第10話 追手の襲撃と勇者たち(1/3)

「ようレン。そのなりで、どうやって殺すんだ? 魔法か? 串刺しかそれとも押し潰すか?」


 この男は何をニヤついているのか。まるで、勝利を確信しているかのような素振りを見せる。多少なりとも悪魔同士で見知った奴だ。自信をもつのはいい。ただ相手を選ぶべきだろう。


 それに、どうやるかは決まっている。こいつも知っているはずだ。


 俺は、手のひらを正面にむけ答えた。


「この手だ」


 俺は人で賑わう大通りのど真ん中で、ダークボルトを声の主に向けて放つ。


 奴には一声もあげる暇さえ与えず、空気を切り裂く轟音とともに消し去った。周囲は黒い雷で焼かれて、溶かされ消失した。当然目の前の奴は、チリ一つ残っていない。


 この昼間に追手が迫るまで気が付かない俺は、迂闊すぎた。


 残りの奴らはどこにいるのか、仲間とははぐれてしまい探しながら、今度はこちらが追手を攻める。



――数刻前


 俺たちは新たな王都に着くと、目的の図書館に向かう。そこで”焼印師”の情報を探る。ただここには、想定外の来訪者がすでにいた。


 つまり”追手”だ。


 俺は何としてでも、ここの書物で確認したかった。ゆえに、図書館での争いは避けて路上に出る。今ここで俺の”制限”を知られるわけにも行かない。それに数少ない書物は、見つけ次第見ておきたい。


 ところが、仲間と認識されたエルとリリーの二人とは、短距離転移魔法陣の罠にかかり分断させられた。こうなるとそれぞれで、各個撃破するしかない。


 俺と今対峙しているのは、長身の細剣をもつ男だ。気怠そうな見た目に反して、動きが素早い。


 この男は、無数とも思える刺突を、周囲に関係なく街中で繰り出す。その剣先あてられた者たちは、血飛沫をあげて倒れていく。怒涛の勢いで、お構いなしに死体を踏みつけて奴は迫る。


 リーチが違いすぎるこの間合いは、かなりやりずらい。残念ながら武器は今手元にない。ダークボルトは回数制限もあり、多用はしたくないとろろだ。


 俺が防戦一方になりだしかけた頃、意外なことにかつての同郷だと思われる人物が、横槍を入れてきた。


「ちょっと! あなた達、街中で何しているの?」


「……」


 答える義理も義務もない。そして他とは雰囲気が異なるこの者に対して、細剣をもつ男も様子をみている。それだけ、敏感な反応を示すのはおそらく”勇者”だろう。


 この邪魔をしにきた奴は、俺と変わらず十五歳程度の見かけだ。遠くからは、勇者様などという声が聞こえてくる。ますます面倒な人種と確定した瞬間だった。


 ただこいつは、大きな勘違いをしている。諭すべき相手は俺じゃない。奴だ。


 この女を盾に見立てて、奴の攻撃をかわしても意味はないだろう。想像する未来が目前に迫る。


 なぜなら、奴にとっては俺とそれ以外としか認識していないからだ。それを証拠に奴は、背後からこの女ごと先の刺突を繰り出そうとしている。ところがこの女は、一発目だけはふせげたようだ。


 背後から迫る攻撃を、なんらかの防御壁を使い防いだようで弾いた。どうやら感はいい。


 ただ残念ながら、その勝ち誇った顔はすぐに苦痛で崩れることになる。奴の刺突は無数なのだ。ガラスの割れるような音が響くと、その透明な何かは崩れ落ちる。瞬く間に血飛沫を吹き上げて、膝から崩れ落ちてしまう。


 それを目撃した仲間なのか、名前を叫びふたり目が飛び込んでくる。


「メグミー!」


 瞬間移動かと思うほどの速度で、俺と奴の中間にやってくる。すでにこときれた女の亡骸を抱きしめて叫ぶ。異様な覇気から、奴は身動きが取れずにいる。するとこの泣き叫ぶ男は、こともあろうか激昂して、俺に詰めよってきた。


 どいつもこいつも、なんで俺なんだと嘆きたくなる。


「お前のせいで! お前のでせいで!」


「何を勘違いしているんだ? 」


「死んだ! 死んだ! 死んだ!」


「お前の背後の奴だ。串刺しにしたのは」


 だがこいつには、俺の言葉は響かない。


「お前がそこにいるから! メグミが殺されたんだ」

 

 感情が昂りすぎて混乱している様子だ。ならば、お勧めがある。


「アイスコーヒーでも飲んだらどうだ? 冷たくて落ち着く」


「ふざけるなー!」


 急激に激昂してくる。残念だ断られた。俺なりに気を利かせたつもりだった。


 光り輝く両手剣を召喚したかと思うと、上段から一気に振り下ろしてくる。この際だ仕方ない。


「ダークボルト!」


 俺の手のひらから放たれた黒い雷撃は、この一帯をすべて飲み込む。目の前の奴も刺突の男もそして、周囲の人もすべてを飲み込み消滅させた。


 これでようやく片付いた。願わくは、射線上にリリーがいないことだ。


 今回は、エルの”執行者の審判”は使えない。理由はリリーがいるからだ。まだ彼女には魔剣の恩恵がないため、使えば消滅してしまう。魔剣自体は眠ったままなので、起こすことはできず防げない。そのため、各個撃破が今回の戦法だ。


 この凄惨な場所に、またひとり横槍を入れてきた者がいた。


「お前! 日本人じゃないのかよ!」


「……」


 唐突に雄叫びをあげる、もう一人の同年代風の奴がいう。答える気はないし構っている暇もない。過ぎ去ろうとすると目の前に立ち塞がる。


「なんとか言えよ!」


「……」


「見ていたんだぞ! たしかにメグミをやっていない。あいつの勘違いだ。ただそれだけで、アイツを殺すことはないだろ? いいやつだったんだぞ?」


 先の奴より、状況は見えているようだ。だが、答えない。


「……」


「答えろよ!」


「いい奴は死ぬのか?」


 俺は問う。


「ああそうだよ! 死んだんだよ。いい奴がな!』


「お前はいい奴か?」


 俺は再び問う。


「わかんねーよ」


「……」


「グボッ! ゴフォオォ……」


 胸を貫いて、心臓を握り潰す。


「死ぬ奴はいい奴だ。証明できたな」


 仰向けに倒れたこいつを放り出して、新たな気配を察知し走る。

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