第35話
翌日の朝
天斗は下駄箱に紙が入ってることに気づく。
ん?何だこれ?黒崎!テメェは俺が殺す!今日の放課後屋上に来い!は?誰だ?
「黒ちゃんどした?もしかして!またラブレターもらいやがったのか?」
「あぁ…気色悪いラブレターな…」
「なぁーにぃ~!ちょっと見せてくれ!」
そう言って小山内は紙を取り上げる。
「フッ…果たし状か…黒ちゃん、ここは俺に任せとけ!可愛い後輩にちゃんと上下関係ってものを教えてやる!」
放課後、小山内は一人で屋上に上がってきた。
「何だよ…誰も居ねぇじゃねぇか…」
小山内がトボトボと屋上を歩いていると、後ろから迫り来る足音が
ダダッ
小山内が振り返った瞬間、顔面に何者かの両足が眼前に迫っていた!
ドカッ
小山内は不意をつかれ後ろにぶっ飛んだ。
「痛っ!誰だこの野郎…汚ぇ真似しやがって…」
小山内の鼻から血が出ている。
小山内先輩…大丈夫かなぁ…相澤信二郎は薫から朝の件を聞いて急いで屋上に向かっていた。
「何だよ…俺は黒崎を呼び出しのに、何で雑魚が来てんだよ…黒崎も結局はテメェじゃ何もしねぇ臆病者かよ…」
「あ?お前頭大丈夫か?黒ちゃんが一年坊主にわざわざ出向いてくれるとでも?おごるんじゃねーよ!」
「みんな結局は同じだ…みんな下っ端にやらせて、テメェは高見の見物気取って…おいしい所だけかっさらって…噂だけが一人歩きして有名人気取りだ…俺はそういう奴をみんなブッ倒して来た。嫌いなんだよ…群れてるお山の大将が…」
「そうか…お前はいつも一人か…淋しいんだろうなぁ…可哀想に…」
あっ!居た!小山内先輩いきなり鼻血出てんじゃん!
「あぁ?ブッ殺すぞテメェ!」
「まぁ、そうムキになるなよ…俺達と一緒に来いよ!仲間ってのは良いもんだぞ?お互い助け合って傷み分かち合って、くだらねぇことで笑い合って悩みごと相談し合って…群れるってのは楽しいぞ?」
「ケッ…吐き気がするわ!」
「じゃあよ…お前が俺を倒せたら俺がお前の下に付いてやるよ。で、お前が俺に負けたら俺達の仲間になれ!それでどうだ?」
小山内先輩…一人じゃ無理っすよ…その男は9人相手に無傷で勝った男なんだ!黒崎先輩でもない限り絶対無理だ…
「男に二言は無いな?俺が勝ったらあんたは俺の奴隷だぞ?」
「好きにしろ!お前は…仲間ってものを知らないんだろ?奴隷ってか…仲間には上も下も存在しねぇんだよ!もっとこう…一緒に居るだけで楽しくて、嬉しくなる存在なんだよ…人を物みたいに考えるなよ?」
「ごちゃごちゃうっせぇよ!死ね!」
加藤浩司が小山内に突っ込んで行く!加藤の右拳が小山内の顔面目掛けて飛ぶ!小山内が左手でその拳をガッチリと掴んだ。
え?嘘でしょ?あの加藤の拳を…
こ…こいつ…俺のパンチを…受け止めやがった…
「どうしたよ!一年坊主!こんなパンチじゃ…」
そう言って小山内は受け止めた手を大きく何度も振った。
「痛ってぇ~!なんてバカぢから…」
何だよ…反応遅ぇだけかよ…しかし…こいつの反射速度…尋常じゃねぇ…加藤のこめかみから冷や汗が流れる。
小山内先輩…すごい…もしかして…行けるのか?
「どうした?かかってこいよ!」
テメェ!調子に乗るなよ…加藤は自分の拳を止めた小山内の力に動揺している。黒崎でもない雑魚に…自分の力をねじ伏せられたような感覚に心が折れかかっているのだ。
「クソがぁ!」
加藤は至近距離から右足を大きく振り上げて小山内の顔面を狙う!ビュッ!その右足も空を切る。
「何だよ…どうした?隙だらけだぞ?」
「うるせぇ!うるせぇんだよ!」
加藤は拳を連続で繰り出しラッシュを浴びせる…が全て空を切り小山内には当たらない。そして…
ボコォ~!
小山内のメガトンパンチが加藤の顔面を直撃した。それはたった一発で終わった。決して加藤が弱かった訳ではない…
バ…バケモンが…黒崎先輩と加藤の他にもバケモンが…やっぱ世の中広い…この伝説のバカと言われた人は…本当は凄い人だったんだ…
「おーい?生きてるかぁ~?」
加藤は床に伸びていた。
「ん…んん…俺は…負けた?」
「お前なかなかセンスあるぞ!でもなぁ~…その拳はまるで狂犬そのものだな…相手を傷付けることのみに重点を置いてるっつーか…愛のない拳では誰の心も動かせないぞ?」
「くっそ…」
加藤はゆっくり起き上がろうとする。そこへ小山内が手をさしのべる。
「なぁ、約束だ!俺達の仲間になれ!」
そう言って加藤の手を引き起き上がらせた。
「俺は小山内清だ!」
加藤は過去の記憶を思い出していた。
「俺は松嶋だ!覚えておけ!」
くっそ…偉そうに…何が松嶋だ!だよ…タイマンでやる勇気も無いくせに…てめぇなんか、俺がこんだけやられてからノコノコ出てきただけじゃねぇかよ…全くどいつもこいつも口ではデカイ事を言いやがって…俺にも仲間が居ればこんな邪魔されずあいつをブッ倒せたのに…クソッ!
加藤はいつも一匹狼で仲間というものを知らなかった。誰かと群れるのは弱いもののすることだと思い込んでいたからだ。いつも群れの中にはお山の大将が居て、その大将の指図で子分達が集団で弱者を潰す。どこのお山の大将も力で統率を図っていた。もしタイマンでやり合えば大将の地位が崩れる…それを恐れ加藤と真っ向勝負をする者は誰も居なかったのだ。加藤はずっと自分がお山の大将になりたいと思っていた。そして今度は自分がその立場になって尊敬されたいという願望に呑み込まれていた。小山内と出会うまでは、仲間というものは自分の手足のように動く道具としてしか認識が無かったのだ。この人は…全然違うな…ハナから一人で待ってたし…卑怯な手も遣わず、俺の攻撃を全て出させた上で一撃くれた…とても敵わねぇ…これが…本物かよ…黒崎なんてどうでもいい!俺は…この人の為に…
小山内は加藤の肩をポンと叩き鼻血を垂らしながらニコッと笑った。加藤はその優しい笑顔を見て胸が熱くなるのを感じたが…
「約束したからにはあんたの子分になってやるが…いつか必ずリベンジして俺があんたの親分になるからな!」
「へへっ…挑戦なら何度だって受けてやるさ…だがな後輩…親分とか子分とか…そんな悲しいこと言うな!仲間には上下なんて要らねぇ!全て許し合えるのが仲間だ!お前の今までの悲しみは全部俺が受け止めてやるよ!もう淋しくなんかないぞ?」
そう言って小山内はガッチリと加藤をバグした。加藤は不思議とこの男からの気色悪いバグに包まれて温かい気持ちになった。この男は…まるで太陽だぜ…こんな感覚…生まれて初めてだ…なんて優しい温もりなんだろう…加藤の目には自然と涙がこぼれ落ちていた…
俺は…何で泣いてんだ…何でこんな男にバグされてこんなに嬉しいんだ?何で…こんなに…愛情?これが愛情ってやつなのか?これが仲間ってやつなのか?俺は今まで…何で仲間を作らなかったんだろう…こんなに温かい気持ちになれるなら…もっと早くに仲間欲しかったよ…
「小山内…先輩…俺を…仲間に…してください…」
「はっ?バカなの?だからもうとっくに仲間だって!お…お前…」
小山内は加藤の涙を見て全てを悟った。こいつ…ずっと愛情に飢えてたのな…その飢えた愛情が欲しくて、淋しさゆえに狂気の拳を…もう…大丈夫だぞ!お前はもう…一人じゃない!
小山内先輩!小山内先輩!カッコ良すぎッス!俺はあなたの事を誤解してました…小山内先輩最高ッス!そして信二郎も小山内をリスペクトする。それから加藤浩司と相澤信二郎は、まるで小山内の舎弟のようについてまわるようになった。
「小山内…お前…お供増えたな!」
天斗は金魚のフンのようについて歩く二人を見て大爆笑していた。
「黒崎さん…例え小山内先輩の親友だとしても、この人の事を笑うのは許さねぇぜ!」
「おうおう、小山内も人垂らしだなぁ~…お前、女にはモテねぇけど、男にはやけにモテるじゃねぇか!」
「黒ちゃん、花には水を!人には愛を!だ。それがじっちゃんの遺言だ…」
「そうかお前のじいちゃんもう亡くなってんのか…」
「いや、まだ生きてるけど…」
「紛らわしいわ!」
「お陰で私との時間は大幅に減ったけどね…」
薫が小山内を睨みながら言う。
「お前ら、俺の彼女が淋しがってるだろ!黒ちゃんの金魚のフン転がししろ!」
「何だよその…金魚のフン転がしって…厄介ごと押しつけてんじゃねぇよ…」
「厄介ごとって…黒崎先輩…そりゃ酷いッス…」
「なぁ、黒崎さん…俺はまだあんたの事を認めてねぇ…あんたが小山内先輩以上の器じゃ無きゃ俺は認めねぇ!」
「あぁ、そうかいそうかい…こっちはその方がめんどくさくなくて丁度良いぜ!」
「俺は黒崎先輩のこともリスペクトしてます!そして…かおり先輩のことも…」
信二郎は薫の方を目を伏せながら見ている。
こいつもしかして…重森のこと…マジか!どいつもこいつもドMばっかりだな…
ジメジメとした梅雨の時期に突入し、連日降り続いた雨もこの日は一旦休息を取る。薫の元カレ、武田剛の命日…薫は一人帰郷し剛の墓参りに訪れていた。剛…ごめんなさい…私のせいで…薫はお墓に花を添え、簡単な掃除をして線香を差して手を合わせる。そして立ち上がり、手で涙を拭った。振り替えると…伝説の黒崎天斗が立っていた。
「よぉ…久しぶりだな…薫…」
「天斗も来てたんだ…」
「あぁ…俺も…アイツを守ってやれなかった自責の念ってやつに…苦しんで来たよ…なぁ、薫…少し付き合わないか?」
「いいよ…」
二人は昔の仲間とよく練り歩いた街をブラブラと歩く。
「なぁ、お前…今でも剛のこと…」
そう言いかけて黒崎は止めた。
「愚問だったな…一生お前の中には消えずに居るよな…」
薫は黒崎の想いに気付いていた。しかし薫はそれをずっと知らないふりをしてきた。
「天斗…あんたは今でも彼女作らないの?」
「……………」
「私さ…好きな人出来たよ…剛のことを忘れさせてくれるぐらい良い奴でさ…」
「そっか…」
「何て言うか…剛と似てる所もあるけど…もっとバカっぽくて…単純で…理解力に乏しくて…変な奴なんだけど…」
「お前それのどこが良いんだよ…」
黒崎は思わず失笑した。
「あいつ…太陽みたいに温かくてさ…一緒に居ると…凄く優しい気持ちになれる…」
「どうりでお前の表情が牙を無くした虎みたいになってんのかよ…」
「あいつは私をか弱い女の子扱いしてくれるもん…いつも…私を守ってくれる…」
「そいつはめでてぇなぁ…お前を守れる男なんかにそうそう出会えねぇだろうからよ…」
「最近、あんたの目立った噂は聞かないね…」
「フッ…お前…俺の影武者とつるんでるって噂は本当か?そっちに色々ゴタゴタが回ってるからだろ?」
「たかとは…私の幼なじみだよ…昔、私が酷いこと言って疎遠になったけど…めちゃくちゃ根性ない奴でさぁ…あんなに弱虫だったのに…」
「お前がそいつを覚醒させたんだろ?ここ最近、急に出て来て…お前の学校に居るって噂が流れて来てよ…」
「うん…あいつは…異常だよ…喧嘩一つしたことないのに…短期間であの石田を落とした…尋常じゃないスピードで強くなった…」
黒崎は、なぜ影武者の天斗がそれほどまで強くなる才能があったのか、そのたかとの出生の秘密を知っていたが…あえて薫には話さなかった。薫の複雑な家庭事情の真実を薫本人は知らず…何故か黒崎天斗は知っていたのだ…
「まぁ、何にせよお前が思いの外元気そうでホッとしたぜ…」
「うん…」
「透さんは…元気か?」
「うん、元気だよ!今日ここで会ったって話したら喜ぶだろうね、きっと…」
「薫…透さんに宜しくな…」
「うん…言っとく」
「薫…」
「じゃあね…」
薫はあえて黒崎の言葉を遮った。それは黒崎のことを思ってだった。そして二人は別れた。黒崎は去り行く薫の後ろ姿を見えなくなるまで目で追っていた。薫…あの時…俺は…
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