第13話 真実と事実の狭間

「これは……」


「どうしたレン? ん? たしかに、妙だな」


     リリーも気にするほどの異様さが、そこにはあった。


 教会の外側から、損傷は見受けられなく堅牢に見える。扉を開くとそこには、笑顔が張り付いたままの神父たちが、整列して集まっていた。礼拝堂の席から、注目している視線の先にいるのはエルだ。


 皆一堂に、声をあげる。


「天使さま……」


 そうエルは、あの天使の羽を惜しげもなく披露して、金と銀の光の粒で纏われた姿になっていたのだ。金色の光の粒を振りまくと皆一様に跪き、祈りを捧げたまま微動だにしない。


「今、幻覚を見せているわ。死ぬまであのまま。生きて目覚めることは、ないわ」


   エルは、そう説明する。さりげない気遣いと認識して、俺たちは気にせずそのまま書庫に向かう。


    書庫は入り口すぐの場所にあり、難なく見つかる。大抵重要な書物は、最奥の鍵のかけられた場所にある。なので進んでいくと、扉が見つかった。それ自体はどこにでもある物で、厳重さは感じられない。あの話しを真に受けているのは、俺ぐらいなんだろう。ほとんどの者が、おとぎ話程度にとらえている。単に、古い書物としての扱いなのかもしれない。


    俺は”あの者”から聞くまで、知らなかったことでもある。俺たち悪魔がもともともつ可能性については、知らなかったことでもある。むしろ、都合よく歴史から、消されたようにも見える。その理由は、ことごとく書かれていた書物が失われていたからだ。


    それだけでないのは、あの力は非常に危険だとも言われている。口伝でしかないその話は、悪魔の心臓に焼き印を入れて、”とある力”を呼び出すことだ。焼き印を入れられたその心臓は、黒心臓とも呼ばれ、恐れ畏怖されていた。


   そしてそれを行えるのは、”焼印師”と呼ばれる者だけで、今では絶滅したと聞く。何かに触れて怒りを買い、消滅させられたとも聞くし、危険すぎるため一族すべて暗殺されて淘汰されたとも聞く。他には、危険を感じて俗世とは縁を絶ったとも聞く。どれが本当かは謎で、今いえるのはどれも消えたことだけが共通している。


    そこでエルの存在だ。彼女がいうには、あの力は彼女のいた世界の秘術らしい。となると焼き印師たちは、もともと異界の者たちだったのだろうか。疑問が頭を離れていかない。


     俺たちは鍵を壊し中に入ると、普通の書物となんら変わりなく並べてある。やはり古い書物として、保管されていただけなんだろう。人族では、心臓に焼き印など入れよう物なら、死んでしまう。ゆえに、突拍子もない古い創作物としての価値だったのかもしれない。ここの厳重さからはそう感じた。


    俺たちは手分けをして、焼き印師について書かれている書物を探す。リリーは極度の疲労なのか、さっそく寝てしまった。


--数刻後


「エルあったか? 俺は一冊だけだ」


「そうね。めぼしいのは、これだけね」


    二冊ほど机に置かれたそれは、内容は以前みた物と同じで表紙だけが違うものだった。俺も目新しい物は見つからず、わずかに帝国で何かあったようなことしか記述を見つけられない。


     その何かとはかつて拠点が幾つかあり、その内の一つが帝国にあるようなことを触れている。ただし、具体的な内容は不明だ。もう一つの発見としては、教会などでも保管されるほどの伝記であることだ。


    ここで疑問がでてくる。この焼き印の施術は、人族に施すことはない。言い方を変えると、出来ないとの表現が正確かもしれない。それなのに、拠点が複数もあり、活動していたのは不思議でならない。焼き印師としての活動ではなく、何か別の物でカムフラージュしていた可能性がある。何故なら、この魔法界においては、一部の者は焼き印を入れていたのだ。当然人族以外の他種族で、魔族よりや悪魔側の者ならば、入れること自体は耐えうる。だとすると、ここに滞在していたそのような者達に、施していたのかもしれない。


 では一体、何のためにかだ。歴史から抹消されて、存在すら秘匿されるぐらいの力を与えられる者たちなら、賞賛されど否定されることはない。だからこそ、それだけ強力な力で、何と対峙していたかだ。あの書かれている強さから想定する限り、”異界の者”と指す。それが勇者なのかドラゴンなのかまたは、神たちなのかすら大雑把な情報が何も残っていない。 


 この限定された情報だけで考えると、対峙していた者たちの情報の一切が消えている。それも、忽然とだ。この不自然さには、不気味さを感じていた。


……なぜ、拠点が複数あったのか? 人族に施せ無いのにだ。

……なぜ、力を必要としていたのか? 秘匿されるほど強力な物を誰に使うのか。

……なぜ、対峙していた者のことが何一つ残っていないのか? 力の大きさからして、伝承に残っていない不自然さ。

……なぜ、忽然と歴史からも消えたのか? それだけの規模で記されない不自然さ。


 もしも、その対峙していた者の支配下に置かれて、監視対象だとしたら不都合はすべて消される。俺はそう結論づける他になかった。エルもまた近い考えで、この魔法界におかける支配者が、深く絡んでくる可能性は否めないでいた。


 それだからといって、諦めるような物ではない。焼印師により近づくための考察は必要だと、常々思っていた。


 どうやら俺が探し求める力には、何かいわくがありそうだ。

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