第24話 熾天使ラファエル 激震(2/3)

「レン! 今よ!」


「行くぜ!」


 エルの作ってくれた隙を最大のチャンスと考え、瞬時に間合いを詰める。

目の端から耳の先端まで、鋭い風が瞬く間に過ぎ去る。

俺は、再びゼロ距離で放つ体勢をとった。


「ダークボルト! ーー何ッ!」


 放つ直前俺は、腕ごと方向をずらした。

理由は、エルにすり替わっていたからだ。即座に対応できたのは、奇跡に近い。

奴が一瞬ニヤついたので、何かあるとわかっていても咄嗟の対応は負荷が強い。


 消えた奴は、当然元いたエルの位置にいる。


「レン!」


「エル、大丈夫か?」


 今回ので、腕が少しの間使い物にならなくなってしまった。奴の狡猾さに踊らされた代償だ。


「ええ。おかげで少しだけ羽が損傷受けたぐらい。これなら大丈夫よ」


 あれだけの損傷で済んだことに、内心ほっとしている。最悪消し飛ばしてしまうところだった。


「すまない。奴のあの力は?」


「知らないわ。連続して使えるのかもどうか」


「そうか……」


「レン、試してみたいことがあるの」


「なんだ? いってくれ」


 かつてエルが、降臨した時のことを伝えていた。あれは、血塗れの状態の時だ。

どうやらエルはあの血塗れこそが、最大の力を発揮できるらしい。


 ならば、是が非でも協力を惜しまない。

俺は、躊躇なく自身の腕を切りつけて、血をエルに振りまく。

滴り落ちるほどまでになると、恍惚な表情を一瞬向けてくる。


「レン……。ありがとう。これで、決める」


「ああ。頼んだぜ」


 ただ、気になることはあった。


 なぜ、この間奴は攻め込んで来なかったのかだ。俺たちのやりとりを、ニヤつきながら眺める様子は、まるで揺るがない自信からくる物だろう。


 俺たちはそこまで傲慢さは無い物の、あの態度だとまだ他にも何かあるようにしか思えない。しかもその力は、俺たちの精神を瓦解させるのに、十分すぎるほどの手の内があるとみている。


 ――颯爽と飛び立ったエルの猛攻は続く。


 執行者の剣をまるで重量が無いかのように振り回し、巧みに奴を攻める。

上段から踏み込むと、大剣をまっすぐ振りかぶる。そのまま回転し、勢いをあげてさらに切りつけにいく。その角度を回転と同時に変えながら縦横無尽に切りつけを繰り返す。


 連続したその剣筋は、次から次へと繰り出されるため防戦一方になる。


 あの剣技は、これまで研鑽してきた物だろう。恐るべき速度を誇る。

方やカマエルは、羽も使い防戦一方だ。

苦戦しているかと思い行きや、どうやら様子が違う。


 何かのタイミングを、待つような素振りすら見せる。一体何をしようというのか。

奴の手の内は、まるでわからない。その間にもエルの猛攻は続く。


 インフェルノをまとった剣で切りつけたかと思うと、真逆の冷気としてコキュートスを展開して、多彩な攻撃を見せる。それだけでなく、執行者の剣からさらに、執行者自体を召喚して駆使する姿も見せる。

 執行者自体は黒いローブに包まれており、素性がわからない。見た目通りに黒い魔法を放ったかと思うと、肉弾戦に持ち込むなどもして果敢に攻め立てる。


 執行者は、黒い球体の魔法を出現させる。その大きさは拳ほどであり、自動追尾のようだ。それを無数に作り出して、被弾させていた。さすがにこれには耐えられなかったのか、被弾するたびに血飛沫が舞う。


 エルの剣技と執行者の連携は、恐ろしいほど息があう状態だ。速度・力・魔力どれをとっても、人型の俺の体では、太刀打ちできないほどだ。


 どのくらい猛攻が続いているのか。


 時間はかなり、経過しているように感じる。エルの剣技にも執行者の動きにも、疲労感は見えない。むしろ執行者の方が、動きはよくなっているようにすら見える。


 反対にエルの動きは変わらない物の、どこか様子がおかしい。全体的に存在が、薄くなってきているようにすら見える。もしやと思いリリーのフェアリーアイでみてもらうと、存在が薄まってきているのは確かだった。


 つまり、今使っているなんらかしらの技は、諸刃の刃なのだ。


 自身の存在と引き換えに、力を得ているにすぎない。では何故、天使固有の力を使わないのかというと。以前聞いた内容は、天使同士だと互いのエネルギーとして吸収できるようになっている。そのため、天使固有の魔法は天使同士には、効かないし使えないと行っていた。


 だからこそ、執行者の剣頼りで魔法頼みなわけだ。


 ――これは、まずい。


 そう遠くない未来に、消滅の危機を意味する。現状リリーの力では、カマエルに対して、ほぼ傷をつけられないでいた。リリーはフェアリーランスで、援護射撃をしている固定砲台の状態だ。


 奴はこれを狙っていたのかもしれない。時間が経過するほど、奴にとっては有利になる。それは、このエルの消耗からみて取れる。


 俺はこの時、激しく身が焼かれるような、そんな思いがよぎった。奴にとって、おそらくダークボルトは、脅威と考えている可能性が高い。そのため、あの入れ替え魔法を駆使したと予測できる。しかも再度使うには、相応の時間が必要とみている。あれ以来、一度も使用がないからだ。


 再び鳴らない心臓が高鳴る。


ーーまたか!


 以前と変わりない響きが胸に伝わる。ドクンともう一度鳴る。


ーーお前はだれだ?


 危機感が募ると現れるのでは、遅すぎる。


「汝よ、久しいな……」


「お前……。なぜ任意のタイミングで渡さない?」


 俺は、声の主をこの戦いの最中で問い詰めた。


「汝よ、相応の代償がいる」


「何がだ?」


 俺はこのもったいつける話に、苛立ちを感じていた。


「人の魂だ……。だが、今はあるまい?」


 代償のタイミングが悪すぎる。この場所で、そんな物をえる手段はない。


「代わりに何がいる?」


 俺は焦っていた。エルの存在が、俺の目からみても薄まっていく。時間がない。


「汝の時だ……」


「時? だと?」


 何をいっているのかわからない。ただエルの危機が迫る。


「汝の体を乗っ取る時間だ」


「どのぐらいだ?」


「三分、汝に提供しよう。その代わり十倍の三十分をもらうぞ。それが契約だ」


 この三十分が後々、何が起きるかなんて考えている暇もない。


「わかった、くれてやる!」


 俺は、力が欲しい……。


「契約成立だ。ならば叫べ、”ヴォルテックス”と。さすれば扉は開かれん」


 この選択に今、俺は賭ける!

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