第44話 塔へ(3/5)

「チッ!」


 相殺と言えるのか、俺の方がやや力負けしたのは否めない。奴の体重を乗せた巨大な拳は、塔が俺の頭上に落ちてくるほどの迫力と威力で圧迫していく。俺は、自身の体の頑丈さだけに助けられた格好だ。力の大きさは、地面が陥没して、俺自身の足も膝まで埋まるほどの威力を見せている。


「レン!」


 リリーの心配そうな声と同時に、力強い励ましの声のようにも聞こえた。今は、ただの一発を耐え切っただけだ。すぐにでも次の攻撃がくる。奴は何を思ったのか、俺たちの頭上に大きな影を落とす。体全体で押し潰そうと飛び跳ねてきたことで、月明かりを遮る。


 さすがにこの力へは、魔法防御なしでの拮抗は難しい。


 俺たちは即時、範囲外に回避をする。まるで自虐的な笑いを誘うとしているのか、自重と勢いで全身が地面に埋まってしまう。ある意味、非常に滑稽な行動だ。


 奴は両肘をたて、懸命に体を地面から押し返す。


 勢いよく飛び出した体は、そのまま勢い余って背後に倒れてしまう。やることが豪快な上、単純な行動が多い。


 恐らくは動物に近いのかもしれない。だとするとその延長戦上に奴がいるとしたら、野生動物とも言える。野生なら、無駄な争いを一切しない。そのことを考えると、奴にとっての俺たちは、興味本意での”遊び”に近いのかもしれない。もしくは、テリトリーに入ってきた獲物と見ているかだ。


 それだけならば、劣勢でも勝機が見えてくる。リリーの耳元でこれからの作戦を伝えた。


「――やれるか?」


「ああ。問題ない」


 俺たちは、奴が起き上がる前に、後退をして距離を稼ぐ。起き上がった後は、ゆっくりとした動きに変え少しずつ後退をし始める。奴は疑問に思ったのか、つゆ知らず、不思議そうにこちらを眺めている。


 楽しい物でも見つけたのか、嬉々としてこちらにゆっくりと近づいてくる。まだ遊んでもらえるとでも、思っているんだろう。ある程度の距離が取れた俺たちは、地面に跪くと両手を地面に当てた。


 俺たちは、作戦通りに魔法を互いに使う。用意ができたところで、動きを止める。この方法で、奴を迎え撃つ準備ができた。どこか加虐的な様相に満ちた笑みを浮かべて、ゆっくりと近づいてくる。どうせ俺たちは逃げられないとでもおもっているのだろうか。


 今度は、こちらが狩る番だと内心思いつつ、この場は奴の歩調に合わせて後退した。


 いよいよだ、奴の次の一歩で決まる。今度はこちらが用意したテリトリーに奴は足を踏み入れた。この瞬間である、存在したはずの地面が崩れ落ち、何が起きたのかわからないような顔つきでヤツは落ちてゆく。


 魔法が直接効かなくとも、魔法で周囲を作用させることはできる。


 落とし穴に落ちた奴の身動きを取れなくさせるため、一瞬にして濡れた砂で埋め尽くしてまう。ちょうど鼻の下あたりまで埋まってしまい完全に身動きが取れなくなった。


 俺たちは、驚いて暴れないようにゆっくりと近づく。当然ながら、先ほどまで届かない顔のしかも目の位置がすぐ先にある。俺は右側に、リリーは左側に行くと、魔法を放った。


「ダークボルト!」


「フェアリーランス!」


 そう目だけは、アンチマジック化をしていないのだ。俺の魔法もリリーの魔法も奴の目穿ち、後頭部を突き破った。同時に勢いよく、脳漿のうしょうをぶちまける。ここまできてようやく勝てた。


 安堵していると、重たい物の落ちる音がした。そんな響が聞こえてきたので、奴の頭の後頭部に近づくと、魔石が落ちている。


「頭の中にあるのは、はじめてだな」


「私もはじめてみるぞ!」


 大きさは、俺の頭と同じぐらいの大きさの物が一個見つかる。すぐにしまうと再び道なりに進む。


 しばらく進むと、軽くみて数十人規模の人々が、血みどろになり倒れている。あの様子はどう見ても、即死に近い。

何が起きたのか、倒れ方を見ているといきなり倒れた感じはする。


「なんだ? 全員横側面から、何か貫通した後があるな」


「私の方も同じだ。何か変だな?」


「リリー! 両サイドの壁に向けて弾幕を張れ! 今すぐだ!」


 俺も急いで両腕を広げて、ダークボルトを左右の壁に向けて放つ。リリーも同様に、フェアリーランスを放った。この時、光の奔流に飲み込まれたかと思うほどの直線的な光が、左右の壁から放たれた。

 わずかな間だけ、光が交差する。恐らくは、この光の筋にやられたに違いない。後からでは、相殺が間に合わない攻撃だ。彼らの死のおかげで俺たちは、無傷で済んだ。


 光の攻撃が止むと同時に、俺たちは走り出す。


 また、いつこの攻撃が来るのかわからない。唯一の方法は、ここから逃げることだ。十分ほど走り抜けると、十字に交差する場所に遭遇する。俺たちは、曲がれる箇所はすべて、左側に曲がることで統一をしてきた。今回も同じだ。


 今までの戦いを振り返ると、あの大蛇のような行列が、できる理由がわからなかった。


 どう見ても難易度が高すぎる。俺たちでさえ、苦戦を強いられる物ばかりだ。可能性としては、転送された位置により、当たり外れが大きいのかもしれない。


 予測では、ほとんどの場合が、容易な場所なんだろう。俺たちのような高難易度の場所は、ごく稀に起きるとそう解釈ができる。そうでなければ皆、帰らぬ人となって、近寄る者自体が減るだろう。当然行く人が少なくなれば、おいそれと命を投げ出すわけにも行かないので、廃れてしまう。そうさせない何かがあるのかもしれない。


 そうでない限り説明はつかないだろう。ただ、俺たちの行く道は困難しかなかった。


 困難さを証明するかのように次は、目先に見えるのは背丈三メートルほどの白い甲冑に身を纏う騎士がいた。盾

を構えて片手剣を持ち、一人で置物のように微動だにせず、待ち構える姿がそこにあった。


 なぜ置物でないかと言えるかは、一定間隔で白い息を履いていたからだ……。

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