第30話
年を越して寒さは一段と増してくる1月のある日、下校中に理佳子は不穏な気配に怯えていた。何か誰かに後を付けられてる…やっぱり気のせいじゃない…どうしよう…理佳子は震える手でスマホを握りしめる。天斗の番号を出してかけようとしたその時…
「あっ…あの…清水先輩…あの…」
理佳子は一瞬ビクッとしたが、気弱そうな声の主の方をゆっくり振り返る。そこに立っていたのはいかにも優等生といった感じの真面目そうな少年だった。
「何か?」
理佳子はその風貌に拍子抜けしてしまった。
「あの…清水先輩…えっと…あの…これ!」
その少年が理佳子に向かって差し出して来たものは、小さな白い封筒だった。
「これ…何?」
理佳子はそれを手にすると、少年は真っ赤になって
「あの…後で読んで下さい…それじゃ…失礼します!」
そう言って走って去ってしまった。あの子…うちの制服…後輩?渡された手紙には綺麗な字で清水先輩へ、とかかれていた。差出人名前は石井と書かれている。理佳子はそのまま家に持ち帰り封筒を開けて手紙を読んでみた。
清水先輩へ
僕は一年の石井祐太と申します。先輩は覚えていらっしゃらないかも知れませんが、以前僕が転んで擦りむいた時に優しく声をかけて下さり、そしてハンカチで傷口を押さえて頂きました。それから僕はいつも清水先輩のことが頭から離れず、陰からずっと先輩の姿を目で追う日々が続いてます。付き合って欲しいとか、そんなあつかましいことを言うつもりはありません。ただ、この想いを知ってほしくて手紙を書いた次第です。欲を言えば、たまにお話し出来たらとは思いますが、ご迷惑になるのでしたらこのまま陰で先輩のことを見守り続けさせて下さい。
石井祐太
んー…別に害があるってわけじゃ無さそうだけど…でも…やっぱりあまり良い気持ちはしないかなぁ…理佳子はどう対処して良いものか悩んでいた。中には下手に断って豹変する人もいるし…穏便に離れるにはどうするのが一番良いかなぁ…
翌日の朝
理佳子は学校へと向かう途中、あの少年が恥ずかしそうに電柱の陰に隠れて立っていた。理佳子は気まずそうに軽く会釈する。少年もはにかみながら頭を下げた。理佳子は対応に困りそのまま通り過ぎたが、ふと振り返ると少年は遅れて後を付いて歩く。理佳子と目が合うと慌てて反らすのだが、またすぐに理佳子に熱い視線を送っている。困ったなぁ…その気も無いのにいつまでもちゃんと意思を伝えないのも逆に悪いよなぁ…やっぱりハッキリと伝えよう。そして本田麻衣を見つけ
「おはよう」
「あっ、理佳子おはよう!最近何か感じない?」
「え?何が?」
「何か熱い視線…」
「………ちょっとね」
「ハハハ、理佳子も黒崎君にそんな感じで熱い視線浴びせてたんだよね」
麻衣が笑いながら言った。
「えぇ?うそぉ~…私そんな感じだったのかなぁ…」
「意外と自分のことは気づかないもんだからね」
「私そんなにたかと君困らせてないよぉ~!」
少年は二人の姿を目で追い、会話まで聞き耳を立てて聞いていた。
その日の放課後、理佳子は麻衣と二人で学校を出た。
「理佳子…今日はあの可愛い坊や居ないんじゃない?」
「うん…そうみたい…」
「なに?淋しいの?」
「そんなわけ…実は昨日…手紙もらっちゃって…
「え!ラブレター!?」
「そう…なるのかな…」
「なんてなんて?」
「付き合って欲しいとは言わないけど、たまに話ししたいとか…」
「キャー、可愛い!」
「麻衣!他人事だと思って!」
「でも、真面目そうな子だし…大丈夫じゃない?」
「そんなのわかんないじゃん!」
その姿をじっと見つめる影があることを二人は全く気付いていない。
清水先輩…清水先輩…くっそぉー!もう清水先輩、先に帰っちゃったかなぁ…何であいつ呼び止めるんだよ!これで今日清水先輩の姿見れなかったら絶対に藁人形に五寸釘打ってやるからな!石井祐太は全力で走って理佳子を追いかけた。
「それじゃまた明日ねぇ、バイバーイ」
そう言って理佳子と麻衣は途中で別れた。理佳子は人気のない路地を一人で家に向かい歩いていく。その時!
バッと陰から物凄い速さで理佳子に向かって動く影があった。理佳子はその足音に驚き振り向いた瞬間、腹を殴られうめいて気を失った。
あっ!清水先輩!石井は少し遠くに居る理佳子の姿を見つけ隠れた瞬間、怪しい男が理佳子に襲いかかったのを目撃してしまった。石井は恐ろしさで身体が固まって動けなかった…ヤバいヤバいヤバいヤバいヤバい…何とかしなくちゃ…何とかしなくちゃ…清水先輩…清水先輩が誰かに連れてかれた…そうだ!本田先輩がまだ近くに居る!急げ急げ急げ急げ急げ!!!
「本田先輩!」
本田麻衣は慌てて走ってくる可愛いストーカーの方へ振り返り
「どうしたの?そんなに慌てて…君は理佳子のストーカー君…」
「本田先輩…清水先輩が!清水先輩が!」
石井は泣きそうな顔で叫んだ。
「何?理佳子がどうしたの!」
麻衣もこの切羽詰まったただならぬ空気に動揺した。
「清水先輩が誰かに暴力振るわれて連れてかれました!」
「え!?嘘でしょ!?」
麻衣はすぐに天斗に電話をする。
「もしもし!黒崎君!」
「あっ!本田か!?どうしたそんなに慌てて…もしかして!」
「理佳子が!理佳子が危険な目に…」
「わかった!ありがとう!」
天斗は側にいた小山内と薫にそれを伝えた。
「小山内、頼みがある!」
「わーってるよ!急ぐぞ黒ちゃん!」
「悪い!重森…」
既に薫は仲間に連絡を入れている。そして三人は小山内の家にバイクを取りに帰った時、既に薫の仲間が小山内の家でバイクに乗って待機していた。あまりの迅速な対応に驚いたが
「この日の為に備えてたんだ。急ぐよ!たかと!」
「さっすがかおりちゃんだぜ!」
「あぁ、さすがだな…」
理佳子…無事で居てくれ…俺のせいで理佳子をこんな危険な目に合わせて…ほんとごめん…必ず助けてやる!怖いだろうけど…我慢してくれ…
「重森…理佳子の居場所はわかるのか?」
「うちらの情報網ナメるんじゃないよ!だいたい目星は付いてる!アイツら絶対許さない!」
黒崎、小山内、薫、そして薫を慕う仲間達一行はバイクで薫の目星を付けている場所へと向かう。
「おい、黒崎の女は随分と可愛いじゃねーか。あんな男にこんなちっちゃくて、弱そうな女は不釣り合いだなぁ。俺達のものにしちまおうぜ!」
「お前ら、ほどほどにしとけよ。黒崎達ならきっとすぐにここを嗅ぎ付けてくるはずだ。アイツらはどこにでも目や耳があるからな…女捕られて黙ってるような男じゃねぇ。」
ここは、某ビルの一室で暴力団関係者が使っている部屋だった。中はかなり広く30畳ほどあった。実際には部屋は何も機能しておらず、机一つ置いてないので声は反響して響いていた。このビル自体、ほとんどテナントが入っていないため少々騒いでも全く苦情も来ない。中では20人が理佳子を囲んで立っている。理佳子はうずくまって泣いていた。
「フッ…人質取ってりゃ俺達には手も足も出せねぇよ。お前の仇はちゃんと取ってやる。このお嬢ちゃんもかわいそうになぁ…あんな野郎と関わったばっかりに、こんな惨めな想いをするなんて…大丈夫だ!俺達が淋しく無いようにちゃんと可愛がってやるからよぉ~」
ハッハハハハハハハ!
「仇もいいが、ブツさばく女を無能にしてくれた落とし前もきっちり付けてもらわなきゃな!」
「うっ…うっ…うっ…ヒッうっ…うっ…」
「あらあら、かわいそうに声を圧し殺して泣いてやがるよ!たまんねぇなぁハッハハハ」
「虐めがいがあるよなぁ~」
「お嬢ちゃん、先ずは俺からだ」
や…やめてぇ…近寄らないで…たかと君…助けてぇ…たかと君…たかと君!
その時けたたましい爆音が聞こえてきた。
「ん?もしかしてもうアイツら来たんじゃねぇか?」
「思ったより早いな…」
「さすが黒崎だ、お前ら人質取ってても油断するなよ!あいつはマジでヤベェからな」
「心配要らねぇよ。誰も成せなかった黒崎潰し…今日俺達がその歴史にピリオド打つんだ!」
「おい!その女、奥に隠しとけ!あっさり連れてかれたら元も子もないからな!」
「このビルのはずだぜ!姉さん」
「ありがと!たかと、人質取るやつなんて臆病者ばっかりさ。一気にたたみかけて一網打尽にするよ!」
「かおりん…気をつけて…いざとなったら俺が守ってあげるからね…」
「小山内…ありがと!」
「でも…理佳子を盾に取られたら…」
「心配いらない!とにかく正面から派手に突っ込んで!」
「んじゃ行くかぁ~!」
小山内は気合いを入れて先陣を切っていく。理佳子…無事かな…もし指一本でも触れてたらその指全部へし折って二度と使えないようにしてやる!
理佳…すぐ助けてあげるからね…もう少しだけ我慢して…
黒崎、小山内、薫、そして仲間5人計8人。しかし、このメンバーでは相手20人は少し物足りないかも知れない…
「なぁ、天斗…あの石田がお前の女付け狙ってるとか変な噂立ってるらしいぞ」
「あぁ?俺の女?誰だそいつは…」
「またきっとお前の影武者の方じゃねぇか?」
「フッ…その影武者も随分と面白ぇ人生送ってんな」
ここは伝説の黒崎陣営、いつも黒崎の仲間が集まる場所だった。
「石田と言えば、女使ってあちこちでブツさばいてるって噂だ。」
「それがどうもあの薫に潰されたとかで、かなり怒ってるとか…」
「フッハッハッ、懐かしい名前出てきたな」
「薫も雲隠れはしたが、色々陰で暗躍してるらしいぞ…」
「フン、アイツも変わらねぇなぁ…」
「石田かぁ…もしあの石田をやれるとしたら…その影武者はそうとう出来るな…」
「あぁ…何せ俺の顔に唯一傷を付けた男が石田だからな…」
「それがさぁ~、もっと面白いのが、影武者の方はお前と同じ目の上に傷まであるんだとよ!こりゃ笑えるって!」
「ハッハハハハハハハ!世にも奇妙な物語じゃねーんだから…」
「とても他人とは思えねぇな…何かそいつに妙に親近感湧いてくるぜ…」
「今やお前の名前知らない奴はいねぇってぐらい広まってるが、影武者の方は薫と同じ学校に居るって話しも真しやかに囁かれているとか…」
「面白すぎるな!黒崎天斗と矢崎薫…再び結成か?」
「つーかよぉ…お前と影武者がはち合わせになったらもっと面白くねーか?」
「おぅ!見たい!見たい!それでどっちが本物の黒崎か、ここで決着つけよう!とか言ってな!」
ワッハハハハハハハ…
「まぁ、今の高校生だったら、全国どこ探してもお前より強ぇ奴はいねぇだろ!」
「それはどうかな…全国っていや知らないだけでもっと上がうじゃうじゃいるかもな…」
「いやぁ…あの矢崎さんはバケモンだったが、やっぱ居ないんじゃないかな…」
「穴場で影武者だったりして」
アッハハハハハ
「その影武者の名前が知名度上がって来たのはほんと最近だからなぁ…急にどこから湧いて来やがったのか…」
「もしかして…あの薫が…」
「まさかぁ…」
「でも無いとは言い切れないぜ…天斗だって矢崎さんと薫に鍛えられて来たんだろ?」
「……………あんまり薫の話しするなよ。思い出したくねぇ事まで思いだしちまう…」
「そうだな……………」
その時伝説の天斗の電話が鳴った。
「黒崎さん!あんたの女が石田に人質に取られたってのは本当っすか?」
「おい…どこからそんな話が…」
「石田の連中が動き出したって情報入って…それで黒崎さんの首取る気でいるらしいって…」
「……………ちょっと様子見てみるか。」
「良いのか?放っておいて…お前の影武者の女が犠牲になってるのに…アイツらクズだから、マジで何するかわからねぇぞ…」
「テメェの女一人守れねーようなら、黒崎天斗名乗るのは止めちまえ…」
「天斗…」
黒崎は影武者の実力を見てみたかった。本当に薫とつるんでいるのだとしたら…その名前が急浮上しても不思議では無いからだ。矢崎薫…お前は今でも…
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます