自信が付いたのか、わりと冷静になれた。


「たかと君…」


「夏休み、いつでも理佳子の為に空けとくわ。俺の連れにも伝えとく」


「うん、ありがと」


「それじゃまたな」


「うん…」大好き…たかと君…


電話を切ったあと理佳子は黒崎の声の余韻に浸っていた。

たかと君…お前のこと大切にって…早く逢いたいな、あなたに…タカ…

猫のタカを呼ぶと、ミャアオと鳴いて私のところへ来た。私はタカを抱き寄せて、タカ…やっとたかと君と想いが繋がったよ…デートだって…タカは私の顔をジッと見て私の涙を舐めてくれた。



理佳子~。やっぱりお前は最高だよぉ~!健気で一途に想ってくれて…でも、あいつそうとう頑張ったな。あんなこと言えるタイプじゃないもんな。俺も頑張ったけど、あいつ…すげぇ~な!そうだ!早速小山内にも報告しなきゃ!

小山内~小山内~早く電話出ろ~


「もしもし」


「あっ、小山内か?ちょっと話がある」


「うん、どしたの?」


「あのさ…夏休みまだ未定なんだけどデートしないか?」


「ハァ~~~~~~!?何言ってんだよ!俺はそんな趣味ねぇよ!」


「いや、違うって!」


「違うも何も気色悪ぃな!」


「いや、だからダブルデートをだな…」


「ダ…ダブルデート?」


「おぅ、俺と小山内とだな…」


「だから嫌だって!」


「だから違うって!」


「何がどう違うってんだよ!」


「実はだな!重森を誘うぞ!」


「………………マジか?」


「おぅ!」


「マジか?」


「お…おぅ………」


「マ、マジか?」


「おぅ!!!マジだ!どうだ?重森の従姉妹がだな、実は彼女だったりしてな…」


「ハァ~~~~~!?」


「ハッハッハッ~!」


「重森ちゃんの従姉妹が重森ちゃんの彼女~~~~~!?」


「何だよそれ!?どう聞いたらそういう解釈になるんだよ…」


「それって…どういうことなんだ?重森ちゃん男側なのか!?」


俺は呆れてものが言えない…こいつどんだけ理解力無いんだよ…


「つまりだな、俺と重森と従姉妹と小山内と四人でダブルデートだ!どうだ!」


「……………何でだよぉ~、何でお前が重森ちゃんとデートで、俺がその従姉妹とデートなんだよぉ~」


もういいわ…こいつ疲れる…

普通わかるだろ…


「まぁ落ち着け!重森からお前を誘おうって思ってるってことだ!」


「え……………マジか?」


「おぅマジだ」


「……………マジでか!?」


「お…おぅ…この話しはだな」


「マジか!?」


「お……おぅ………マジだ……重森から言われるまで」


「ちょっ…ちょっ…ちょっ…マジか?」


「うぜぇな!お前は!」


「いゃあ…そうかそうか!やっと重森ちゃん俺の魅力に気づいたかぁ!そうかそうか!」


ダメだこりゃ…完全に自分の世界に入っちまってる…


「ま、まぁいい!とにかく夏休み日程決まったら絶対に空けとけ!いいな!」


「わかった!例え親が死んでも空けとくぞ!」


い…いや…それは流石に優先順位が違うぞ…


「これは重森から言われるまで知らないことにしとけ!いいな!」


「お…おぅ…わかった!知らないことにする」


「じゃあな」


「おぅ、じゃあな」


これでひとまずデートの段取りは出来た。あとは…日程か…上手く皆が合う日が見つかるといいが…理佳子と重森次第だな…



高校二年一学期終業式


「あぁ…明日から夏休みかぁ~…重森ちゃんと会えなくなるなぁ…」


小山内がさりげなく重森に聞こえるように言った。俺は重森の顔をチラッと見た。重森は相変わらず無言無表情で歩く。


「なぁ…重森…あのさ…夏休み予定あるか?」


俺はわざとらしく振ってみる。


「あるよね?毎日」


え?毎日?どゆこと?重森は俺の方を睨んで悪い顔をしてる。


「毎日って?」


「前に言ったよね。私が鍛えてあげるからって」


俺は立ち止まって重森の腕を掴んで引っ張っていく。小山内は不思議そうな顔で眺めている。


「あのさ、それ夏休み中ずっと?」


「そうだよ」


重森はニヤッとして言った。


「それ俺は何も了承してないけど…」


「強制参加だから」


ま、まさか地獄の日々が足音もせず近づいていたとは夢にも思わなかった。


「は…はぁい…で…でもさ、そういうの小山内の前で言うなよ!」


そのとき小山内が近寄って来て


「なーにコソコソ話ししてんの?」


「あ…いや、その…みんな夏休み予定空いてるかなぁって…」


「あっもしかしてダブルデート………ハァ~~~~~~」


小山内はやっちまった!という顔で口を大きく空け俺をチラッと見る。


「重森ちゃんから誘われるまで秘密にしておく約束だったのについ口が勝手に………あーーーーー~~…」


小山内はまたもや口に手を当てやっちまったという顔をしてる。俺は思いっきり小山内を睨み付けた。ダメだこいつは…頭が悪すぎる…重森も俺をチラッと見た。


「あのさ、昨日理佳子に電話したらさ、夏休みこっちに来るって言うから重森と小山内と四人で一緒に会おうかって話しをしてたんだけどどうかな?」


俺は先手を打って重森に切り出した。


「いいよ、いつ?」


「え~と…重森はいつが都合いい?てか、理佳子と予定合わせて教えてよ。それに俺達も合わせて空けとくから」


「わかった。じゃあ理佳に電話しとくわ」


「重森ちゃん、お…俺と………」


「じゃあね、あっ…あんた番号教えなさいよ」


重森が俺に電話番号を聞いてきた。当然小山内はこの世の終わりのような切ない表情で悶えている。


「お…俺は…む…無視ですか?」


小山内は完全スルーされている。


「は…はい…えーと…」


俺は重森に携帯番号を教えた。すぐに重森はかけてきて俺は重森の番号を登録する。


「お…俺には…俺には…どうして…俺だけ…どうして…」


結局重森は小山内がまるで存在しないかのように行ってしまった。俺は小山内の肩をポンと叩き


「まぁ、あれだ…ああいう読めないところが良いんだろ?もう少し打ち解けるまで待て!」


俺は慰めたつもりだが小山内は絶望の淵に立たされた表情をしてる。


「なんで…なんで…なんで俺だけ…グスン…」


やっぱこいつめんどくさ…てか、どいつもこいつも個性強すぎてめんどくさ…それより…明日から毎日地獄が待ってんのな…俺の方が絶望の淵に立たされてるよ…



その日の夜に重森から電話があった。


「もしもし、明日の予定だけど」


「あ…あぁ…明日…な…」


俺はテンションめちゃくちゃ下がってる…


「朝の6時に◯◯のコンビニに来て」


「………はい………」


「じゃあね」


無理だぁ~~~~!死ぬぅ~~~~~!

絶対殺されるぅ~~~~~!あいつマジでバケモンだもん…マジでヤバいもん…あの学祭以来佐々木日登美の姿見なくなったもん…あれ絶対重森がどこかに埋めたんだもん…あいつ絶対極道の奴だもん…そう言えば…あいつ過去に俺と知り合ってる風だったけど…全く覚えが無いけど俺とどういう繋がりだったんだろうな…理佳子に聞いてみようと思ったけど忘れてたな。また理佳子に電話で聞いてみよ。

俺は理佳子に電話をかける


「もしもし、理佳子か」


「うん」


理佳子のやつ…めちゃめちゃかわいい声で返事しやがる…なんか俺達付き合ってからあいつ変わったのかな?てか、俺達付き合ってるでいいんだよな…


「理佳子…」


「うん…」


「俺達付き合ってるんだよな?」


「………うん」


「そか、ちょっと確認だ」


「うん」


「あのさ」


「うん」


「夏休みの予定重森と話したか?」


「うん…」


「そか、いつになった?」


「8月の第一土曜日って」


「おぅ、そうか。すげぇ楽しみだわ」


「うん」


「あのさ…重森のことだけど…」


理佳子はキューっと胸が締め付けられるような感覚になった。


「うん…」


少しトーンが下がった。


「重森が自分とのこと覚えてないだろうけどみたいなこと前に言っててさ…全く覚えて無いんだけど、でもなんかトラウマがあったような気もしてさ…理佳子…何か知ってる?」


やっぱりたかと君は全部忘れてるんだな…

私との思い出も全部…


「たかと君…」


「ん?」


「私達ね、もう随分前に会ってるんだよ…」


「え?マジで?」


「うん…」


「え?いつ?」


「もう随分前…でも…思い出せないんならいい…だって…私もたかと君と再会したとき忘れてたもん…」


俺は何のことかまるっきりわからない…

こんなにもスッポリと記憶って飛ぶんだろうか?


「なぁ…いつだったかな?俺、幼い頃の記憶が飛んでるんだよな…」


「そうなんだ…それはきっと思い出したくない記憶があるからだよ…きっと…」


「思い出したくない記憶?」


「多分そういうことだと思うよ…」


俺はその理佳子が言う思い出したくない記憶が何となくわかるような気がする。きっと俺の奥底に眠るトラウマが記憶を遠退かせているのだろう…


「そか、そうかも知れないな。多分思い出さない方がいいような気がする」


「ほんとは思い出して欲しいことがあるんだけどな…」


「理佳子?」

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