第35話 女神の力 壮絶! エル!

「エル、リリー俺に構わず、見つけ次第全力ではなて」


「わかったわ」


「任せておけ!』


 この際、誰が止めをさそうと大した問題ではない。俺のもう一つの目的は女神全員が死ぬことだ。

ゆえに、手順や止めなどどうでも良く、最終的に全て消滅することが着地だ。


 いずれ上位の者が現れた時に力不足は否めない。過去の俺とは違うとはいえ、やはりまだ力が及ばない可能性の方が高いと思っている。そのための焼印師なのだけど、肝心の当人が見つからない。


 恐らくはアルアゾンテが何かを知っている。焼印師を見つけるには一番手っ取り早いと考えていた。


 俺たちの攻撃はひたすら続けられた。女神は諦めたのか、何もいって来なくなる。

奴の半身は消滅して、腕も吹き飛び、足は折れる。幾重に魔法を重ねても、あの光は女神の損壊した体を復活させている。キリがないといえばそうかもしれない。


 終わりが見えない……。たしかに現状をいうならそうだろう。


 相手は女神だ。しかもエルの世界の女神からも何か支援を受けている様子。

その場合は、今のように苦戦が続く。現状の打破は、一度様子をみるのがいいかもしれないと思ってきた。あの女神が支援されることも当然、光の女神が支援することも

理由がわからない。


「エル、リリー手を止めよう」


「様子を見るのね? わかったわ」


「わかった!」


 勇者殲滅以来の、全力で撃ちまくった結果が目の前にある。ところがどうだ、また再生している。

こうなると、その力の源を断ちたいところだけども、どこにあるのかかがわからない。


 最初のころと比較して、再生速度は少し落ちたような気がしなくもない。


 先とは様子が違う……。なんだ? 何をしようというのだ?

女神が? メタモルフォーゼでもするのか? 


 人型の女神が再び修復されたかと思うと、全身から金色の粒子を振り撒き始めた。

頭頂部あたりから噴き出るように溢れ出る。


 表情は……。いつもの歪んだ笑みで、奴の顔なのは間違いない。

何か含みを持たせて、頬をあげながらせせら笑う。


「もう遊びは終わりにしましょう。レン、長い付き合いだけどあなたまだ”ツマラナイ”わ」


 女神はなんてことの無いかのように告げてくる。


「……何が言いたい?」


「あら、やっとまともに聞いてくれたのね。私、嬉しいわ。だって、あなたのこと好きだもの。

あなたの悔しそうな顔、とても好きよ。怒りに震える激情も素敵ね。今の心の支えは誰かしらね?」


「……失せろ」


「そんな、寂しいこと言わないで。あっでも、立ち去ったらね……。

次に会うまで、恋焦がれて胸を焼くのもいいかもしれないわ」


「何が言いたい?」


「私も進化はするのよ? 女神だから、そこで限界とかそれはないの。

知っていた? あなた方とは違うけど予兆はあるの。今回のようにね」


「何ッ!」


 あの光に食われるかと思いきや、反対にこの女神が食いやがった。

みたらし団子のように、白い柔らかそうな何かに金色の蜜をたらしたその物は、

女神の口に放り込まれる。


 ゆっくりと味わって咀嚼をする姿は、まるで楽しんでいるようでもある。

そんな姿を見せると、最後飲みこんでしまう。


 その動作に、何の意味があったのか………。女神の髪や目が再び、黄金色に満ちていく。

神格の変化とでもいうべきなのだろうか。まるで、存在のあり方が異なる。


 この時突然、顎骨指輪の声が降ってきた。


「汝の敵は我の敵。気をつけよ! 目の前の奴は、今までと同じ存在とは思わないことだ」


「どういうことだ?」


「あの悪意は……。我にも限界が見えぬ。心してかかれよ。”滅却”が使えるまでに、まだ時間がかかる」


「どのぐらいだ?」


「その時がきたら教える。その代わり、ヴォルテックスは”自由”に使えるようにしよう」


「自由に?」


「本当の意味での自由だ。汝に今死なれては、我も困るゆえに……」


 消え入るように顎骨指輪は、声を落とす。


 こちらの会話などお構いなしに、女神の力は再現なく膨れていく。

あの女神だった者は何に変わったんだ。


「チッ! 奴め。力の波動が女神とは違うぞ」


 俺は思わず舌打ちをした。


「レン! あの女神何か変だ! レンの力に似たものも感じるぞ」


「何?」


 リリーは何かを感じたのだろう。妖精化してから機敏に変化を感じとれるようになっている。


「レン、女神には天使の力は通じないわ。唯一抵抗できるのがこの魔剣……」


「エル、守りに徹してくれ。ムリだけはするな」


「わかったわ」


「リリーもな」


「ああ。気をつける」

  

 俺たちは一斉に力を解放した。


「ヴォルテックス!」


「アストラル・ルヴニール!」


「執行者の炎! インフェルノ!」


 それぞれが最大の力を放ち力で押していく。


「ダークボルト!」


「フェアリーランス!」


「インフェルノ!」


 黒と赤と金色がおりなす狂乱は、女神に一斉に降り注ぐ。


「何ッ!」


 その時だった。


「ダークランス!」


 女神が放ったのは、俺のダークボルトを遥かに凌ぐ物だった。黒い雷をそのまま槍にしたような、無骨な物を俺に目掛けて放つ。


 早すぎた。もう避けきれない。ここまでなのか!


「レンッ!」


 俺の目の前にエルが光の早さのごとく、やってきた。やめろ! やめてくれ! 

俺の心の叫びは届くわけもなく、俺の代わりにエルが背中から槍を喰らう。


「エルー!」


 俺は戦いの真っ最中だというのに、エルを抱き寄せる。止めどなく溢れる血が俺を染める。

まだ暖かい血が、エルが生きていると実感させる。けれども、血を止められない。


「なぜだ!」


 エルは俺の頬をそっと触れ一言呟く。


「レン……。生き……て……。あな……たを……」


「エルしゃべるな! 大丈夫だ!」


「あ……い……して……」


 エルは言い終わると、全身の重みが一気に俺の体に降りかかる。


「エルー!」


 俺の体は叫び、心が震えて、激情が脳を焼いた……。


 女神はそんな俺を、笑みも絶やさず見つめる。

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