第34話 神殿

「四回目か……」


 このような方法で復活をはたす天使は、はじめて遭遇する。

エルもガブリエルがこのような能力を持っているのは初耳らしい。


 天使同士は大抵、知らない能力がないほど互いの力がしれわたっている。

エルのような後天的に手に入れた魔剣による物以外は、相手の知らないことを探すのが困難なぐらいらしい。


 それなのに、この奇妙な復活の仕方は、エルも知らない。

だとすると、当人の力でない可能性の方が高い。

では、何なのか? この疑問にはエルが答えてくれた。


「恐らくは女神よ、私たちの世界のね」


「世界により、女神は違うと見て良さそうだな」


「ええ。あの神殿で見た物がレンの知る女神だとすれば、私のいた世界の女神は別物だわ」


「どんな物だ?」


「端的にいうと見た目は光よ。光り輝く球体といえばいいかしら。

そこに大いなる意思が、集約されている感じね。私は馬が合わないけどね」


 そこまで違いがあると、まるで別物だ。俺のいた世界では、完全に人型。

他に、存在を見たことがないというぐらいだ。

今まで見聞きした者は、人のしかも女性の形をしている。

意図してそうなのか、それとも神族がそうなのかはわからない。


 そうなると、先まで現れたガブリエルらしき物は、女神の分身なのだろうか。


「女神の分身が力を分け与えた……。その可能性はあるか?」


「ええ。十分にあるわ。損傷を受けた天使たちは、女神の光と同化して傷を癒すことがほとんどなの。そのことを考えると今回の件は、非常に当たり前で自然にも見えるわ。ただ、女神側がわざわざ現れるのは、なぜかしら……」


「何かあるな……」


「ええ。イレギュラーよ。きっと予想し得ないことが、起きるかもしれないわ」


 俺たちは、攻撃を再開した。


 今回はガブリエルの再生が、先と比べると異常に遅かったからだ。

だからこそ、少しの間観察と考察ができた。


 まだ再生中の状態のまま攻撃を三人で加えていると、変化が訪れた。 


「この一帯を変化させる気か?」


「ええ。そのようね。どこかとつなげるつもりかもしれないわ」


「私の魔力が何か変わる気がする」


 リリーは何か変化を感じとったようだ。


 当のガブリエルは、度重なる再生で今や何かはわからない。天使だった物は今や肉団子の状態だ。

そして、ガブリエルの変化と同様に周囲も変化した。


「神殿?」


 俺は思わず、声にした。


 今まで見たことがある神殿とわけが違う。白い林立する石柱は白大理石の床にたち、高い天井を支える。辺り一面は白の大理石で覆われて、ホールのような作りになっていた。


 一体俺たちに、何をさせたいのか……。

唐突に訪れた変化に戸惑いつつも、ガブリエルはあの肉団子からいつ変異するかわからない。

復活の懸念を払拭するため、三人で攻撃を続けた。


 最終的には俺のダークボルトで欠片も残さず、消滅させる。

終わりにするにしても、この状態だとどこにいるのかわからない。


 すると周囲に銀と金の粒子で満たされていく。まるで、はじめてエルを召喚した時に

現れた力の奔流が溢れ出してくるかのようだった。


「さすがに綺麗だな……」


 リリーも思わず見惚れてしまうこの光景は、俺は二度目だ。言いたいことは理解できる。

あの時は、召喚の時だった物の平時であれば、美しさを感じる余韻がある。

まるで、琴の調べに酔いしれるような雰囲気さえ持っている。


 濃霧と呼べる霧が消えてゆき、残ったものは再び玉座がある。


 またかと思いつつもただの椅子には変わりない。俺もエルもリリーも顔を見合わせた

あの塊は一体なんだろうと。


 するとそこに現れたのは”光”だ。眩いほどの光が玉座に舞い降り、置物のようにたたずむ。

球体だった物が楕円をかたどると少しずつ形が変化していく。

 どうやら人の姿をまねるようだ。近づ ほど、不信感が募る。

残念というべきか、俺がよく知っている奴に非常によく似ているからだ。


「なぜだ……」


 俺は思わず言葉を漏らす。


 なぜ? どうしてか? 再び現れるその姿に間髪入れず俺はいう。


「ダークボルト!」


 怒りに似たその怒号は、黒い雷となり椅子ごと消滅させる。


 すると背後から声が聞こえてきた。


「随分と寂しいのね……」


「……」


 不敵な笑みを浮かべて、まったく同じ玉座に腰掛ける者がいた。

交わす言葉などない。あるとしたら、聞かせるのは……。別れの言葉だ。


「ダークボルト!」


 俺は間髪入れずに放った。

どういうことだ? 俺の知る世界の女神とエルの世界にいる女神両者が合わさっている。

理由や要因などはまったくわからない。今わかっているのは、憎い女神がいることだけだ。


 再び黒い雷撃に飲み込まれた女神は、消失したかに思えた。


「会話ぐらい、させてもらえないのかしら?」


 何を勘違いしているのか、自分らは何も間違いはないと問題はないとでも言いたげだ。

俺から返す言葉は決まっている。


「ダークボルト!」


 再び現れた姿形は、跡形もなく消失して何もない。


「ねえ、どうして……」


「ダークボルト!」


「ちょっ……」


「ダークボルト!』


「まっ……」


「ダークボルト!」


 聞く耳すら俺は持ち合わせてはいない。あるのは奴を消滅させるための言葉しか知らない。

それに話かけて何かをしようというのは、あのクソ女神の常套手段だ。

 まるで、起き上がりこぶしのようだ。現れては放ち、また視界に入れば消失させどれが何度でも続く。


 終わりなどない。あるとするならば、女神全員が死んだ時だ。


「いい加減に……」


 良いも悪いもそんな加減はない。俺は完全に消えるまで放ち続けた。

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