第48話 再会

 俺たちは、また塔の前まで戻ってきた。変わらず町は賑わい続けていて、長蛇の列は変わらない。途中惨殺された者たちの話もない。町自体がおかしいのではないかとすら、思えてくる。


 とはいえ、俺たちは目的を果たしたわけだから、この塔の町にもう用はない。


 次なるアイテムを探しに向かう必要があるのだけど、”ヴェーダの涙”なる物はどこにあるのか検討がつかない。アルに言わせれば、探し当てるのも一つの試練だそうだ。手間をかけるのは仕方ないにせよ、俺にとって試練など、どうでもいいとすら思っている。


 試練なんぞ、ケツ拭く紙にもなりゃしねえ。プライド一緒に犬にでも食わせておけばいいんだ。


 俺は実利にしか興味がない。ただアルは、アイテムを得る過程で何か、副次的な物を掴むことに、期待をしている素振りがある。

 

 そうした意味では、蓮次郎の所持していたハンドガンのカートリッジを得たのは僥倖だった。もといた世界の文字やアイテムの意味も気になる。今思い起こせば、確かに日本人はいた。俺もそうだし、他にもいた。経緯まではこの元の持ち主の記憶は残っていないため、わからない。


 そうなると、俺を付け狙っていたあの日本人の女か……。すると聞き覚えのある声が聞こえてきた。


「レン! やっと会えたね!」


 振り返るとそこにあの女がいた。確か名前は……。


「ヒナミ……」


「へへ。ちゃんと名前で呼んでくれたのね。ねーそこのひとだれ?」


「私か? 私はリリーだ。レンと共に旅をしている」


「ふぅん。旅ね……。レンはどこにいく気なの? ねえまた私を置いていくき?」


 なんだこの女は。瞳孔が開きっぱなしで、こちらを見つめてくる。何かの力を感じることもない。見た目はこ綺麗にしており、はっきり言って美人だ。

 

 何者なんだこいつは?


 普通じゃないのは俺たちもだ。さらに輪をかけて、こいつはどこかおかしい。目つきがイカれている。確か悪魔で同じ目をしたヤツがいたな……。


 ――アルーシャ。


 賞金稼ぎのあいつと同じだな。首をはねたとはいえ、恐らくはどこかで復活しているんだろう。同じ類の奴だ。思い込みが激しく、己の美学に突き進む。自分の信じる愛のためならなんでもやる。ある意味本当の意味で怖いやつだ。本当にお近づきになりたくないタイプだな。


 そんなアルーシャに似た女が、今目の前にいるヒナミだ。


 まったくどうして俺の周りには、イカれた奴らが集まるんだかな……。思わずため息をついてしまう。


「レン? 今、他の女の人のこと、考えていたでしょ?」


「ヒナミには関係ないだろ? じゃあな」


 俺とリリーはこの場を離れようとすると、服の裾を掴まれる。何んだ。何がしたいんだ?


「私もいく」


 どうやら、何を行ってもついてくるんだろうなと、思い始めてきた。


「俺たちは、一切何もしない。それでもついてくるなら拒まない」


 飲食をしない意味でも、あるんだけどな。


「それでもいい! あたし決して今度は、レンから離れない」


 強い意志を感じさせる目で、こちらを見つめる。どこかこの目に、記憶があるような気もする。元の蓮次郎の記憶か俺の記憶が定かではない。俺たちの体の事情とは違うだろうにな。仕方ない食料などは囲んでおくかと思い始めてしまった。


 飲料と食料品を買い込んだのち、”ヴェーダの涙”の手がかりを図書館で探すてことにした。せめてヒントは欲しい。だめもとでアルに尋ねると、返ってきた答えは”妖精郷”だ。どこのとも言わずただその一言だけだった。


 ヒントが無いよりはマシだ。


 俺とリリーは図書館に向かい、妖精に関わる本を片っ端から集めて調べ始めた。少ないかと思いきや、焼印師や召喚師の時と違い膨大な量になる。一体何日かかるんだという量だ。この本の数では、宿に数日止まるしかなく、しばらくはこの町に足止めだ。


 宿は、ヒナミも泊まっている場所を偶然借りてきてしまった。本人は喜んでいるところ、こちらはそんな気分ではない。まずは閉館時間まで俺たちはひたすら関係のありそうな本を読みまくっていた。


「リリーどうだ?」


「レン……。私は何か修行をしている気分になってきたぞ」


「たしかにそうだな……。手がかりがあれば気は紛れるけどな。今日のところは、引き上げるか」


 なぜかヒナミも手伝っていたので、こうなると邪険にはできない。


「ヒナミありがとう。今日はもう大丈夫だ宿に戻るぞ」


「うん! レンの手助けができてよかったー。明日もやるんでしょ?」


「ああ。見つかるまでな」


「なら、私もそうする」


「ヒナミは、金は大丈夫なのか?」


「それなら数年は遊んで暮らせるぐらいはあるわ」


「そうか……。俺たちも金には困っていない。ならお互い焦らずにだな」


「ねえ、レン。――覚えている?」


「何を? だ」


「……うん。やっぱ、なんでもない」


「そうか」


 俺たちは本を片付けると、宿に向かう。帰り際、思い出したことがあった。ハンドガンとマガジンだ。まだ、どの程度なのか試していない。魔法なのか物理的なのかすらもわかっていない。


 俺は歩きながらおもむろに、ハンドガンとマガジンを取り出した。


 脳裏にデザートイーグル・レンカスタムと名前が浮かび上がる。すべてそろったことで、扱い方も浮かんでくる。一旦宿に戻る前に、町外れで木を相手に試してみることにした。


「すまない。少し試したいことがある」


 リリーは銃を見て不思議そうな顔をし、ヒナミは目をきらきらさせてうなずく。対照的な二人だなと思いながら町外れを目指してあるいた。

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