第12話 追手の襲撃と勇者たち(3/3)

「難儀ね……」


「難儀だな……」


 俺とエルは、魔力暴走をしたとある勇者に出くわす。なかなか行方が掴めなく、リリーの捜索は難航する。今は先に、目の前のことを片付けた方がよさそうな状況だ。


 白いブレザーで学生服のような服をきたこの少女は、見境なく目に付く者を襲撃している。この魔力暴走は、伝染するところが非常に厄介だ。近づかずに遠方から攻撃するか、面で制圧するかまたは、魔力切れを待つかのいずれかだろう。


 残念ながら町で発生すると、魔力切れが起きるケースはほとんどない。強襲する側が、相手の魔力を根こそぎ奪い取るからだ。つまり、常に許容量以上の魔力を蓄積していくので期待できない。


 悪魔でも例外なく伝染するため、蜘蛛の子を蹴散らすかのように逃げてしまう。まさに腫れ物扱いで、敵味方かかわらず忌避する。おそらく、あの周辺で襲われているのは、ただの住民だろう。魔力暴走は、それこそ何度でも見たことはある。ただ、一般町民だと知る機会が少ないし、知る由もないだろう。だからこそ、逃げ遅れているといってもいい。


 確実な方法は、まず逃げること。そして可能な限り近寄らないこと。これがすべてだ。餌となる摂取対象がいなくなれば、勝手に自滅していく。


 次々と感染していく早さが尋常ではなくて、物の数時間で町一つが壊滅するぐらい感染することもある。

エルのもつ面制圧としての力に頼るわけにもいかず、この場は退避することを考えはじめた。


 その矢先、突然背後から声がかかる。


「レン。俺は引き上げる」


 バルザが突然現れた。こいつがいるなら、目の前の勇者以外はもういないんだろう。


「終わったのか?」


「終わりだ。最後のひとりがあれじゃ、損しちまうからな」


 言わんとすることがわかる。労力をかけたところで暴走しているやつだと、勇者としての性質は大抵失われている。つまり、倒しても討伐数として、数に上がらないのだ。バルザはやることなすこと脳筋野郎なのに、こうした費用対効果は、かなり気にするおもしろいヤツだ。


「そうか。……またな」


「ああ。またな。他の連中は、とっくに引き上げた。もうここには、俺とお前以外に、悪魔はいない。それだけは伝えておく」


「ひとり女で、大剣を振り回す剣士は見なかったか?」


「ああ……。それなら、あっちの方角にいたぞ」


 バルザは俺の背後をまっすぐに指差す。


「助かる。じゃあな」


「レン。達者でな」


 こうして俺たちは別れて、リリーを探しにいく。ここにいる暴走女は放っておけばいい。自ら関わることもない。


――いた!


 バルザに教えてもらった方角に向かうこと数十分。奇妙な者と対峙しているのが見えた。あれがなんでこの場所にいるのか、不思議でならない。そうあれは、ダンジョンの中層ぐらいにいる近接型の魔獣だ。この辺りだと、魔力が維持できないはずで、どうしているのやら。


 あの程度なら問題なさそうに見えて、少し動きを見てみる。すると一匹しかいないにもかかわらず、疲労が蓄積しているように見える。どういうことなのかと様子を見ていると理由がわかった。


「復活しているな……」


「復活しているのね……。どこかに再生の魔力が隠されているのかも……」


 あれでは、逃げるに逃げられない。倒した瞬間に復活していたら、攻撃する側は疲労がたまる一方だ。方や復活した側は、元気いっぱいという感じだ。これでは埒が明かない。どうりで、探しても見つからない訳だ。あれでは、あの場所に釘付けにされたも同然だ。しかもリリーなら、クソまじめに対峙してしまう。性格的にも離れることが出来ないのは、容易に想像がつく。


「魔力の供給源か……。エルわかるか?」


「そうね……。おそらく、あの赤い屋根の家辺りから感じ物があるわ」


 俺はこの魔獣の背後付近に周り、告げる。


「リリー! 魔力元を見つけた! もう少し耐えてくれ」


「レン! わかった!」


 安堵した様子が、機微な表情の変化でうかがえる。よほど繰り返したので、疲労は相当な物なのだろう。これでようやく終わりが見えるとなると、力も湧いてくる物だ。


 俺とエルは、気配の感じる家に着くと、ドアを蹴り破って中に突入する。どこか気持ちはSWAT隊員だ。中は当然ながら誰もおらず、あるのは伽藍堂となった部屋の中央に訝し気な、魔獣の頭骨と魔法陣さらに供物がある。これは、なんらかの儀式にも見える。つまり、最初から仕組まれていた可能性が高い。


「これは……。このまま破壊してしまえばいいのか?」


「レン待って。これならこうして……」


 エルは何やら、手のひらから水をジョウロで撒くかのように、銀の粒子を振り撒いた。すると唐突に、すべてが真っ白な灰になってしまう。エルは背中の羽で風を起こすと、跡形もなく消え去った。


 家の外に出ると、あの筋骨隆々な魔獣は消え去っている。これで、何度も繰り返された戦いは終わったのだろう。リリーは、めざとくこちらを見つけると、疲れているにもかかわらず駆け寄ってきた。


「レンー!」


「リリー無事か?」


 見た目からは、負傷もしておらず問題はなさそうに見える。


「私は無事だ。ただ疲労が激しいな。レン助かった礼を言わせてくれ。ありがとう」


「気にするな。無事ならそれでいい」


「レン……」


 思わず見つめあっていると、エルが横から声をかけてきた。


「レン、このまま教会にいきましょう。今なら邪魔が入らず書物を探せるかもしれないわ」


「あっああ。そうだな行こう。リリー疲れているところすまない、いけるか?」


「問題ない。私は大丈夫だ。二人がいてくれるなら安心できる」


「わかった。ではいくぞ」


 俺たちは、教会に向かう。理由は、あの場所にどうやら”焼印師”に関する書物があるらしい。なぜ、彼らが持っているのかは謎ではある。なんらかの関係性があるだろうか。それは、悪魔の時に探した書物の中には一切関係する素振りなど書かれてはいなかった。


 もしくは、意図的に隠していたのか。それはこれから読めばわかるだろう。なんとしてでも”あの力”を手に入れたいそのためには、どうしても焼印師を探さねばならない。


 俺はどこか焦りすら感じるほど前のめりになってしまう。教会は目前だった。

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