第32話 幻影の町

 俺たちは歩き続けていた。

ちょうど翌日の夕方ごろになると遠くの町が見える。

どうやら、あの町はリリーが言っていた町だろう。


 まだ、遠目にしか見えないものの規模はそれなりにありそうだ。

ただ産業が何かにより、さびれ具合が変わる。

この辺境地域なら、なおさらだろう。

俺たちは黙々と歩き続けていた。気になることがあり考えていたのだ。


 異変を感じている。


 女神が、目の前に現れることが多くなってきた。

俺の居場所を掴めたからなのか、それとも何かの前触れなのか……。

神殿で幻影を見せるのは、いよいよ何か近づいている気がする。


 女神連中の力を持ってすれば、町の幻影を作るなど造作も無いこと。


 見極めは正直なところ難しい。そこまで精巧に作られている。

確実なのは、死んで遺体がそこに残れば本物だ。


――数刻後


 荒野の中に忽然と現れる町は、どこか奇妙に感じる。

なぜ、こんなところにあるのか、不思議でならない。

残念ながらそれについての回答は、誰も答えることが難しそうだ。


 辺りの様子からすると、東西南北と道が伸びて交差した場所にある町だ。

つまりは、予想すると中継地点として活かされているのかもしれない。

かなり馬車や人の往来が多くて、活気があるようにも見える。


 その場合、次の地点までは距離があると見ていいだろう。

わざわざ途中下車するための、休憩用の町みたいな物だからだ。

そうなると、長距離転移も期待できるかもしれない。


 俺たちはそのまま町に入っていく。


 行き交う人々が多いせいか特別、検問をしていることもない。

門付近にいる軽装の衛兵は恐らくは、魔獣の侵攻がある場合の伝達役だろう。


 今のところ、俺たちを襲うような奴はおらず、また追手もさすがにここは予期していないようだ。

教会の存在だけは確認できた。町の中で一際目立つ、鐘撞き塔があるからだ。


 ひとまず俺たちは教会に向かった。

長距離転移の場合は、教会が魔法陣を用意していることが多いらしい。

リリーからの情報によるとだ。


「レン、教会に確認することがおすすめだぞ。あそこになければ恐らくは、

ないことの方が多い」


「ああ。情報助かるよリリー」


「教会関連なら任せてくれ」


「頼りにしているさ」


 建物の規模としてはそれなりに大きい。かつて見た教会の二倍以上はありそうだ。

このあたりも人でにぎわうところを見ると、どこに行っても多そうだ。


 教会の入り口付近にいるシスターに声をかける。


「長距離転移は、ここにあるか?」


「ええありますよ。サルベルトまでならいけますよ」


 わからない致命が出てきたのでリリーに確認してみる。


「……ちょっとまってくれ」


「リリー、わかるか?」


「帝国領から十日ぐらいの位置にある町だよ。だいぶ近づけるぞ」


「そうか。助かる」


「シスター。そこまで三名頼めるか?」


「ええ。問題ないですよ。金貨三枚です。

ただ今日はもう終わっているので明日朝に、また起こしください」


「ああ。わかった助かる。またくる」


 今回はタイミングが悪かったようだ。仕方なく俺たちは、宿に泊まることにした。

宿も空き部屋もすんなり見つかり、今は部屋の中で皆くつろいでいる。


 この様子だと、どうやら幻影でもなさそうだ。


 問題は女神連中に位置が割れている場合は、ここの町で襲撃を喰らうことだ。

せっかくの長距離転移をムダにしたくない。襲来があるなら、ある意味このまちを守りぬかなければならない。


「もし、襲撃があったら、この町を守るぞ。特に教会は必須だ」


「ええ。わかったわ。私たちの貴重な足がわりですものね」


「わかった! 私も頑張るぞ! でも妖精化して大丈夫か?」


「それについては問題ない」


「それでは、私も心置きなくやるぞ」


 そう話していると、嫌な予感はどうやら当たるようだ。

鐘撞きの塔からは、大きな鐘が鳴り響く何度も何度もくりかえされている。


 宿を飛び出し店主に聞くと、何かの危機が訪れた場合にこの鐘がなるという。

付近を見渡すと、皆それぞれが空を見て騒ぎ立てている。


 何か降下してくるのかと見上げた。


「レン、残念なお知らせね……」


「ああ。そうだな」


 まだ遥か上空に見えるそれは、以前にも姿形で似た奴を見たことがある。


「あれは、ガブリエル」


「大天使か……」


 この町が戦場になるのを防ぐため、俺たちは町の外に向かった。


 何か探す素振りを見せているのか、まだ探し物の位置をつかんでいない。

大天使はゆっくりとあたりを見回す素振りから、確実だろう。


 恐らくは、ここら辺にいるから殲滅してこいと言われた可能性がある。

その場合厄介なことは、範囲殲滅魔法をした時だ。


 どうやら今回は、それをする仕草は今のところ見せていない。

珍しいこともある。


 それならば先制攻撃で、町の外から放てる。

俺とエルとリリーは、攻撃の準備をして一気に奴に仕掛けた。


「ダークボルト!」

「インフェルノ!」

「フェアリーランス!」


 三者三様の攻撃が大天使目掛けて、降り注いだ。

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