第42話 塔へ(1/5)

 外側の奴らか……。


 俺は不意にアルの言葉を思い出していた。塔に向かう間、どこか頭に浮かんでくる。それにしても女神の奴らを殲滅しようとしていたら、さらに別の未知なる敵に遭遇数度するとは思いもよらなかった。


 しかもその未知なる敵は”外側の世界”との話だ。俺たちはこの魔法界に向けて、世界を超えてくることは比較的多い。どのように違うのかといえば、超えてくることに違いはなく、話の筋からすると体の構造がそもそも異なる別の種がやってくることになる。 


 壮大すぎるなと俺は思った……。


 世界のためになどと、殊勝なことは一欠片も気持ちはない。今は、力を手に入れるための準備以外に、避ける時間はあまりない。過度なヴォルテックスの使用ですら、苦戦した相手だ。通常の状態なら、太刀打ちできない可能性が高い。


 となると女神を殲滅するにせよ、この未知なる敵を相手にするにせよ、共通しているのは、力が必要なことだ。なおさら、早急に手に入れないとならないだろう。


――着いたか。


 ボンヤリと考えごとをしていたら、思いのほか早くついたようだ。

 鉄仮面がいうほど、難易度が高いのかわからない。高いと知っていて、こんなにいるのかというぐらいの人だかりだからだ。難易度などお構いなしに、順番待ちの列と思われる長蛇の列が続く。


「レン! なんだか凄い人だな!」


 どこかリリーは、はしゃぐ素振りすら見せている。恐らくは、百人以上の人の列がある。本当の意味で大蛇のようにうねるこの行列の姿は、圧巻の一言に尽きる。ここまでの賑わいを見せる場所など、そうないからだろう。俺もこの世界にきて初めてみる光景だ。


 最後尾に並んでも次から次へと人がくるため、あっという間にこの大蛇の一部となる。それだけ予想以上に早く進んでいく。普通に歩く速度と変わりないぐらいの歩速で進む所を見ると、即時転送されていくのだろう。


「思ったよりまたなかったな」


「そうだな! いよいよか!」


 俺はもう次に、転送の順番まできたことに驚く。目の前では光に包まれると消える、そしてまた次という具合に次々と進む。


「さて、いくか」


「行こう!」


 俺とリリーは、眩いほどの光に包まれて旅立った。


――ここは?


 到着した場所は、馬車が軽く十台は並走できるほどで幅広く、土が剥き出しになった道だ。両脇は、高さにして五メートルほどもありそうな、石の壁で覆われている。手をつないでいたからか、リリーとははぐれずに済んだ。周りには俺たち以外、誰もいない。


 この時点で、他の転送された奴らと遭遇しないのは、この場所が恐ろしく広いと言える。


 天気は良好で、快晴の空から降り注ぐ日差しは、暑くも寒くもない。道は真っ直ぐ続いていて先が見えないほど距離がある。俺は試しに道端の小石をいくつか拾い上げ、上空に向けて投げつけてみる。すると、ちょうど石壁の頂上付近で、見えない壁にぶつかったような動きで、石が跳ね返ってくる。


 数度試しても同じことから、上空へは行かせないようにしているんだろう。そうくるならばと俺のダークボルトを放って見た。すると、簡単に突き抜けてしまう代わりに、即時再生が始まる。


 ある一定以上の力には対抗せず、逃す方策なんだろう。


 俺はこのまだ何が現れるかしれぬこの場所で、未知の魔獣から魔石を採取する必要がある。他では得られない青紫色の物が必要だ。大小の大きさに関係なく、質がよくてさらに、数が必要とのことだ。


 今回もらった収納リング内にあった白い魔石が一つの判断基準になる。他の石とは異なり、この石が赤黒く染まったころ、程よく取れた証らしい。まったくいつになるのか皆目検討がつかない。


 唯一の救いは、人に転生したといえど元の悪魔の影響もあり、飲食はほぼ問題ない。妖精化したリリーも同じだ。


 俺たちは、道なりにすすこと約30分。何もまだ現れない。他の者とも出会わなかった。


 ただの様子を見ていると単に、散歩をしているに過ぎない。さらに歩き続けるとようやく変化が訪れた。


「何かいるな……」


「魔獣? 人? 私はいつでも大丈夫だぞ!」


 リリーはすでにフェアリーランスを準備していた。人型に見える影は、こちらに気づいていないのか動きが鈍い。どこかその場で足踏みをしているようにすら見える。


「確かこんな時に”疑わしき者はヤレ”と聞いたことがあるな」


「何、格言? 私は聞いたことがないな。でも正しいと思うぞ!」


 互いにうなずき合うと、即座に攻撃に移った。


「ダークボルト!」


「フェアリーランス!」


 黒と黄金の光の狂乱は、人影に向けて着弾した。多少の地響きと地面を大きく穿つ。当然ながら、肉の欠片すら残さずだ。


 しまった、やり過ぎたか……。


 予想外の柔らかさで、魔石が取れずに終わってしまった。未知な者相手に手加減などしたら、こちらがやられる。そう思うと、やり過ぎぐらいがちょうど良いかもしれない。


 再び道なりにいくと、多数の気配を察知し俺とリリーは同様に放つ。すると、人の悲鳴のような物が聞こえてきた。”相方以外は、すべて敵だと思え”かつて聞いた言葉だ。この場では、その話が正解だと、俺は考えていた。出会い頭での衝突など他愛ない。


 もしろこの迷宮にきた時点で、殺し合いは必然だ。相手を気にして攻撃などしている余裕は、今の所俺たちにはない。


「この肉は、ひとか?」


「どうやら、そのようようだね。仕方ない! 仕方ない!」


 リリーは妖精化してから、随分と割り切れるようになっていた。足元には多少の肉の欠片が残っていた。破損した装備からすると、人間かもしれない。どの程度いたのか、検討はつかない物の二人ばかり、辛うじてまだ息があった。


 石の壁にもたれかかり、そう長くはないだろう。ひとりは、両足は消え失せて多量の出血から虫の息だ。もう一人は、一見無事のように見えて大剣が腹に突き刺さっている。俺はそのままおいて過ぎ去ろうとすると何かをしゃべる。


 普段は気に止めない発言を今回は、聞いてしまう。


「顔……。口が……」


 何がいいたかったのか、その答えはすぐ目の前まで来ていた。

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